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第19話 騎士団と旗

 平原を進み、窓の外は田園地帯になった。畑は秋の日を浴びて金色に輝いている。美しい光景に私は見とれた。子どもたちも同じようで、3人共窓の外に釘付けになっている。その景色の中で少しずつ民家が見えるようになってきた。王都が近いのだろう。

 馬車は横の景色しか見えないから、王都がどれだけ近づいているのかわからない。子どもたちの手前、首を出して前をみるのは憚られていた。急に田園の景色がなくなり、建物だらけの景色になった。外を見ていたみほちゃんがこっちを向いた。ほかの子たちも皆こっちを向いた。

「王都に入ったんじゃない?」

と一応言っておく。

「じゃ、もう着くのかな?」

「そうじゃない?」

 私は本心からそういったのだが、気がついたらその都市を通り抜けた。

 あかねちゃんが聞いてきた。

「れいこちゃん、途中で大きな街通るんだっけ?」

「う~ん、なかったと思うんだけどね」

 するとまほちゃんが言う。

「さっきの、王都だと思うよ。聖騎士団って、王都の外れだって聞いた気がする」

 私も思い出した。

「そっか、そうだね。まず聖騎士団に行くんだ」


 まほちゃんの考えは正しかった。畑の間を少し進むと、すぐに建物の中みたいなところに入り、馬車は停車した。


 馬車から降りると、3階建ての長い建物の前だった。その建物の前に沢山の女性騎士たちが整列している。建物の反対側は見通しの良い土地が広がっていて、ところどころに馬術の障害のようなものも見える。まちがいなく聖騎士団に到着したのだ。


 騎士団の建物は西日を浴びて、茶色く輝いている。今朝までは真っ白な離宮であったがここは騎士団、軍事施設なわけだからまず、機能性が重視されているのだろう。

 その考えは建物の中に入ってみるといよいよ正しいと感じさせられた。1階の廊下は石張りであり、壁にもなんの装飾もない。ただ、とてもきれいに掃除されている。訓練で騎士や兵士は泥だらけになることもあるだろうけど、その人達も歩くであろうこの廊下に泥汚れなど無い。規律がきちんと守られているのだろう。


 ヘレン先輩に案内されるまま、ひとつの部屋に入った。そこは離宮のような、美しい部屋だった。花が活けられ、聖女様とステファン殿下の肖像画も飾られていた。離宮と同じく、寝室と客間と言うか応接室が別れている。あきらかに賓客用の部屋である。みほちゃんとあかねちゃんは無邪気に「わ~い」と言って走り回っている。まほちゃんはそのふたりを慌てて捕まえ、

「そんなふうにしたら、中のもの、壊しちゃうよ。こんなきれいな部屋、今夜だけだよ」

と言って、私に視線を送ってきた。

 言いたいことはわかる。こんな豪華な賓客用の部屋は、子どもたちには良くないということだ。二人を抑えるのはまほちゃんに任せ、私はヘレン先輩に小声で話しかけた。

「先輩、せっかくのご厚意ですが、まほちゃんの言う通りだと思います」

「うん、やっぱそうだよね」

「ということは」

「うん、聖女様がね、一番の部屋にしろって、聞かなかったんだ。殿下も私達もさ、聖女様の気持ちがわかるからさ、あんまり反対できなくてね。ネリーさんも反対してくれたんだけど、泣き落とされた」

「じゃあやっぱり、今夜だけお世話になって、明日から普通の部屋にしてもらえないでしょうか」

「わかった。聖女様にそう伝える」


 ヘレン先輩はそう言って出ていった。部屋には私達4人と、離宮からついてきてくれたヘルガさんが残った。ヘルガさんは、

「それではみなさん、お茶をお淹れしますので、ゆっくりしてください」

と言って、部屋の片隅の茶器を扱い出した。

 私は足がむくんできているのを感じていたので、みほちゃんとあかねちゃんの荷物から室内履きを取り出した。幸い荷物の一番上に入っていた。ヘルガさんがすぐに使えるようにそう入れたに違いない。私は二人の室内履きを持って行くと、まほちゃんが駆け寄ってきた。

「みほのは私やりますから」

「いいよ、まほちゃんは自分の履き替えしちゃいなよ、私、二人の履き替えやっちゃうから」

「あの、多分みほの足、臭いです」

「おねえちゃん、ひどい!」

 みんなで笑った。みほちゃんは靴から自分の足がでたとき、

「クサ!」

と言ったので、もう一度笑った。


 お茶をもってヘルガさんがもどってきたとき、ヘルガさんに謝られた。

「申し訳ありません、お手を煩わせてしまって」

「とんでもない、お仕事、とっちゃってごめんなさい。早くお茶を飲みたいし、足も楽になりたかったから」

「いえいえ、とんでもないです」

「ヘルガさんこそ、足、大丈夫?」

「大丈夫ですよ、私達はちゃんと要領よくやってますから」

 確かにヘルガさんの足元は、旅で履いていた編み上げの靴でなく、離宮内でいつも履いていた靴になっている。

「いつ履き替えたの?」

「職務上の秘密です」

 その笑顔は美しかった。


 その夜は騎士団の大食堂で、騎士のみなさんといっしょに夕食をとった。私たちは大きな旗が2つ貼られた奥の席に案内された。幹部席ということらしい。まあ今夜はお客様あつかいでそれもいいだろうが、明日からは一般騎士たちの席に混ぜてほしいと思う。そのほうが早く知り合いもできるだろう。


 食後席を立ったとき、振り返ると大きな旗が目に入った。食事前はあまり見ていなかったのだが、2枚のうち1枚のデザインが気になった。気にならなかった方は白地に真紅のバラが描かれている。聖騎士団は以前は女騎士団だったというからうなずけるデザインである。ただ、もう一つの旗のデザインがかわっていた。白地であることは同じなのだが、大きな円の中に正弦波というか定在波が描かれ、円の上半部には稲妻マークが入っている。円の下のドラゴンはルドルフなのだろう。それを見ているとフィリップ先輩が寄ってきて、小声で教えていくれた。

「あれ、俺のデザイン。聖女様にぴったりだろう?」


 私はピンときた。稲妻マークは電気的な現象を意味し、正弦波か定在波は、電子が協調的な状態に入っていることを示している。つまり聖女様の主な研究対象の超電導をデザインしたものだ。


「あれさ、聖女様の親衛隊の旗印なんだ。本人も気に入ってるみたい」

 フィリップ先輩はみごとなドヤ顔で説明してくれた。

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