第六話 『突然の結末』
ーー熱いあついいたい痛いイタイ熱いアツイ熱い痛いっ……!!
わかっていたけど、俺にできることはこれくらいしかないって起きた時から覚悟は決めていたけど、やっぱり痛いものは痛いし、しかも想像以上に痛い……!
ソラの脇腹あたりがえぐれており、その近くの皮膚は焼けて黒くなっている。彼はシリウスを庇って炎の精霊の光線を自分の身で受けたのである。
「バカナ、ナゼ、ウゴケル………?」
炎の精霊は、シリウスに攻撃が当たらなかったことより、ソラに攻撃が当たったことに唖然としていた。
「ソラ……なん…で」
「俺の……前で…………勝手に…誰も……いなく…なるなよ……………」
ソラは力を振り絞って、掠れた声でシリウスにそう言った。そして血を吐きながら、痛みのあまりそのまま再び気を失った。
「ソラ、ソラ!……いや、バカ、あなたこそ勝手に死んじゃ、ダメ……………」
シリウスにはもう、できることは何もなかった。それを自分で理解した彼女は、死ぬ覚悟を決めようとした。しかし、彼女はまだ未熟な一人の少女だった。簡単にそんなことできるはずがなかった。自分の弱さ、未熟さ、そしてソラを救うことができなかった悲しみが彼女の心の中で混ざり合い、彼女の目に涙として出てきた。
「コノ、オトコヲ、コロシハ、シナイ、ニンム。タダシ、ジャマモノ、オマエハ、ハイジョ、スル」
精霊はそう言って、再びシリウスの方に魔法を撃つ構えをした。
シリウスは、ソラを抱きしめて、手を祈るように握りしめた。
ーーああ神様、どうか、どうか、私たちをお助けください。誰か、助けて、誰か…………
「お母様…………」
魔法が来ると感じた瞬間、彼女は目を瞑った。
しかし、魔法の攻撃は彼女のもとには来ることはなかった。
「セイクリッド・ハイネス・ウォーターフォール!!」
突然上空から聞こえてきた声の後に、滝のように大量の水が精霊の上から降り注いだ。
「少々危なかったけれど、間に合ったようだね。大丈夫かい、シリウス」
「キュアノス...........隊長...!」
その水魔法を撃った人物は、シリウスの属する隊の長、キュアノスだった。キュアノスは明るい水色の長い髪をもつ長身の女性で、二十代のうちに隊長にまで昇りつめた実力者だった。
「グォォォォォォ........................!キサマ、ナニモノダ...!」
「炎の精霊なのにあれくらってまだ動けるのか。これはうちのシリウスがここまでやられるわけだ。まあいい、私の名は、キュアノス・ラピスラズリだ。冥土の土産に覚えときな。オーバーアイシング!」
彼女がそう唱えると、精霊の周りにあった水滴が巨大化し、一気に凍りついた。そして精霊が入っている大きな氷塊は、彼女の剣の一振りによってバラバラに破壊された。
「よし、敵は片付いたな。これでこの結界も壊れるだろう」
彼女の予想通り、精霊が死んだ後、結界-紅い光は消えた。
この一部始終を見ていたシリウスは、キュアノスとの圧倒的な格の違いを感じ、ただ呆然としていた。
しかし、すぐに正気に戻り、大切なことを思い出した。
「隊長、ソラが、ソラが.....................!」
「おっとこれは、相当危険な状態.........でもないかもしれないね」
「それってどういう......?」
キュアノスは、じっとソラの傷の当たりを興味深そうに見つめていた。
「この子、結構流血してるけど、すごい生命力だよ、全然生きてる。しかもなぜか、最初私が来た時にあった火傷も、だんだん症状が軽くなってきてるね」
「ほんとだ......よかった......ソラ」
「とはいえ、一応騎士団の本部で治療してやっておいたほうがいいな。ついでに、ここであった話も聞きたいしね。私はこの子を運んでいくよ。シリウスもそろそろ魔力も少しは回復しただろうし、あとで本部まで来てね」
キュアノスはそう言って、ソラを抱えて山を下りて行った。
* * * * * * * * * *
「真っ白な天井だ............」
ソラが目を覚ましたのは、騎士団に付属する大病院のベッドの上だった。彼は起き上がって腕を伸ばしてみると、彼の体に違和感を感じた。
「......っあれ?脇腹の傷が、ふさがってる...?この世界の回復魔法ってやつはこんなにすごいのか?」
彼が魔法を受けたところには血の付いた包帯がまかれているが、その部分を素早く動かさなければ痛くない程度に彼の傷は回復していた。そのことを自分で確認した後、彼は大切なことを思い出した。
「そうだ、シリウスは......?」
彼は誰かを呼んで色々聞こうと周りを見回すと、ほっとして笑顔になった。彼の右には、自分の病室の椅子に座ったまま寝てしまっていたシリウスがいた。