一部一章幕間
その男は、何もない宇宙空間のような場所に一つだけ置かれている椅子に座っていた。その空間にスクリーンのようなものが出現し、男がスクリーンの方向を向くと、そこにソラとその病室が映し出された。
「なんとか生き延びられたようだね、ソラ」
そう呟いた後、彼はソラの傷があった場所を見つめた。
「僕の与えた力でちゃんと傷が治ってるね。さすがは僕がわざわざ選んで連れてきた子だ」
そう言って彼は、ソラから胡散臭いと評された笑みを浮かべた。
「そんなことは置いといて(置いといちゃダメだけど)、やっぱり気掛かりなのはあの炎の精霊かな……」
(なぜ突然あの結界が割れて現れたのか、なぜ炎の精霊ごときが精神魔法を操れるのか、なぜ名もない精霊が相性の悪い水系魔法使いをあそこまで圧倒できる力を持っているのか。いろいろ引っかかることが多いな)
その男は上を向いて考えていたが、再びスクリーンの方を向き、画面をスクロールするように空中で指を動かして、映し出される場所を変更した。
彼が次の目的地に選んだのは昨日事件があった場所、つまり遺跡だ。
遺跡の中心ーー今まで水晶玉があった場所を彼は覗いた。
「やっぱり証拠となるような魔力は残ってないか。流石に証拠隠滅はするよな。その証拠隠滅をした証拠もないんだが。それにしても、あのキュアノスとかいう人間、改めてなかなかやるな。水魔法の威力、精度ともに今まで見た人間の中ではトップクラス、まさに神の領域に最も近い人間だ。まさか本物の水神だったりしてね…」
そう言って、彼はあることに気づいた。
ーーソラは今まで僕が連れてきた人間の中で、一番歪な、無尽蔵な魔力を持っている。それも、その魔力をとりこんで自由に利用できれば、この世界の歯車が狂うほどの恐ろしい力になっている。その子、いや、その子の力を、他の神々が狙っているとしたら………?
「…あんまり考えたくなかったけど、あの精霊は火神のしわざってことになるのか。相変わらず行動が早いな、あいつ。ついでに、キュアノス=水神説がかなり濃厚になってきた。これはめんどくさいことになりそうだね」
彼はだるそうに腕を組んで、空間にソファを出現させ寝転がった。しかし、すぐに寝転がるのをやめ、立ち上がって真剣な顔つきになり、まるで誰かを睨むように前を見た。
「まあ、何があろうと、ソラは僕のものだ。邪魔はしないでもらおうか、他の神ども。彼こそが、僕が待ちわびていた、今までで一番優秀な”星の器”なのだからね」
そう強い口調で独り言を言って、彼、星神-ステラは何もない空間(彼の神界)を真っ直ぐ歩いていった。




