第二話 『覚悟』
「突然何よ⁉︎」
爆発の後、紅い光がさらに強くなり、元から色づいていた木々をさらに紅く染めた。爆発、この光の出どころは遺跡の中心地、すなわち結界の中心でもある。
「まさか、結界が……!」
パリンッとガラスが割れるような音がした後、光の元がだんだん大きくなり、遺跡を丸ごと包み込んだ。
「これは…相当まずいことになったわね」
「爆発はしないんじゃなかったのか?」
「ちょっと黙っててもらえる?今からどうするか考えるから」
冗談を言ってみた空だったが、この状況は、この世界に来たばっかで魔法や結界の知識などまったくない彼でも異常だと大体理解できた。シリウスは「あー」「うー」などとうなって考え込んでいたが、やがて覚悟を決めたような顔になり、空の方を向いて言った。
「まあいいわ、あんたはここで待ってなさい。私が一人で解決するわ」
「本当に大丈夫か?なんかめっちゃやばそうな予感がするが」
「ごちゃごちゃうるさいわね、私は騎士よ。あんたを含む一般人を守るという使命があるからには、この状況が悪化する前に一人で止めるのが最善よ」
「でも……」
空は、シリウスが行こうとするのを止めようとした。でも、彼にその資格はないと、彼自身もわかっていた。 異世界から来たとはいえ、彼はこの世界では一般人なのだから。
「あなたに水神様のご加護がありますように。じゃ、またね。話し相手ありがとう」
そう言い放って、彼女はすぐに光の中に消えてしまった。
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俺はいつも大切な人に守られ、先に行かれてばっかりだった。
小さな頃、大きな地震で家が崩れて、俺は一人家の中に取り残された。大きな声で泣き叫んでも、他の人は自分のことで精一杯、子供一人のことなど気にしていなかった。
そんな中、俺を助け出してくれたのは消防隊員のお父さんだった。
お父さんは俺を助け出した後、「お父さんは他に困っている人たちを助けに行くよ。空は偉い子だから、お母さんのところで待っていなさい。また後で一緒にごはん食べようね」って優しい声で言ったっきり、帰ってこなかった。
こっちの田舎に引っ越してきた後もそうだった。
俺は都会から引っ越してきた変わり者だからと言って、地元の子供達にいじめられていた。
そんな俺を友達と呼び、仲間にいれてくれた一つか二つ上の一人の男の子がいた。彼も俺と同じく小さい頃にこの町に引っ越してきたそうだが、その明るい性格で町の学校にうまく馴染むことができたそうだった。彼のおかげで他の友達もできたし、なにより、星を見る楽しさを教えてくれた。
ある大雨の日の夜だった。その日の雨は三十年に一度とか言う記録的な大雨だったそうで、俺らが住む地域に避難指示が出されていた。小学校の体育館に彼と二人で避難していた俺は、不安でずっと震えていて、泣きそうになっていた。
すると彼が俺を安心させるためか、明日晴れたら星を見に行こうと言い始めた。どんな星が見えるかな、月はどんな形かな、などと話しかけてくれたが、それでも俺の不安が晴れない様子を見て「わかった、じゃあ家から望遠鏡を持ってきてやるよ。そしたら笑ってくれよ。約束だぞ」と言って、体育館を駆け出していった。
その二十分後くらいにお母さんが到着し俺に抱きついてくれたが、彼がまだ帰ってこないことに不安をさらに募らせた。
その後勇気を持って外に出てみたが、彼の家への道路は、崖崩れでなくなっていた。
シリウスは、今日初めて話したばっかでほとんど赤の他人だ。そもそも、俺が生まれ育った世界の人間じゃない。でも、今回も同じだ。シリウスはこの都市の人々、そして、俺を守るために、一人で危険に立ち向かっている。
ーー俺はまた一人で逃げるのか?一人で進む勇気をもった他人を見捨てて?
「……せっかく違う世界に来たんだ、俺も変わらなくちゃ意味がないぜ」
俺は、そう呟いて、光の中に足を踏み入れた。
俺は、もうあっちの世界にいた頃の ”星野 空” じゃない。この世界の "ホシノ ソラ” だ。
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