第二話 『メリクリウス邸にて』
「うわあ、なんだこれ!豪邸とかのレベルじゃねえぞ」
三人の前にあるのは、シリウスの家、なのだが、もはやただの家ではない。まさに宮殿とでもいうべきな広さをしている。薔薇などが咲き乱れている洋式庭園を見て、ソラはベルサイユ宮殿ってこんな感じだったっけ、などと一人思った。
「さ、二人ともこっちよ」
「シリウスの家が宮殿ってどういうこと?教えて、先輩」
「シリウスはな、その家名から分かる通り王家の懐刀と言われているメリクリウス家のお嬢様なんだよ。名前くらい聞いたことあるだろ」
「ごめん、俺、この世界の常識全く知らないんすわ」
「この世界ぃ?ここ以外に別の世界があって、そこから来たとでもいうのかお前」
「実際そうなんだけどなぁ。どうせ信じてもらえるわけないし、やっぱり忘れてくれ。でも、そんなお偉いさんのとこのお嬢様とこんな親しげに話していいのかよ、俺ら。なんか不敬罪とかで首が飛んだりはしないのか?」
「シリウスは、自分から騎士団に入って、みんなと対等な扱いをしてくれって頼んだからいいんだよ。それでも他の人に対しては冷たい性格だし、一般団員と比べてかなり優秀だったから、みんなからは親しまれることはあんまりなかったな」
「なるほど。そんなシリウスに惚れちゃった先輩は仲良くなるチャンスだと思って親しく接したと」
「は、はぁ!?そんなんじゃねえし!シリウスが同期で俺の次に強かったから気になっていただけだし!」
「ほら二人とも、着いたわよ。ここならいくら魔法をぶっ放しても大丈夫でしょう」
「うおお、とにかく広い…」
リゲルが広場と呼んでいたであろう場所は、よく整備されたグラウンドのような場所で、広さは野球場ほどあるように見えた。
「たまたま一般開放日じゃなくてよかったわね。今日は心置きなくここ全部を使えるわ」
「いよっしゃー!それじゃあ、よろしくお願いします、先輩方!」
「よし、しごいてやるよ、元気な新人。同期で一番強い俺が直々にな!」
「たぶん同い年なんだから先輩はやめてよね。あとリゲル、私たち世代で一番戦績、成績がいいのはこの私よ」
「おお、やんのかシリウス?言っとくけど手加減はしないぜ」
「手加減しなくても結果は私の勝ちで終わりよ。ほら、大人しくソラに指導しなさい」
「ほらほら二人ともその辺に……」
「おやおや、お客さまですかな、お嬢様」
「うわあ!?びっくりした…いつの間に?」
ソラの後ろから、突然低い老人の声が聞こえた。驚いてソラが振り返ると、ソラよりも背が高い、執事服を着た白髪の男性が立っていた。
「あら、フィーデル、久しぶりね。彼らは私の騎士仲間にして友人よ。二人とも、紹介するわ。彼はフィーデル。見ての通りメリクリウス家の執事よ。それだけじゃなくて、元騎士だから、剣術もとても優れているの。私やお母様もフィーデルに稽古をつけてもらったのよ。だから、ちょうどよかったわ。ソラもフィーデルに指導してもらいなさい。いいわよね、フィーデル」
「ええ、構いませんとも。お嬢様の願いとあらば」
「えええ、そこまでしてもらっていいのかな、俺。でも強くなってみんなを守るために、やるしかないぜ。というわけでお願いします、師匠!」
「いい意気込みですぞ、ご友人様。あと、師匠など堅苦しい呼び名はよしてくだされ。フィーデル、と呼んでくださって構いませぬ。では剣術の基本の構えから」
ソラはフィーデルから木刀を渡され、それを持って構えた。
「じゃあよろしくな、執事さん。俺は向こうでそこのお嬢様と決着をつけてくるぜ」
「本当にやる気なのね、リゲル。じゃあせめて、面白い戦いにしてよね」
「お嬢様、くれぐれも無理はしないように願います。あまり貴方様が傷つかれると、当主様が悲しまれますゆえ」
「………ええ、わかっているわ」
そう言って、シリウスはリゲルが待っている方へ剣を持って行った。
「はい、これで魔法の威力対決もまた私の勝ちね」
「だぁぁ〜納得いかねえ!これはここの環境にお前が慣れてるからだ!だから引き分けだ!」
「この場所を選んだのはあなたよね?それより、ソラ、飲み込みが早いわね。もうすでに少しは戦えるんじゃないかしら?」
「それはないと思うが……あいつに関してちょっといいか?」
「どうしたの?ソラになんか刺さる悪口でも言われたの?」
「そういうのじゃなくて、真面目な話だ。あいつ、このままだと魔法が使えねえ」
「それは、まだなにも教わってないから仕方ないんじゃない?」
「察しが悪いな。あの隊長が言っていただろ、あいつの魔力はあきらかに異常だって。しかも、あの”目”を持っていない俺でも分かる。あいつの魔力があいつの体からどんどん出ていっているように感じる。このままじゃあいつの体の中に魔力を貯めることができねえ。流石にそれくらいはわかっているだろ、シリウス」
「やっぱり、ちゃんと気にかけてるのね、ソラのこと。でも、ソラは魔力がなくなって倒れたりはしないじゃない。それに、ソラは、魔法が使えなくても、誰かを助けるために全力で努力するわ。だから大丈夫だと思うの」
「なんで、お前があいつをそんなに信頼してるかはわかんねえけどよ……」
「お〜い、二人とも、俺、なんか強くなった気がするぜ!」
「よかったわね、ソラ。フィーデル、ありがとうね」
「……まあ考えるのは後でいいか」
「ん、どうしたんだ、先輩?」
「なんでもねえ。まあ、これからも頑張れよ」
「もしよければ、御三方、今日はもう遅いですし、今晩はこの屋敷に泊まって行かれてはどうですか?」
「いいんですか!やった〜、うまい飯とかあるんだろうな」
「えええ!?私は別にいいかな…」
「なんでだよ、ここお前の家だぜ。なんも遠慮することはねえよ」
「そうだぞ、三人で泊まった方が楽しいぞ」
「二人がそういうなら……じゃあフィーデル、二人を案内して」
「はい、承りました」
うきうきで屋敷に入っていったソラとリゲルだったが、それとは裏腹に、シリウスは気持ちが沈んでいた。




