第一話 『新しい先輩』
ソラはキュアノスに連れられて、彼女の隊長室に来た。
「は~いというわけで、初日目から遅刻して寄り道してきたソラ君を連れてきました~。ソラ君、何か言うことは?」
「......なんかその言い方で謝る気なくなってきた」
隊長室の中にはシリウスと、ソラが初めて見る黒髪の男が立っていた。
「おはようシリウス。ここの騎士って結構良待遇受けているんだな。あの部屋のベッドめっちゃ寝心地よかったんだけど」
「おはよう、ソラ。まさか寝坊して遅刻したんじゃないでしょうね」
「いやいや、こんな広い建物の中をあんなわかりにくい地図で初見で迷わず動くのは不可能だと思うんだけどなあ。......実際ちょっと長く寝すぎたのもあるけど」
「それを寝坊っていうのよ!せっかく騎士服似合ってるって思ったのに台無しじゃない」
「え、似合ってる?同年代の女の子にそんなふうに褒められるとうれしくなっちゃうな」
「そういうつもりで言ったんじゃないわよ!ちゃんと遅刻したこと謝りなさい」
そんな二人のやりとりを黙って見ていた男が口を開いた。
「なんかおめでたい頭のやつが騎士団に入ってきたな。ここはそんな甘いとこじゃねえぞ」
「そういえば、あんた誰?」
「紹介しよう。この第一声から攻撃的な男の子はリゲル。君やシリウスと同じ世代の子だよ。同じ隊の仲間として仲良くしてあげてね」
「ま〜たアンタが勝手に団員増やしちゃったんですか。しかも今度は魔法を使えないとかいうやつを」
「こんな感じで言葉遣いは荒いけど、意外と真面目で面倒見がいいから、今日からソラ君の指南役になってくれるよ。じゃあリゲル、あとはよろしく〜」
「なんで勝手に俺の仕事増やしやがるんですか!そこにいるシリウスじゃだめなんですかい?流石にキュアノス隊長よりは教えるの上手いと思うんですが」
「あなた教えるの上手じゃない。そんな言葉遣いだから損しているだけで、根は優しい人だって私知っているわ。少なくとも魔法の実力はともかく、指導ということに関しては私より上よ。まあ流石に私もキュアノス隊長よりは教えるの上手いけど」
「ま、まあやらないとは言ってないけどな。お前がそういうならやってもいいぜ」
「あれ、こいつ照れてる。ここに来て二日目にして意外な騎士団員の恋愛事情発覚か?」
「おいうるせえ新人!しょうがなくお前の鍛錬に付き合ってやる。ビシバシ厳しくやるからな。覚悟しとけ!」
「さっき根は優しい人って思いっきり暴露されてたけどな。まあ流石にキュアノスよりは教えるの上手いと思うけど」
「……みんなして私のこといじり倒すのやめてくれないかな。私だって乙女なんだから、そんなに言われたら泣いちゃうよ」
「あんたが泣いているところ想像できないんだが」
「確かに、キュアノス隊長が泣いているところなんて想像できないわ」
「メンタル強強だもんな」
「誰か一人くらいは慰めてくれてもいいんだよ…。あ〜あ、私を慰める要員で誰か新しい人雇おうかな〜」
「それじゃあ行くぞ、新人。俺のことは先輩と呼べよ」
「どうせ後輩が欲しかっただけなんでしょ、リゲル。まあ私も一応ついていくわ。あの遺跡が破壊された以上、いまのところ私の任務はないもの」
「なんかかわいいな、こいつ」
「おい!先輩って呼べって言っただろ」
「はいはい、リゲル先輩」
「『はい』は一回だ!」
「はい、先輩!」
「なんかいきなり仲良くなったわね。男の子ってよくわからないわ」
「で、どこに行くんですか、先輩」
「どこって、鍛錬場に決まっているだろう」
「今日は鍛錬場は使えないわ。休日で修理の日だもの」
「じゃあ中庭で…」
「中庭は魔法禁止よ」
「ポンコツだな、先輩」
「…こうなったら最終手段だ!シリウス!お前の家の広場行かせろ!」
「えええええ……結局私に頼るのね。多分来ても大丈夫だと思うけど、ソラのためになんとかしてあげるわ」
「家の中に広場あんのかよ。金持ちなのか、シリウス」
「そうと決まればいざ出発だ!じゃ、シリウス、案内して」
「やっぱり私に任せるのね…」
こうして和気あいあいとした三人はキュアノスの隊長室を出て、外に出かけていった。それを一人見ていたキュアノスは、少し不満げな表情を浮かべていた。
「……信頼の裏返しって考えるのもいいけど、やっぱり、慰める要員の人、雇おうかな」




