第四話 『牢獄生活の始まりと終わり』
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〜監禁生活一日目〜
暇になったので落ちていた石で日記を書いてみることにしてみた。
異世界生活五日目にして、やっと文字を書いた。日本語だ。本当は日本語じゃないかもしれないけど、少なくとも俺はそうやって認識している。
朝、扉に闇の霧のようなものが出てきて、そこから真っ黒な手が出てきた。この魔法気持ち悪いな。メランコリアとやらが言っていたように、ちゃんと食事が出てきた。魔族特有の変な料理が出てくるかもと思ったけど、身構えていたより普通で、想像より美味しかった。
外に出てみたいが、魔法で初期位置に戻されるから無理。でも外に出なくても陽の光は浴びれる。くっそ狭い範囲だけど。とりあえず日光浴をしてみた。昨夜はこんな敵地ですごくぐっすり寝れたので、眠くはならなかった。
……
運動はしておいた方がいいなと思ったので、ラジオ体操を1と2両方やっておいた。一人で音源なしだと寂しかった。
…………
絵を描いてみた。猫が好きだったから猫の絵。やっぱ下手だから消した。
…………………
暇。 暇。
暇。
暇。 暇。
暇。
暇。
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「あ〜〜〜暇だ〜〜〜やることねえ〜〜〜」
「まったく、敵に捕まってるんですから逃げる方法でも探したらどうですかぁ?とんだ根性なしですねぇ」
牢獄の奥の方からメランコリアの声がした。ソラはその方を向かずに面倒臭そうに答えた。
「そんなこと言ってもどうせお前がつかまえて元の場所に戻すだろ。無駄な体力は使わずに来たるべき時に備えてんだよ」
「言い訳上手ですねぇ。貴方はいつ私に殺されてもおかしくないっていうのにねぇ」
「ハッ。お前の目的のために俺は殺せないんだろ。俺がどんなにお前のこと挑発しても、俺は殺されないってわけだ。”七大魔”様がそんなんでいいのかよ」
「私としてはその”七大魔”の地位は不本意なんですけどねぇ。まあ貴方は”七大魔”がなんたるかどころか、魔族についてもおかしな認識をもっているんですがねぇ。”異世界”の人間だからでしょうか?」
「勝手に俺の記憶を読むな、気持ち悪い。嫌な気分になる」
そう言って露骨に嫌悪感を表現したソラを見て(?)メランコリアは不気味に笑った。
「そんな悪い口がきけるのも新月の日までですよぉ。それまでは、仲良くしましょうねぇ〜。あ、今日の昼食おいときますねぇ」
朝食の時と同じように、いわゆる”普通”の食事と器に入った飲料水が影の手によって運ばれてきた。
「……もしかしてこの食事も俺の記憶を読んで作ってるのか?」
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メランコリアに言われてからやるのもアレだが、逃走経路を探してみることにした。
この牢獄、とにかく広い。ルミナの倉庫くらい広い。何でこんなに広いんだ?ルミナ元気かな。もう一回会って真面目に話し合っておきたいな。
………
何もない。本当に何もない。どうしよう。なんか急に不安になってきた。
上にある小窓には手が届くけど、そこから体が通り抜けられる気がしない。ということは、あの鉄格子の扉しか外に出る手段がないってことだ。
もうダメ元で出てみよう。
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ソラは再び恐る恐る足を外に踏み出してみた。すると、今回は普通に外に出られた。
「…いや、まだ期待すんな、あいつのことだから罠かもしれねえ」
しかし、そのまま待っていても何も起こらない。ソラは少し安心して、周りを見回してみた。
この牢獄は、大きな穴の中にあるようだった。上を見上げると青空は見えるが、絶壁すぎて登れる気がしない。
「ここを根性出してどうにかして登らなきゃ脱出できないもんな。でもまずは情報収集が基本か。相手を知ることが勝利への近道、これリゲル先輩が名言みたいに言ってたな」
ソラはとりあえず歩いて穴の淵まで行ってみた。側面の岩はザラザラしていて、触って撫ででみると砂が出てくる。メランコリアに見つかる前にどうにかして登れる場所を探さないといけない、とソラは焦っていた。
ようやく足を引っ掛けられそうな場所を見つけたソラは、そこに右足を乗せ、上を向いて登って行こうとしたが、その集中力は崖の上に見えた人影によって奪われた。
その人影はフードをかぶっていて黒いローブを着ていたが、目がいいソラはおでこのあたりにある二本のツノを見逃さなかった。その人物は、不気味に大きい笑みと共にソラを見ていた。
ソラにはその人物が誰なのか容易に想像がついた。その想像は、発せられた声によって確信に変わった。
「どうも〜。貴方に姿を見せるのはこれが初めてですねぇ。改めまして、メランコリア・シュワルツ、と申します。”ホシノ・ソラ”さん、牢獄生活は楽しんでいただけていますかぁ?」
「ったく、クソ野郎が、何を根拠にそんなこと言えるんだよ。っていうか、何でここまで声が届くんだ?」
「貴方の影を利用しているんですよぉ。そんなことより、私の勝手な事情で、”神”との対話は今日の夜に行いますので、悪しからず。それじゃあ、残り少ない牢獄生活、楽しんでくださいねぇ〜」
「は?」
ソラがその急な知らせに驚愕している間に、突然牢獄の上に今までに見たことのあるような火柱が立った。その中に立っているのはもちろん、”七大魔・業火”ブランだった。