第四話 『超再生能力』
* * * * * * * * * *
「はぁ、はぁ、なんでこんなにアンデットがいっぱい湧いてるのよ!」
シリウスは迷路の中で大量のアンデットとの戦いを強いられていた。アンデット一体一体ならそこまで強くないが、ここまで多いと厄介になる存在である。そのアンデットたちは勢いよく生きた人間であるシリウスの方に向かってくる。
「このまま戦っているとジリ貧で魔力切れで終わりね。なにかこう、全員を一掃できる打開策は…」
シリウスは変わらない状況をどうにか変えるための何かを戦いながら自分の目で探し始めた。しかし、周りには敵か壁しか見当たらない。彼女は少し迷いながらも、この場を抜け出すある決断をした。
「騎士道精神的になんかやりたくないけど、ここは逃げることにするわ!というわけで目の前のやつ全員道を開けなさい!」
彼女はここで時間と体力を消耗すべきではないと判断し、自分の前の敵だけを倒しながら先に進むことに決めた。
すると、彼女は少し先になにか小さく光る物体を発見した。近づいて見てみると、それは地上の遺跡にあった割れた水晶玉の破片であった。
「これは……とりあえず危険かもしれないから持ち帰って報告しましょう。それにしても、この遺跡の調査を訓練って称して私にやらせるって、隊長教えるの下手なだけじゃなくてやっぱり性格も悪…」
突然、その破片が眩しく光りだした。その光で先ほど後ろにいたアンデットたちは浄化され、いなくなってしまった。そして、その破片は地上で炎の精霊が出てきた時のように消滅した。
「今度は何!?」
『なるほど、これはおもしろいことになっているね』
「ふぇ、キュアノス隊長!?声はどこから……あ」
シリウスは、自分の服のポケットに、小さく軽い魔力を帯びたものがあることに気づいた。
『君の想像通り、君のポケットの中に私の魔法がかけてある青い魔石が入っているよ。性格が悪いってちゃんと言ったの、丸聞こえだからね』
「やっぱり…。それで、おもしろいこととは一体どういう…?」
『…まず性格が悪いって上官にむかって言ったこと謝るべきなんじゃないかな?まあそんなことは置いといて、今の破片から神気に近い魔力が観測された。アンデットをここまで綺麗さっぱりに浄化できるんだから、不思議なことじゃない。しかしこれは、今回の事件には七曜神の中の、おそらく”火神”が関わっているということになるかもしれないね』
「それって全然面白くもなくやばいことじゃないですか!というか、隊長って魔石を通じてでも魔力や神気を観測することってできるんですね」
『いや、できないよ』
「え?」
『この私の答えが意味することは…』
「えっと、つまり……?」
シリウスはおそるおそる後ろを振り返ってみた。すると、やはり彼女の予想通りキュアノスが後ろに立っているのを発見した。
「ということで、楽しそうだから私も調査に来ちゃいました☆」
「まったく楽しくなんかないですよ!あんなに大量のアンデットにたかられたんですから!」
「というのは冗談で、やっぱりあの精霊が気掛かりでね。強大な力を持つ精霊は名前をつけられて騎士団のリストに登録されているんだけど、登録されていない普通の精霊にしてはあまりにも強すぎたからね」
「隊長その強いはずの精霊を簡単に倒してましたけどね…」
「いや、その精霊からもさっきと同じような魔力が観測できたんだ。あんなに強いやつがこんなに簡単に終わるわけがないと、私は思ってね。で、やってきてみたらこの通りさ」
この人ちゃんと仕事してるんだな、とシリウスは思ったが、口には出さないようにした。
「ところで、あの子とはまだ会えてないのかい?」
「ああ、ソラのことですか?そういえば、全然合流できてないですね。もう結構先まで進んでたり?まさか、ここで死ん…」
「いや、それはないな。私の”目”が見える限りは、彼は私たちとは全然違う場所に進んでいるようだね。前進か後退かはわからないけど、ずっと同じ場所で彷徨っている誰かさんとは違うようだね」
「隊長本当にどこまで見てるんですか………」
キュアノスは、シリウスをいじって笑った。そして、シリウスの嫌そうな顔を見て満足し、先の道を見た。
「とりあえず私たちも先に進もうか。まだこの遺跡に火神の残した何かがあるかもしれないからね」
二人は話に一段落つけて、迷路を先に進み始めた。
* * * * * * * * * * *
(うう、なんかくらくらする。ここは…?)
ソラは、迷宮の大倉庫で目を覚ました。彼はどうしてか、妙に立ちくらみがして、ものすごい疲労感に襲われていた。
「ここは、倉庫…………そうだ、俺の腕…!あれ?無くなってない…」
ソラは目覚めてすぐ、エルフの少女に腕を切られたのを思い出して彼の腕を見た。しかし、どちらの腕を切られたかは覚えていないが、両腕ともついていたし、彼の意志で今まで通り動かせる状態だった。
ソラが奇妙そうに彼の腕を眺めていると、彼の後ろから、幼い少女の声がした。
「そう、綺麗に再生されてるわね。まるで元のものと同じように」
「再生、された…?っお前……!」
ソラは、自分の腕を斬り飛ばした少女のことを見て、怒りをあらわにした。しかし、その少女には自分を簡単に殺せるだけの力があることを彼自身でもわかっていたから、湧いてきた恐怖心で反撃に出られなかった。
その少女はそんなソラを軽く見て、幼い声だと違和感のある大人びた話し方で言った。
「そうね、急に腕を飛ばしたことについては謝っておくわ。あと、実験への協力、感謝するわ」
「謝って済むもんじゃねえよ、普通。そもそも”実験”とやらででなんで俺の腕飛ばす必要がある?あと、なんで俺の体が治っていやがるんだ?」
その少女の価値観は、明らかに普通の人間とはかけ離れたものだった。それを実感しながら、ソラは自分の体にある、別の意味で普通の人間とはかけ離れているものについて尋ねてみた。
「オマエ、まさか自分で気づいていなかったのかしら?オマエのもっている”異能”は、星属性の魔力に依存する、超再生能力、とでも言うべきかしら」
「俺の、”異能”…?それが、その”実験”となんの関係がある?」
「この迷宮の主が三百年も待ち続けた人間、それは星の魔力があること、そして、その”超再生能力”を持っていることが条件だった」
「だからなんだ、俺はそいつとは関係ねえ」
「関係なくたって構わないわ。それでも……」
「……?」
少女は、改めてソラの方を見て、間をおいて言った。
「……オマエの力を借りたいのよ」