第101話 尋問
地下牢でボーっとしていたら、騎士が2人来た。
「尋問だ、出ろ」
私は逆らわず牢から出る。体が伸ばせるのがうれしい。
地下牢は地下3階だから階段を登るのに息が切れた。なんだかよくわからないところを歩かされ、今自分が王宮のどこにいるのか全然わからなかった。
小さな部屋に入れられ、一人にさせられた。清潔なのがありがたい。
しばらく待っていると、やってきたのはヴェローニカ様だった。
「レイコ、ご苦労だったな。形上、一度は逮捕しないといけないのでな」
「お手数おかけします」
「で、二人は今頃ヴァルトラントでいちご狩りか?」
バレているが言うわけにはいかない。
「おいおい、君はアンとよく似ているな。もう少し秘密を守るのうまくなってくれよ」
「はあ」
「だから逮捕したんだよ、近衛騎士団あたりに情報が漏れたら、やつらはヴァルトラントに侵攻しかねない」
「親衛隊も危ないです」
「ああ、だからフローラに頼んで留学生を監禁させたんだろう」
「はい、そのとおりです」
「フローラが直接尋問にあたっていることになっているけれど、どうせ何にもしてないだろうな」
「ヴェローニカ様と同じですね」
「そう、そう言うこと。しかしタイミングが悪かった」
「何かあったんですか」
「ああ、昨日ヴァルトラントから親書が来てな、例の王の退位のことだ」
「はい」
「早く責任をとらせろ、次の国王はステファン殿下に来てほしいと言ってきた」
「それはまずいですね」
「そうだよ、殿下を取られたら、ついでにアンもとられちゃうからな」
「じゃあその親書は」
「陛下が公表せずにいる。ごく一部のものしか知らない」
「それにしても危ない話ですね」
「そうなんだよ。もともとアンの人気は向こうではかなり高いらしいし、向こうでうまいものでも食ってみろ、そのまま居着きたいとか言い出しても不思議じゃないぞ」
「ハハハハハ」
お腹が空いてきたなあと思っていたら、エミリア女官長がやってきた。
「昼食です」
「ありがとうございます」
食事ののったトレーを置いた女官長様は、そのままさっきまでヴェローニカ様が座っていた椅子に腰掛けた。気づいたらトレーに載せられた食事はあきらかに2人分で、女官長様は一つ取って食べ始めた。
食べながら女官長様はぼやいた。
「いつもいつも、あの人には振り回されてますよ、私は」
「そうですか」
「そうなんですよ、なにかあの人が思いつくでしょう、するとヘレンが私のところに相談に来る、来たら仕方がないから私が方方と交渉する、あの人そのこと知らないと思うのよ」
「申し訳ありません」
「あなたが謝ってもしかたないでしょう」
「一応私、秘書ですから」
「そうですね、一応叱っておきましょう」
「申し訳ありません」
「でも今回ばかりは、あの人の暴走じゃないんでしょう」
「はい、すべての罪は私に」
「ああ、やっぱりあなたはあの人の後輩だわ。結局後始末を私たちにおしつけるんだから」
「申し訳ありません」
「うそよ、冗談よ。はやく帰ってくるといいわね」
「う~んそうですけど、全く仕事のない日々、お二人には必要なんじゃないでしょうか」
「そうか、そう考えますか。ですがお二人でなにか、勉強しているかもしれませんよ」
「教科書は持って行ってないと思いますが」
「甘いわレイコ、殿下が聖女様のために、一冊くらい持っていると私は思います」
「そうでした」
「ハハハハハ」
午後はミハエル殿下がやってきた。
「弟夫婦のために苦労をかける」
「身に余るお言葉です」
「これ、マホ・ミホ・アカネからだ」
殿下から渡された箱を開けると、かなり高級そうなお菓子である。
「あ、いかん、茶がないな、おい、誰か、茶を持ってきてくれ」
すぐにお茶が一つだけ持ってこられ、持ってきた女官はそれを殿下の前においた。殿下はそれを私の方に寄越した。
殿下はお忙しいのか、すぐに立ち去られた。
またしばらくボーっとしていたら、ネリーさんがやってきた。
「これから朝まで、連続して取り調べとなります。こちらへ」
私はネリーさんに連れられて部屋を出た。
しばらく王宮内を歩かされたが、やがてよく通った通路にでたことに気づいた。ステラ姫の部屋へ通じる道である。
ステラ姫の部屋に入ると、早速尋問がはじまった。
「れいこちゃん、お菓子美味しかった?」
まほちゃんであった。
「うん、美味しかった、ありがとう」
「じゃ、いっしょに遊ぼう!」
私は途中でわかっていた。私の逮捕は、私を守るためのものである。聖女様が秘密裏に国外にでられたことを快く思わない人も必ずいる。みな聖女様が大好きだからである。心配なのだ。それを手引した私は当然質問攻めにあうはずで、それを防ぐために王宮に「尋問」の名目で呼んだのだ。私は尋問中だから、だれも面会できない。おそらくミハエル殿下あたりがこのあいだの「ベリー狩り」の話で私のやったことを推測したと思われる。
夕方の尋問は、国王陛下ご夫妻が担当された。
「レイコ、このスープ、うまいであろう」
「はい、美味しいです。なにか懐かしい味な気がします」
「なんだわかるのか、これは料理長がヘレンから教わったものだ」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。陛下」
「気遣いなどしておらんぞ、余が食べたいだけだ」
食後のお茶となったとき、陛下はおっしゃった。
「ヴァルトラント王は、もうすぐ退位する気でいる。調べたら王子はまだ幼く、とても王としての任務はこなせないようだ」
「そうですか、では適当な方に摂政をつとめていただくしかないですね」
「それだ、レイコ。ヴァルトラント王はな、ステファンが王になれないならフィリップを摂政として寄越してほしいと言ってきた」
「はあ」
「まあむこうとしては、実質的にノルトラントの支配下に入り、誠意を示したいということだろう。ただ、ステファンもフィリップも、手放す気はない」
「お気持ちはわかりますが、ステファン殿下にヴァルトラント王として行ってもらってもいいのではないですか」
「何、どういうことだ。それではアンも取られてしまうではないか」
「大丈夫です、陛下にはご退位いただき、ミハエル殿下に即位してもらいます。そして陛下には第二の帝国の初代皇帝になっていただきます」
「な、なに?」
「そうすればノルトラントもヴァルトラントも陛下のもの、ですからステファン殿下も聖女様も、陛下のところにいらっしゃることになるのです。ノルトヴァルト帝国とか、どうですか?」
「そ、そうか。確か今、ヴァルトラントの聖女はいなかった。だからアンは、ノルトヴァルト帝国の聖女となるわけだな」
「そういうことです。なんの問題もありません」
陛下は大笑いされた。




