第三話 『ソラ捜索作戦会議』
キュアノスの隊長室に、少しの間沈黙が続いた。そんな沈黙を破るように、扉を開けて傷だらけの大柄な男が入ってきた。
「よう、邪魔するぜ」
「来たか、もう一人の犯人」
「この状況でいきなりそんなこと言わないでください。確かにブルームさんに非があるのも事実ですが。ブルームさん、怪我の具合はどうですか?」
「これくらいなら大したこたぁねぇよ。そんなことより、やっぱり俺が悪いことには違いねぇ。ここは素直に謝っておくぜ」
「謝ってソラ君が帰ってきたならよかったんだけどね」
キュアノスは今までにないような厳しい視線をブルームに向けた。その威圧感で部屋はより緊迫した雰囲気になった。
「……そこで、メランコリアに関する情報を調べてみたのですが、その七大魔としての名前以外の知名度はほとんどなく、どのあたりで活動しているのかも不明でした」
「手詰まり、ってことかよ」
ブルームは呆れ顔になってため息をついた。しかし、キュアノスはルナの方をじっとみていた。
「でもルナが何の情報もなく私の前にのこのこと来るはずがないよね?」
「はい。メランコリアは時々、理由は不明ですが、人間をさらっているそうなんです。その時の情報も、ほとんどが ”近くにいたはずなのに突然いなくなっている” とのこと。そして、最後にその被害があった場所を特定することに成功しました」
「…その場所は?」
その問いに少しルナは黙ったが、息を一度吸って言った。
「…この王国の最東端の都市、サビア郊外の砂漠、だそうです」
「は!?あそこに魔族は入れねえはずだろ?でまかせじゃないだろうな」
「魔族との国境は西の方なんだけどなあ。どうやってあんなところまで人間、私たちに気づかれずに行ったんだろうね」
言葉に表さなかったシリウスとリゲルも当然驚いていた。そして、そんな相手にどうやって太刀打ちすればいいのか考えもつかなくて、焦っていた。
「話が少し変わりますが、 "影渡” の能力は、使用者自身の魔力で使いたい場所にマーキングをして、そこに誰かの影がかかったら自由にそこから出入りできるというもので、特に夜は常にマーキングをした場所に影ができるので自由度が増すというものなんですよ」
「そんなのどうやって対策すればいいんだよ」
「まあ、そんな便利すぎる能力であるからこそ、明確な縛りがあります。一つ目は、同時に使用できるマーキングが最大五箇所なこと。二つ目は、マーキングがひとつ消えるのに一年はかかるということ、です。私が調べた前回の事件は、発生からまだ一年たってないとのこと」
「なるほど、さすがはルナ。そこまでしっかりと調べてきてくれてるね。本当に毎度感謝だ」
「ありがたいのですが、そんなに怖い顔でほめないでください」
「となると、マーキングの場所は、三つはだいたいわかったかな。まずは魔族の国、次に前回の場所、そして、今回の場所だ。ソラ君を残り二つのところに運ばれたらお手上げかな」
「とりあえず、調べる場所の目星はつきましたね」
「それで、どうすんだ?俺は責任持って西の方を調査してくるが、他のところに誰が行くんだ?」
「他の騎士たちからの協力はあまり期待しない方がいい。上から断られたよ。救出対象がたった一人の騎士だからね」
「こんなことは申し上げにくいのですが、私は王都を離れられないので。申し訳ありません」
「いいよ、ルナは十分やってくれた。だから、サビアには私が行く」
「また申し訳ないのですが、今年からあと三年は水性魔法隊が王都の警備担当なので、一般隊員ならまだしも、キュアノスさんは隊長なので離れられません」
「ま〜ためんどくさいシステムに阻まれた。困ったなあ、東の方担当してるのは今誰だっけ?」
「今年は 木(風)性魔法隊ですね。手紙を送っておきましょうか?」
「いや、どうせ向こうも協力してくれないでしょ。だから困ったなあ」
手詰まりか、と思って何度目かわからない重たい沈黙に部屋が包み込まれたが、隊長たちの会話中黙っていた銀髪の騎士が手を挙げた。
「……私が、行きます」
「先ほど言ったように、水性魔法隊のあなたは王都は出られないはずですよ」
「そのときに『一般隊員なら』って言ってましたよね。それなら私は行っても損害は少ないです」
「だめだ。相手は”七大魔”だし、単独で行くのは危険すぎる」
「それは承知の上です。それと、リゲルもついてきます。キュアノス隊長、どうか、許可を」
シリウスは深く頭を下げた。それにつられて、後ろにいたリゲルもサッと頭を下げた。
「いいんじゃねえの?こいつらはソラ少年と深い繋がりがあるんだろ?二人とも騎士なんだ、行かせてやれよ」
「……」
「お願いします…!」
「いいだろう。ただし、危険があったら直ちに引き返すこと。無駄死には許さない」
「はい」
「それと、ソラ君を発見した場合、近くの騎士団員を見つけて安全に支拠点まで運ぶこと。いいね?」
「はい!」
「それじゃ、行ってきなさい。水神様のご加護があらんことを。気をつけてね」
そう言って、キュアノスはこの日初めての笑顔で二人を送り出した。
扉が閉まった後、キュアノスは長いため息をついた。
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
「いい後輩を持ったじゃねえか。羨ましいぜ」
「はぁ〜〜〜〜〜〜不安で数日は眠れなそうだ」
「と言いつつもキュアノスさんはこのあと一刻もせずに眠りについたのだった」
「ルナ、今の冗談は取り消そうか。最近で一番嫌だった」
「あっはっはっは!お前ってなんだかんだ面白いこと言うよな」
こうして、キュアノスの隊長室の雰囲気はいつものものに近づいていった。