第六話 『四隊長の会議』
「え……なんで、みんな覚えてないんだよ…ルミナのことも…」
(でもこの感じ、多分みんな忘れてるというか、そもそも本当になかったような反応だ。どういうことなんだ…?)
「そうだ、行けばみんなわかるはずだ。たとえみんな忘れてたとしても、迷宮の存在は証明できる…!みんな、ちょっとついてきてくれ。すぐに着くから」
「そこまでいうなら行ってもいいけどさ。本当にあるのかい?」
「ああ、あるはず、なんだ」
しかし、迷宮の入り口があったはずの場所は、ただの岩場になっていた。それも、今の魔族の襲撃で作られたものではなかった。
「なんでだよ、なんでないんだよ……?」
「どうしたんだい?結局ないじゃないか」
ソラは、愕然とした。あの日はなかったことになっていること、星神に会えなくなったこと、そして、ルミナ・フルミーネという存在が、世界の記憶から消失していることに、動揺を隠せなかった。
「ソラ、本当に大丈夫?」
ソラには今言いたいこと、伝えたいことがたくさんあったが、シリウスの心の傷を考えて、これ以上今は何もこのことについて考えないようにすることにした。
「……ああ、大丈夫だ。シリウスが辛い思いしてるのに、心配させてごめんな」
「ううん、私はいいの……」
「ソラ君も落ち着いたかな?それじゃあ、戻ろうか。とりあえずは心身ともに休んで、そのあとにあいつらの対策を考えるよ」
ソラたちが帰ってきてから少しして、ソラはキュアノスに呼び出されて会議室と思われる部屋に入った。
「失礼しまーす…… !?」
ソラが扉を開けて中に入ると、ソラは会議室の中心に立たされていた。彼の周りを囲むように、円型の机が置いてあり、七つの席があった。それぞれの席には七属性の紋様が描かれており、金(雷)属性、月属性、火属性、そして水属性の席には騎士が座っていた。水の席には、ソラが見覚えのある人物がいた。
「よく来たね、ソラ君。その扉には転移魔法がかけられていて、開けた者をそこに移動させるんだ。もちろん、選んだ人だけだけどね」
「キュアノス…!こりゃなんのドッキリだよ」
「おい、自分より身分の上の者には敬語を使え、新人」
火の席に座っている黒髪の男が、厳しい口調でそう告げた。
「あ、はい。すみませんでした」
(なんかこの人、リゲルににてる…?)
「まあまあ、それくらいいいじゃねえか。俺だって同じ立場だったら、キュアノスには敬語使いたくねえな」
雷の席に座っている色黒で大柄な男は、そう言って豪快に笑った。
「ひどいね〜君、あんまりひどいこと言うと、私だって泣いちゃうんだぞ?」
「冗談はその辺で。キュアノスさんが呼んだ彼も来たことですし、そろそろ本題に入りましょう」
月の席に座っている落ち着いた雰囲気の長髪で紺色の髪の女性が言った。
「そうだね。今日は四人しか集まれなかったけど、とりあえず話し合おうか」
「あのー、キュアノス……隊長、ここにいるのって…」
ソラは、妙な威圧感を発して自分を見ている四人を見回した。
「そう、君の察しの通り、みんなそれぞれ別の隊の隊長さ。そんなことは後で紹介するね」
「そんなこと…!?」
「今回の議題は、突如現れた二人の魔族について。先に現場に着いていた団員によると、二人とも別の”七大魔”を名乗っていたそうだ」
「へぇ、そいつはおもしれえな」
雷の席の男はそれを聞いて笑みを浮かべた。ソラには彼のことが戦いを楽しむ狂人のように見えた。
「何も面白くなんかありませんよ。なぜ、この時にここに二人の大魔族が現れたのか…まったく見当がつきませんね」
「その見当をつけるために、そいつを呼んだんじゃないのか、キュアノス」
「そうだね、というわけでソラ君、尋問の時間だよ」
「は…?」
「君はあの二人に心当たりは?」
「全くないぜ。そもそもこの世界に来てからまだ一週間も経ってない……この話はいいや」
ソラは、自分の境遇を話そうと思って口ごもった。自分が別の世界から来たなんて言えば、頭がおかしいとみられて当然だ。やはりそれを話せないのは辛いことだとソラは思った。
「じゃあ自分が狙われるわけがわからないんだね。大体見当はつけてるけど」
「え、尋問終わり?早っ…」
「その『この世界に来てからまだ一週間も経ってない』ってのが答えなんじゃないのか?意味わからん話だが」
「それも関係あるかも知れないし、関係ないかも知れない。でもそういうのじゃないかな」
キュアノスは、手を机の上で組んで、余裕が感じられる笑みを浮かべた。そして、ソラをじっと見つめた。
「…その”目”で手に入る情報の中にあるってことか。まったく、俺ら話し合う必要ないじゃねえか」
「それを共有したかったってのはあるけどね。今まで極めて前例の少ないことだったからね」
「その”情報”とはなんだ?勿体ぶらずに話せ。この会議に無駄な時間は使いたくねえ」
炎の席に座っている男は少しイライラしたようにキュアノスに言った。キュアノスはそれにやれやれと言ったようにため息をついて、話を始めた。
「誰かさんと似て言葉がトゲトゲしてるなあ、ベテル。そんなんじゃ嫌われるよ。まあ私も時間を無駄にしたくないってのは同意見だ。ソラ君の魔力は、七曜のどの属性にも属していない。それが神々から加護を受けていないっていうのではなくて、七曜の神とは別の神から加護を受けている、といったところだろうか。尋問再開だ。この別の神について心当たりは…ありそうだね」
「ああ、星神のやつのことだ」
「やはりそのようだね」
「星神…!?なぜ神とはいえ、後から成った者の加護を受ける者が存在するのです…?」
「そこまでは、私にもわからないかな」
「でも、それがわかったところで何になるんだ?」
「さあ?じゃあ対策を考えようか」
やっと会議が始まる…とソラが思ったのも束の間、ベテルと呼ばれた炎の席の男の提案で、すぐに会議は終わりの方向に舵を切った。
「…とりあえず、こいつが狙われているってことは、こいつを隠しておけば奴等は来ねえはずだよな」
「え、それってつまり…」
「なるほど、まあソラ君がちょっとかわいそうだけど、ひとまずは仕方ないか」
「あ、やべ。俺に拒否権なさそうな話になった」
「というわけでソラ君、君を騎士団で監禁させてもらうよ。どんまい」
「『どんまい』じゃねえよおぉぉぉ〜!」
「じゃあ、かわいそうな彼を私が連れてくから、今日はこれで終わり。解散解散〜」
陽気な声でそうキュアノスが言って、この話し合いはすぐに終わりとなった。そして、そのキュアノスに、ソラはすぐに彼の部屋に連れて行かれた。
「……あいつ、クソ適当だな。この時間はなんだったんだ」
「…そうですね」
「間違いねえな」
会議室に残された三人は、ため息をついてそれぞれ言った。




