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第17話 知恵の女神と美の女神

 その後のヤニックさんの話は、神々どうしの恋愛、争い、人間と神々との関係などだった。

「ヤニックさんの話は、まあ王室の公式のものなのよ。地方とかによって、多少のちがいはあるわね」

 聖女様のコメントにヤニックさんは苦笑いするように、

「聖女様はすでに王室の一員なのですから、そのようなことは……」

と言う。聖女様は、

「でもね、その地域ごとの伝承は大事だと思うの。そこの人たちがずっと大事にしてきたたんだから」

と言った。私としてはそんなことより、

「聖女様、聖女様ご自身とかフィリップ先輩とかが神話に干渉していませんよね」

と聞いてみた。するとヤニックさんは、

「そんなことはまったくありません。これは私が子どものころに聞かされた話と同じです」

と言う。ステファン先輩も、

「玲子さん、笑っちゃうでしょ。これはいくらなんでも、僕達に都合が良すぎるんだよね」

と言う。私は先輩の言いたいことはすぐに理解できた。神話ではこの世界が無から爆発に寄って生まれ、宇宙にできた渦からこの大地ができたとしているからだ。まるでビッグバン理論である。

 そして聖女様はとんでもないことを言い出した。

「あのね、この神話は古い古い伝承なのよ。もしかしたら古代文明があったんじゃないかって思うくらい」

 言いたいことはわかる。人類でもビッグバン理論は二十世紀になってから提唱されたものだ。はじめに宇宙が膨張しているという大望遠鏡をもちいた観測結果があり、相対論や量子論を用いて考えられてきた。望遠鏡がないこの世界で思いつけるものではない。

 するとヤニックさんが渋い顔をした。

「聖女様、お言葉ですがそのようなご発言は異端と取られかねません」

「そうだったわね、気をつけるわ」


 大雑把な流れとしては、わたしたちの大地に最高神ユピテルが人間をつくりだし、人間たちは村をつくり、街をつくり、国をつくり、戦争を繰り返しながら今の国々になったということだった。村ができるとき、ユピテル以外のいろいろな神々がかかわったということで、その村その村の祠はユピテルと村を直接つくった神が祀られているということだ。そしてそれぞれの村の神々が村人たちに魔法を与えた。その神その神で得意とする魔法がちがうので、村ごとに火魔法とか風魔法とか、あるいは治癒魔法とか、魔法に違いができたということだ。


 時代が下るに連れ、神々と人々の距離が遠ざかり、神々の意思がつたわりにくくなったとき、聖女という存在が現れた。聖女は神々の意思を人々に伝え、神のかわりに神の力を用いる。

「私、あんまり神様のお考え、わかんないんだよね」

 またも聖女様が恐ろしいことを言う。

「聖女様はいつも正しいことをなさいます。だから神様はなにもおっしゃられないだけです」

 ヤニックさんの真剣な口ぶりに、この国で聖女様がいかに敬われているかよく現れていた。

「とにかく聖女様、そのようなことはお口になさらないようにお願いします」

「まあまあ、ヤニック、アンはよっぽど気を許した人にしか今みたいなこと言わないよ」

 心配するヤニックさんをステファン先輩が慰めた。


 私は聖女様がこれ以上危ないことを言わないようにするため、気になったことを聞いてみた。

「聖女様、ベルムバッハの神様はどなたなのですか?」

「うん、教会は最高神ユピテルを祀っているのだけど、古い祠もあってね、そこは笑っちゃうのよ」

「そうなんですか?」

「うん、知恵の神、ミネルヴァなの。いいでしょ」

「確かに聖女様にぴったりですね」

 横でステファン先輩が微妙な顔をしている。

「殿下、どうしたんですか?」

「ああ、ミネルヴァは戦の女神でもあるからね、結果論かもしれないけど、先の戦争を勝利に導いたのはアンだしね。最近はそれが国中に知れ渡って、ミネルヴァ信仰が広まっているみたいなんだよ」

「それはさ、私個人があんまり崇め奉られるとたまんないと思ってね、ベルムバッハのミネルヴァ様のお導きだと言っちゃったからね」

 聖女様のコメントに、私はつい言ってしまった。

「そうすると、市民には聖女様はミネルヴァ様が降臨した姿だとか言われちゃうんじゃないですか」

 聖女様は渋い顔で、

「それやめて」

と言った。

「そういう話が出かけてから、私、話するときにミネルヴァ様のお導きでとか、ミネルヴァ様のお陰でとか言うようにしてるんだから」

「はい」

「私はただの人間、聖女は天が私に与えた仕事、ステファンが王子なのも天がそう任じたからでしょ。人は天からあたえられた能力と言うか適性に応じて仕事してるわけでしょ、私はだから崇拝されるのはイヤ」

 するとヤニックさんが横から口をはさんだ。

「ミネルヴァ様は芸術の女神でもあります。だから私からすると、聖女様はミネルヴァ様そのものに思えます」

 それに対して聖女様は、

「あら、ヤニックさんは美の女神アフロディーテを崇拝してるんじゃないの?」

と言って、私とヤニックさんを交互に見た。


 何故かヤニックさんは顔を赤らめた。

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