第104話 帰還
「総員、戦闘配置!」
騎士団に厳しい声が響いた。オクタヴィア姫が「聖女様はもうすぐ帰って来る」という言葉を聞いた2日後である。私は騎士団長室で事務仕事をしていたのだが、作戦室へと移動した。
作戦室には当直の騎士に加え、副官のソニアさん、親衛隊のレギーナさんも来ていた。レギーナさんは来たばかりのようで、当直の騎士から報告を聞いていた。
「南の空に不審な飛行物があり、どうやらこちらへ向かっているようです」
「聖女様、いや、ルドルフではないのか?」
「ルドルフのようにも見えるのですが、どうも形がおかしいと報告が上がってきています」
「形?」
「上半分はドラゴンのようにも見えるのですが、下に大きなものがあるようです」
「わかった、では念の為戦闘配置を維持しよう。見張りには眼のいいものを上げてくれ」
「はい、すでにそうしてあります」
「うむ、よくやった」
先輩たちも全員作戦室に集合してきた。
ヘレン先輩は言う。
「聖女様だとは思うけど、下に大きな物があるというのが不審だわね」
それにほとんどの先輩たちは同調したが、マルス先輩だけはちがった。
「それはですね、どうせヴァルトラントの美味しいものですよ。半分はお土産、半分は自分で食べる気じゃないですかね」
それに対してケネス先輩が反論する。
「それにしてもいつものルドルフなら、視認されてからすぐに到着するだろう。遅すぎるよ」
それに対してもマルス先輩は、
「だからその美味しいもののせいですよ。ルドルフが一生懸命羽ばたかなければいけないくらい、食べ物いっぱいなんですよ。心配いりません」
と断言した。
フローラ先輩は、
「とにかく私達も上行こう」
と言い、全員で屋上に上がった。
肉眼でもその飛行物体は見えた。私の眼でもドラゴンのようにも見えるし、その下になにか大きな丸いものがあるのも見える。
「うむ、なにかドラゴンの上に見えんか?」
ネリス先輩が呟くとマルス先輩は、
「殿下と聖女様じゃないですか」
と言う。フィリップ先輩は、
「う~ん、なんか手を振ってる気もするなぁ」
等と言っている。
「フィリップ、伝書鳩、聖女様に向かって飛ばせよ。あれがルドルフだったら、そっちに向かって飛んでくよ」
とケネス先輩が提案し、フィリップ先輩は早速伝書鳩を飛ばした。
案の定、伝書鳩が一直線に飛んでいく。
「迎撃ミサイルみたいだな」
とケネス先輩が不謹慎なことを言った。
けっこうイライラする時間がたち、やっと騎士団本部の建物の真上にルドルフくんが到着した。聖女様が帰還したという情報が伝わったのだろう、女子大からも聖女庁からも人が出てきた。
「やっぱりあの荷物、食べ物よね」
フローラ先輩が言った。
「うん、まちがいない、賭けてもいい」
とヘレン先輩が言ったが、その賭けに乗る人はいなかった。
ルドルフくんが建物の上を2周した。降りるところを探しているらしい。聖女様が練兵場の一角を指差し、ルドルフくんが進路を変えた。ステファン先輩がこちらに手を振っているのが見えた。
「行こう、聖女様を迎えに」
ケネス先輩が言い、みんなでわっと屋上から降りた。
大急ぎで練兵場に出た。ルドルフくんは着陸しつつあった。いつもならど~んと降りてくるのだが、慎重に羽ばたきながらゆっくりと高度を下げている。聖女様がルドルフくんに、
「ゆっくり、ゆっくり、荷物が潰れたら恨むからね!」
と言っているのが聞こえてきた。聖女様の後ろにいるステファン先輩は苦笑いを浮かべている。
ゆっくりとルドルフくんが下げた大きな荷物が着地した。ルドルフくんは足を荷物から離し、一旦上昇してからど~んと着地した。
聖女様とステファン先輩は、ドラゴンの姿のルドルフくんの背中から降りてきた。地上に降り立った聖女様は、
「玲子ちゃ~ん、いろいろありがとう!」
と、私に抱きついてきた。ステファン先輩も、
「いろいろと世話になったね。アンもすっかり元気になったよ」
と言ってくれた。
騎士団の人たちは、ルドルフくんがおろした荷物を調べていた。
「こ、これは……」
という声に聖女様は、
「ああ、それ、お土産。みんなで食べてぇ!」
と、ハイテンションだった。
ハイテンションな聖女様の横で、ドラゴンの姿のままのルドルフくんはぐったりしていた。
聖女様は誰彼と無く話しかけていている。ステファン先輩はその後ろからその人達に労いの言葉、感謝の言葉を述べている。ぐったりと頭を地面につけたルドルフくんは、そんな二人の様子を眼だけで追いかけていた。
私は近づいていって、
「ルドルフくん、お疲れ様」
と話しかけた。手を彼の顔におくと、
『れいこちゃん、疲れたぁ~』
と思考が伝わってきた。
『むこう、大変だったの?』
『ううん、むこうはね、美味しいものを食べまくって楽しかったよ、帰りが大変だった』
『もしかして、荷物』
『うん、ヴァルトラントの王様にね、持たされた。重くて重くて、疲れちゃったよ』
『そうか、じゃあゆっくり休んで』
『そうもいかないんだよ、これからママ、ベルムバッハに行くってさ』
ベルムバッハは聖女様の生まれ故郷である。
聖女様とステファン殿下の周りの人たちとの挨拶はなかなか終わりそうにない。つまりまだベルムバッハへと出発しそうにない。ルドルフくんは、休息を取りながらヴァルトラントでのできごとを教えてくれた。




