第20話 来客
「レイコ様、マホ様、ミホ様、アカネ様、今日の部屋の移動はなくなりました」
朝食に出るため着替えをしていると、私達のお世話をしてくれているヘルガさんが伝えてくれた。
「ヘルガさん、聖女様がやっぱり反対されたのですか?」
「いいえ、皆様にお客様です。お客様の応対にはここの客間をお使いになったほうがよろしいかと、聖女様のご判断です」
「そうですか、で、お客様とはどなたですか」
「はい、先代の騎士団長、ヴェローニカ妃殿下です」
ヴェローニカ妃殿下は聖女様達と関わりが深いと聞いている。聖女様達が8才の頃からの付き合いだそうだ。ふつうより4年も早く8才で女学校に入学した聖女様達を支え、鍛えてきた。当時妃殿下はここ聖騎士団の前身第三騎士団を率いていた。第三騎士団は女騎士団であったから、聖女様たちを育てるには良い環境だったのだろう。ルドルフくんも聖女様や妃殿下たちにより、ここ第三騎士団で産まれたという。
朝食時、ネリス先輩が言っていた。
「ヴェローニカ様が玲子ちゃんたちに会おうというのは、遅いくらいじゃな」
フローラ先輩は、
「まあ普通なら離宮に押しかけてきちゃうだろうけど、ステラ様がいるからね」
ステラ様とはミハエル第一王子殿下とヴェローニカ妃殿下の第一子である。まだ1才なので、ヴェローニカ妃殿下は夏の間ステラ妃を置いて離宮に来ることはできなかったのだろう。
朝食をとって部屋にもどり、なにかしまい忘れとかないかチェックしているとヘルガさんが告げた。
「ヴェローニカ妃殿下がいらっしゃいました。お通ししてよろしいでしょうか」
「お願いいたします」
とてもとても美しい女性が入ってきた。すらりと背が高く、肩幅も広い。端正なお顔は輝くような金髪にも負けていない。
「レイコさん、お初にお目にかかります。マホさん、ミホさん、アカネさん、こんにちは。第一王子妃のヴェローニカです」
言葉は丁寧だが、どこか余裕のある口調である。これはおそらく、こちらの出方を探っているのにちがいない。
「ヴェローニカ妃殿下、はじめまして。お世話になっています。私達は聖女様の後輩というか知り合いというだけです。どうかお気楽にお話ください」
私はこの部屋の臨時の主人として、ヴェローニカ妃殿下を上座に案内する。すると妃殿下は、
「いずれ聖女さまもいらしゃるでしょう、ここは聖女様のお席にされたほうが」
とおっしゃった。もっともなご意見だし、そもそも私は宮廷の礼儀作法などよくわからない。妃殿下のおっしゃる通りにしようかとも思ったが、妃殿下のニヤッとした笑顔が気になった。
「妃殿下には聖女さまも以前から大変お世話になったとおききしております。聖女さまもこの席順のほうが気楽なのではないでしょうか」
と言ってみたら、
「ほう、さすがは聖女様の後輩だな」
と返された。
「ヴェローニカ様!」
聖女様の声が聞こえた。
見ると聖女様を先頭に、ヘレン先輩、ネリス先輩、フローラ先輩が入ってきた。みなさん小走りである。先輩たち四人が、どれだけヴェローニカ妃殿下と親しくしているのかわかる。
「なんだなんだ聖女様、久しぶりなのはたしかだが、何年も会わなかったわけではないだろう」
先輩たちはなんと皆、涙目であったのだ。
応接用のテーブルの周りに、ヴェローニカ様を一番の上座にして9人で座った。着席したところで聖女様は人払いをされた。
「ヴェローニカ様、お久しぶりです」
聖女様の言葉にヴェローニカ様は、
「聖女様、人払いして、その話ですか?」
と返事した。聖女様は続けて、
「アン、でおねがいします」
「わかった、アン、どうした」
「ヴェローニカ様、実は私達にとっては、ヴェローニカ様にお会いするのはほとんど1年ぶりなんです」
「なんだ、二月も経ってないだろう。そうだろう、ネリス」
「いえ、聖女様の言うとおりです」
「なに!?」
しばらくヴェローニカ妃殿下は考え込み、やがて発言した。
「ということは皆、むこうに行っていたということか」
「はい」
私は心臓が止まるかと思うほど驚いた。私達の最大の秘密をこの人は知っているらしい。
聖女様が話を続ける。
「結婚式の夜、私達8人は向こうにもどりました。そのときルドルフが一緒に来てしまったんです。ルドルフは向こうではドラゴンの姿も人間の子どもの姿もできて、私の子として育てていました。1年近く向こうで生活しました。なにがきっかけかよくわかりませんが、再びこの世界に来たのですが、玲子ちゃん、まほちゃん、みほちゃん、あかねちゃんの4人はルドルフが連れてきちゃったみたいなんです。向こうでこの4人と親しくしていましたから」
「そうか、それは皆、大変だったな」
ヴェローニカ妃殿下は優しい目で私達を見た。
ヘレン先輩が説明する。
「みんな、あのね、ヴェローニカ様はね、私達があっちから来たことを知ってるの。知っているのは国王ご夫妻、王太子ご夫妻、あとは聖女庁の幹部とネリーだけ。だから安心して」
しばらくいろいろな話をした。主にまほちゃんたち子どもたちの教育についてである。いくらなんでも女学校に放り込むわけにはいかないので、そういう年齢になるまで聖騎士団で生活することになった。私はといえば、聖女様の秘書のような立ち位置で働くことになる。ただ、いつでもぴったりくっついて行動するわけではないらしく、よくわからない。
とにかくこれからの生活のアウトラインを決めたところで、ヴェローニカ妃殿下は私に聞いてきた。
「レイコ、君の年齢は実のところいくつなんだ?」
「22です」
「ほかの3人はどうだ?」
「まほちゃんは8才、みほちゃんとあかねちゃんは5才です」
「そうか、見た目通りなんだな。それは良かった」
「どういうことですか?」
「いやな、この4人とパートナーの男子たちだがな、見た目は十七だが中身は四十だからな」
「はあ」
「こいつらはだな、最初こっちに来たとき向こうで23才、それでこっちで生まれ変わって十七まで育ったわけだ。またあっちに2年位いたんだから、完全に40を超えてるわけだよ」
「なるほど」
「私は今年で30になったわけだが、この子達は見た目と違って中身は40だよ。だまされるなよ」
「だますだなんて」
「いやな、私はこの4人を妹のように思っていろいろと手をかけてきたわけだよ。だけど私より実質10も年上だと言うじゃないか、完全に騙されたよ」
そこまで黙っていたフローラ先輩が発言した。
「ヴェローニカ様、その話はそれくらいになさらないと、聖女様がステファン殿下か国王陛下に告げ口して、めんどくさいことになりますよ」
「ああそうだな、年の功でそういうテクニックは私より詳しいな、ああ、怖い怖い」
聖女様は口を尖らしていた。それに気づいたネリス先輩がその口を手で摘み、あかねちゃんとみほちゃんが大笑いした。




