第14話 モデル
私の日課に絵のモデルになることが加わった。聖女様がモデルになるのと違って警備は必要ない。だから一人で工房に行けばすむと思っていた。しかしそれは間違いだった。みほちゃんあかねちゃんがついていくと聞かなかったし、まほちゃんすら渋々というよりはいそいそとついてきた。工房の入口で、私は子どもたちに厳しく注意する。
「みんな、職人さんたちのじゃましちゃだめよ。とくに走っちゃだめ。わかった?」
「「「は~い」」」
私はヤニックさんに連れられ、昨日まで聖女様が座っていた椅子に座らされた。
「自然とこちらを向いていただければ」
ヤニックさんはやさしく言ってくれる。
「あの、モデルになどなったことがないので、どうしたらいいのかわからなくて」
「では、私とお話しましょう。絵は、失礼ですがまず小さいものにします。それなら日数もかかりませんし、慣れていただければ」
「はい」
「でははじめましょう」
視界の端に、子どもたちが見える。
「ご心配ですか」
ヤニックさんが楽しそうに聞いてくる。
「すみません、みなさんにご迷惑じゃないかと思っちゃって」
「大丈夫ですよ。頭のフランツさんがですね、今日は積み木を一緒につくるんだって、気合入ってるんですよ」
「積み木ですか、いいですね」
「そう思われますか」
「ええ、積み木は単なる遊びじゃなく、物の大きさ、形、見えない向こう側、そういうことを考える能力も発達させるんです」
「なるほど」
「手先を使う遊びをしない子は、勉強もうまくいかないこともあるんですよ」
「ははは」
「どうしました」
「レイコさんもやっぱり聖女様のお仲間なんですね」
「それ、ほめてますか?」
「どうでしょう?」
楽しい会話のおかげで、モデルの時間はあっという間に終わった。
翌日もモデルに行ったが、子どもたちも三人ともついてきた。
「今日も子どもたちついてきちゃいましたが、大丈夫ですかね?」
「だいじょうぶですよ。今日も積み木づくりです」
「同じものですか?」
「そうです。王太子殿下のお姫様のステラ様に同じものをご用意しようと、職人たちが言い出しましてね。だからあの子達はそのお手伝いなんです」
「それは楽しそうですね」
次の日もモデルである。もちろん子どもたちもついてくる。
「ヤニックさん、墨壺って難しいですか」
「墨壺ですか」
「あのね、昨日こちらをおいとましたあと、みほちゃんが言うんですよ。私はすみつぼがうまいんだと」
「ああなるほど、だれか職人が無責任に褒めたんですね」
「本人はよろこんで、すみつぼ職人になるとか言ってましたから」
「そうですか、それはまた」
「でもですね、本人が自信を持つのはいいと思うんです。前向きに生きていけますから」
気楽な会話はとても心地良く、モデルになるのも気にならないしむしろ最近は楽しみになってきていた。そして気づいてしまった。
「あのヤニックさん、絵のサイズかわってませんか」
とっさにキャンバスという言葉が出てこなかった。
「ええ、一枚目はあと背景の調整くらいですから今日から2枚目です」
「はあ、ですが私の絵を連続して描いてもらっていいのですか」
「もちろん、聖女様から何枚か描くように言われてますし、私も描いてて楽しいですよ」
「それはよかったです。ですけど、一枚目、見せていただけませんか?」
考えてみれば今まで一度も絵の中で私がどうなっているかみせてもらってなかった。
「いや、あの、完成したら必ずお見せしますので」
「おねがいしますね、必ずですよ」
「ええ、もちろん」
視界のはじには、真剣に墨壺の糸をひっぱり、ねらいをつけるみほちゃんが見える。みほちゃんは、しっかりとねらって線を引くのが楽しくて仕方がないらしい。姉のまほちゃんがうしろからその様子を見守っている。あかねちゃんは職人の一人クルトさんにのこぎりの使い方を教わっている。
私はふと不安になって聞いてみた。
「あの、私達、みなさんのお仕事のじゃまになってないでしょうか」
ヤニックさんは笑顔で工房内を見回したうえで答えてくれた。
「そんな事無いと思いますよ。1日中入り浸っているわけではないし、みなさん危ないところには近づかないように気をつけてくれてますから。それよりも、職人たちが楽しそうなんですよね」
「それならよかったです」
「ええ、聖女様がいらしたときも工房内の雰囲気がよくなるんですが、みなさんに来ていただくとまた、雰囲気がよくなり、かえって仕事がすすむんですよね」
「じゃあ私が来たときは、雰囲気はよくなるけど仕事は進まないってことなのね」
いつの間にか聖女様が部屋に来ていて私達の会話を聞いていたらしい。あわてるヤニックさんの姿がおかしかった。




