第13話 工房にて
離宮の日々は順調に過ぎていった。朝起きてお勉強、午後は遊び中心だがお勉強も少し。毎日の生活にリズムができれば日が過ぎるのが早くなった。子どもたちも離宮の人たちとすっかり仲良くなったので、みほちゃんあかねちゃんはまほちゃんの目を盗んで仕事しているところを覗きに行く。見つかると叱られるからである。だいたいそこの場所の人と楽しくお話しているところを見つかってしまい、結局まほちゃんに叱られている。しかられる二人も叱りつけるまほちゃんも可愛く、口を挟むわけにもいかない大人たちはつい顔をゆるめてそれを見ていることが多い。
そういう心の余裕が出てきたら、私にも先々のことを考える時間が増えてきた。かといってどうしていいのやら、まったくわからなかった。
ある日、私は聖女様に呼ばれた。
「玲子ちゃん、大変申し訳無いんだけど、私今日肖像画のモデルにならなきゃいけないんだ。それでね、ほんと申し訳ないんだけど、つきあってくれない?」
「承知しました」
「よかった~。絵のね、ヤニックさん、いい人なんだけど、絵に集中してて、私どうしても暇なんだよね」
「でも、どうして私なんですか」
「う~ん、正直言うとね、玲子ちゃんとあんまりお話する時間とれてなかったからさ、こっちの都合で悪いんだけどさ」
「はあ、とにかくご一緒します」
昼食後、聖女様と一緒に工房に行く。工房は子どもたちが一番行きたがるところだが危ないので、実はあまり近づけないようにしている。だから今日、聖女様と工房に行くから子どもたちだけで遊んでてねと伝えたら露骨に嫌な顔をされた。まほちゃんにすらである。
とにかく工房についた。窓際の明るい場所で聖女様はポーズをとった。ヤニックさんは早速絵に集中を始めた。
「玲子ちゃん、生活は慣れた?」
「はい、おかげさまで」
「子どもたちから玲子ちゃんとりあげて、悪い事しちゃったね」
「はは、それより工房に行くと言ったら恨まれました」
ヤニックさんがほんのすこしニヤッとした。
そのあとしばらくよもやま話をしていたが、聖女様は突然ポーズを崩して両手を叩いた。
「聖女様、姿勢をもどして……」
「ヤニックさん、あのさ、玲子ちゃん、きれいでしょ」
「そ、そうですね」
「あのさ、私なんか描いててもつまんないでしょ。玲子ちゃん描いてみたら?」
「は、はあ、それは素晴らしいですが、まずこの絵を」
「あと、どれくらい?」
「はあ、二日もいただければ」
「そう、じゃあ明後日から玲子ちゃん描けば?」
「あの、他の仕事もありますので」
「わかりました。調整をおねがいします」
「はい」
ヤニックさんの顔色は赤くなったり青くなったり目まぐるしく変わり、半分面白く半分気の毒だった。やっとポーズにもどった聖女様を描き始めたヤニックさんはさすがはプロ、落ち着いた表情をとりもどした。それにしてもこれはヘレン先輩あたりに報告しといたほうがいいと思われる。
「玲子ちゃん、ヘレンにチクったらだめだからね」
これにはさすがのヤニックさんも吹き出してしまい、しばらく手を止めていた。
「聖女様、レイコさんがご報告になられなくても、ここにいるどなたかが必ずご報告するでしょう」
ヤニックさんの言葉に聖女様はポーズを崩し、警護に来ている騎士たちを睨みつけた。私がその人たちの方を見ると、みな視線を微妙に外している。聖女様はあきらめたのかポーズにもどった。
「そういえば玲子ちゃん、この世界でやりたいことできた?」
聖女様はまたよもやま話を始めた。
「そうですね、やっぱ魔法ですかね」
「魔法、不思議よね」
「聖女様がおっしゃるんですか」
「そうよ、私、いまいち魔法の制御、下手なんだよね」
「そうなんですか?」
心底驚いた。
「そうなのよ。あのさ、多分私が強烈な魔法を放った話、いくつか聞いてると思うけど……」
聞いている。戦争のときのことだ。ピンチをひっくり返したような攻撃魔法とか、けが人を一気に治癒した魔法とかである。
「あれってさ、コントロールとか一切考える必要がないっていうか、そんな余裕がないっていうか、とにかく全力なんだよね。だから大規模な魔法になってるけど、そのあと倒れちゃうんだよね」
「はあ」
「だからさ、魔法制御の修行、したいんだよね」
「女学校でされなかったんですか」
「う~ん、したんだけどね、0か100みたいになっちゃうんだよね」
「はあ」
「多少は進歩はしたんだよ。多少は」
「なら」
「う~ん、でもうまく小出しにできればなあといつもおもうんだよ。極端な話、戦闘中ゼロか100かはまずいでしょう」
「そりゃそうですよね」
「わかってくれるか」
「はい、で、あてはあるんですか?」
「これがないのよ、っていうか今思いついた」
「なんすかそれ」
私は笑ってしまい、みるとヤニックさんも手を止めて笑っていた。
夕食時、予定通り聖女様はヘレン先輩にとっちめられていた。




