第七話 『生還』
ソラが目を覚ましてから少しした後、病室の扉が開いて水色の髪の女性が入ってきた。
「おはよう、想定よりだいぶ早く目が覚めたようだね」
「えっと......どちら様?」
「おっとすまない、私はキュアノス・ラピスラズリ。王国騎士団七隊の隊長の一人にして、そこで寝ているシリウスの上司ってとこさ」
彼女はそう簡単に自己紹介をして、寝ているシリウスの横に座った。
「なるほど......ということは、あの炎の大男は...」
「お察しの通り、私が倒したよ。君たちが殺される前に間に合ってよかったよ、本当に」
ソラはこの世界の脅威のものが一つなくなったことに安心した。そして、少し疑問に思ったことを尋ねてみることにした。
「なあ、このお腹の傷って回復魔法でこんなに早く治るものなのか?」
「いいや、普通ならここまで早く、ここまできれいに回復はしないはずだ。三日ほど眠る羽目になるほどの深い傷を君は負ったのに、たった一日で目覚め、普段とほとんど変わりなく動かせる程度にまで回復したのは、君のすさまじい生命力、回復力のおかげだ。どうしてそれほどすごいのかはわからないけどね」
「これが、俺自身の体の力…」
ソラはそう言われて、改めて自分の傷があったところを触ってみた。つついてみても、ほとんど痛みがない。これが俺の異世界転移特典か、なんてソラは思った。
「ふぁぁぁ…、あっソラ!起きたのね。傷は大丈夫?」
「大怪我した彼の方が君より早起きだよ、シリウス。君がそんなに男の子に馴れ馴れしく話すのは初めて見たよ」
「ふぇ!!?キュ、キュアノス隊長!おはようございますっ!」
「お前って隊長の前だとちゃんと敬語使えるんだな」
「流石に使えるわよ、馬鹿にしないでよね!」
そんな二人の会話をくすくすと笑いながら見ていたキュアノスは、少し間をおいて再び話し始めた。
「あの遺跡は、もともと結界が張ってある限りは中にある魔素がおさえられて危険はなかったんだ。しかし、今回はあの超上位精霊のせいか、結界が破壊されてあんな事態になってしまった。あんな精霊が現れることは想定できなかったけど、こんなことになってしまったことに対してこちらから謝罪させてもらおう。そして、事態の鎮圧に対する協力、感謝するよ」
「いやいやそんな、そっちは悪くないし、俺は何もしてないし……」
「いや、君がうちのシリウスの命を助けてくれたんだ。君は他人の命を、自分を犠牲にして救ったんだ。割と下っ端の方でも魔法騎士団員は大切な仲間だからね。そこは感謝させてもらうよ」
「下っ端って……まあいいですよ。ソラ、改めてありがとうね」
「まあ、それくらいしか俺にはできないけどな」
助けた相手からお礼を面と向かって言われると、嬉しいけど、少し照れくさかった。
「そこで、君に騎士団からお礼がしたい。何か欲しいものとかあるかい?」
「欲しいもの、か………」
「そう、希少な魔法石とか大金でもいいのよ。なんなら隊長とデートとかでも……」
「そういうのは君がやりなさい、ちょっと脈アリのシリウス君」
「全然そういうのじゃありませんから!」
この二人のやり取りをよそに、ソラはかなり真剣に考え込んでいた。
ーーまず俺の状況を整理しよう。お金もない、仕事もない、衣食住のどれもない。完全な一文無し状態!そういうのは元の世界に帰れば解決するんだが、元の世界に帰りたいって言っても全然帰れるとは思えない。かといって大金をもらったところでこの世界では暮らしていけない。そして、俺もまたキュアノスに助けられた立場だ。こっちとしても何かお礼がしたい……。何か俺にできること、俺にできること、俺に………。
「これだ………!」
悪いことを思いついたような顔でソラはつぶやいた。
「ん、どうしたの?何にするか決まった?」
「ああ、決まったよ。これが最善で完璧な決断だ」
そして、ソラは改めて二人の魔法騎士団員の方を向いて言った。
「俺を騎士団の騎士にしてくれ!」
「「えっ?」」
「え……?」
彼のこの世界での物語はまだ始まったばかりだ。