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ソラノセカイ:理想郷  作者: Suzu8
第一部一章 『紅星の遺跡』
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第一話 『遺跡の前の少女』

 彼ーー星野空 は全校生徒数40人くらいの田舎の高校に通う、ふつうの高校生だ。星、夜空が好きなこと以外は普通の高校生で、成績も普通、身長、身体能力も普通で、これといった特徴もなかった。空一人だけが所属する天文部の校外学習と称して、流星群の観察のために家族に大した連絡もせず家の近くの山に登っていき、星を観察していた…はずなのだが、突然野原の上で眠りについたのである。


「あれ、俺こんな時間まで寝ていたのか」


 空が目を覚ましたのは、日がかなり高くまで昇った時だった。ぼんやりしていた目をこすり、辺りを見回した空は、空を取り巻く環境の異変に気づいた。


「……ここ、どこだ?」


 空がいた場所は確かに草原であったが、昨夜空が星空を見上げていたものとは違う場所であった。草原、周りの木々などが夏なのに赤く染まっている。しかし、この赤は紅葉によって染まっているものではなさそうだった。また、木々の向こうに今までになかった石造の神殿のようなものがあった。


「俺、もしかして異世界転移しちゃった感じ?なんも準備してないのにどうして急に…って異世界転移ってそういうもんもあるもんな、仕方ない。まずは情報収集から始めよう。そもそも言葉って通じるのか…?」


 いろいろと考えていた空だったが、ここにいてもどうしようもないと思い、地面に落ちていた自分の鞄を拾い上げて、遺跡に向かって歩き始めた。






 空は目的地に向かいながら、ここが異世界であることを理解させられた。意思をもって枝を動かしている木々、ヘビを丸呑みする大きすぎるカエル、真っ赤すぎて逆に不気味な蝶…。どれも現実世界ではありえない光景だった。


 たどり着いた建造物の奥には、何やら淡く赤く光るものがあった。この赤い光が、木々を照らしているのだろう。空は、建造物の前に行き、全体像がはっきり見える場所に立った。


「これがいわゆるダンジョンってやつか?まだ武器とか魔法とか使えないし、パーティーメンバー俺しかいないってのに。そもそもこっち世界の人にまだ会えてないし」


 町の中にコンビニが一軒しかないような田舎に住んでいる空でも、スマートフォンという文明の発達のおかげで異世界系のマンガ・ラノベの知識は結構ある。


「でももしかしたら俺にもチート能力ってやつが……ある…のか?まあとりあえず、進まないことには何も始まらないっしょ」


 二次元の世界で学んだ異世界転移者の理想を思い浮かべながら、空は意気込んでダンジョン(?)の門らしきところから中に足を踏み入れた。


「ちょっとそこのあんた、待ちなさい!一般人が勝手に遺跡に入ったらダメなんだから」


 直後、甲高い女性の声で空は足を止めた。振り返ると、同年代くらいだが、いかにも騎士らしい格好の銀髪の女性が立っていた。


「第一住民発見。じゃなくて、えっと……ここに入ると何かまずいことでもあるんですか?爆発したり…」


「爆発はしないわよ!まさかあなた、この遺跡のこと知らないの?」


 どうやらこの世界では、この遺跡に関しての話は子供でも知っているような一般常識らしい。当然異世界から来た空には、そんな知識はない。


「いやあ、その…本当に全く知らない……です…」


「そんなことないはず………いや、この口ぶり、本当に知らない…?」


 彼女はそう言って少し考え込んだ後、諦めたような感じで言った。


「まあいいわ、あなたここの国の人間じゃなさそうだし。あと一人でずっと暇だったから、話し相手になってちょうだい。私の名前はシリウス、よろしくね」


「えええ…………」


 そう言って彼女は近くの岩に座りこんだ。



 



「ごめん、やっぱりちょっとなにいってるかよくわからないわ」


「いや〜自分で言ってみても意味わからんことばっかだけど事実なんだよなぁ…」


 空はシリウスに自分の状況、境遇(別の世界の住民であること、流星を見て眠ってしまった後突然この世界に来てしまっていたこと)を簡単に話した。


「ていうか今までに同じような人いなかったのか?」


「確かに今までも何人か『自分は異世界から来た』とか言っている人がごくごくたまーにいたらしいのだけど、本当にそんなこと言う人いるなんて…。なんなら流れ星で気絶とか本当に意味がわからないわ」


「まあ信じてくれないならそれでいいけどよ…」


 前例がいて空は少し安堵したが、そのような人に会えることは稀だろうと思い、シリウスに現状を正しく伝えるのを諦めた。


「それで、シリウスはこんなところで何してるんだ?なんか騎士っぽい格好してるけど」


「ふふん、聞いて驚かないでちょうだいね。私はこのアステル王国直属魔法騎士団が一人、シリウス・メリクリウスよ!」


「ほぇ〜。で、こんなところでなにしてるんだ?」


「もっと驚いてくれてもよかったのよ?私はね、この遺跡の中心に張ってある結界を管理してるの。すごいでしょう」


 そうやってお茶目にふるまう彼女の言葉に反して、顔にはなぜか笑みが無かった。


「一人でか?」


「そう、一人で。まあ一人だから退屈なんだけどね。だから暇つぶしの話し相手としてたまたまあなたが選ばれたってことよ」


 こんな感じのちょっといい加減な性格のやつに結界の管理が務まるのか?なんて空は思ったが、心の中に留めておくことにした。


「そういえば、あんたの名前、まだ聞いてなかったわよね」


「確かに、自己紹介はしたけど名前は言ってなかったな。俺の名前はーー」


 星野空 と言いかけた瞬間、小さかった紅い光が急に眩しくなり遺跡の中心付近から爆発音のようなものが聞こえた。

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