第二話 『修行開始』
「あの、ここは…」
「ここが君の修行場だよ。じゃあ、頑張ってね。バイバ〜イ」
「えええ〜〜〜!?」
ーー遡ること数時間前、俺は念願の魔法習得に向けてキュアノスに魔力の扱いの基礎技術を叩き込まれていたわけだが、どうやらこの人教えるのそんな得意じゃないらしい。いや、そこまではいいんだけど、そこまでならいいんだけどさ…。
「何でいきなりこんなダンジョン潜らなきゃいけないんだよ!ある程度の魔力の扱い方は教えてもらったけど、魔法は全く使えない状態。こんな状態で前の遺跡の地下にあった迷路に一人で潜らされるって……。さすがにあの人頭おかしいんじゃないのか?なにが『やっぱり魔法は感覚だよね。習うより慣れよでしょ』だ。死ぬでしょ、普通!」
キュアノスが帰ってからソラしかいない迷宮の入り口で、彼は嘆いていた。ソラは迷宮から出て帰ることを試みたが、地下迷路の入り口にある透明の壁にぶつかった。中から外ははっきり見ることができるが、音は聞こえない。
「なるほどな………。ふざけんなよこのクソ隊長があ!」
ーーああやばい。あのきれいな笑顔がちょっとうざく見えてくる。入ってきた時にはもちろんこの壁はなかったし、キュアノスが帰っていった時も普通にここを素通りしていった。ということで可能性として最も高いのは、この壁はキュアノスが張った結界のようなものであろう。ここで俺死んだらどうするんだよ。
ソラは心の中で文句を言いながらも、キュアノスに与えられた松明と保存食を持って地下迷路を一人進み始めた。
「なんか思ったより静かだな。ここまで何事もなく進めてるぞ」
ソラは、地下迷路を順調に進んでいた。歩き始めてから三十分ほど経過したが、特に魔物と出会ったり、罠に引っかかったりすることもなく安全に迷路を進んでいる。
「あれ、もしかしてこのまま迷路クリアあるんじゃないか…?これは天が一人で突然迷路に突っ込まれた哀れな少年である俺に味方してくれているってことか。なんか自分で言ってて悲しくなってきたけど…神様ありがとう。どの属性の魔力でもないらしいけど」
そんなことを一人で言いながら前に進み続けているソラだったが、簡単に迷路を突破する予想でキュアノスが彼を迷路に送り出したわけでは当然ない。突然ゆっくりと歩いているソラの足元からなにやらカチッという音がした。
「………あれ、もしかしてコレやばいやつ…?」
そして、彼の足元一帯の石レンガの床が抜け、彼は一直線に穴の底に落ちていった。
「なんだよお!やっぱりあんなフラグ発言しなければよかった!」
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「え………?」
「う〜んなんというかね〜…シリウスもやっぱりもうちょっと強くなった方がいいかなって。今シリウスあの結界破壊されたから仕事ないでしょ。あと彼は実質君が連れてきたようなものだからね。というわけでテレポートポイントの準備はしておいたから、君も行っておいで。頑張ってね〜」
「えええ〜〜〜!?」
ーー……というわけで何故か私も地下迷路の入り口の前にいます。サボって帰ろうと思っても当然キュアノス隊長のことだから、私の騎士服のどこかに監視用の魔石入れてるんだろうな…。進むしか選択肢はなさそうね。
こうして今、二人目の挑戦者が地下迷路の中に入っていった。
「何よコレ、またさっきと同じところに戻ってきたじゃない!」
シリウスはソラとは違い、しっかり迷路の中を彷徨わされているようだった。分かれ道があるところにはしっかり壁に印をつけているのだが、彼女が選んだ道を進むと、何故か印をつけた場所に再び戻ってくるのである。
「先には進めないし空には合流できないし……こうなったら、迷路をわざわざしなくてもいいように壁を破壊してやるわ!アクアショット!」
彼女が魔法を壁に向かって打つと、古い迷路の壁はすぐさま崩れ、シリウスの前に道ができた。しかし、その音を聞きつけたのか、彼女の周りに大量のアンデットが湧いてきた。
「なんか迷路を攻略するよりもめんどくさいことになった気がする!けどここでこいつらを倒せば戦いの経験値が増えて強くなれるかも。……なんか隊長の思った通りになった気がする…」
そんなことを思いながら、彼女は魔物と戦闘を始めた。
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「……いっててて。あれ、結構高いところから落ちたはずなのにダメージがあんまりない。これって、魔力操作をちょっと鍛えたおかげ…?この世界すげーな」
ソラは十メートルくらいの高さから落下したので、かなり足腰にダメージを負っているはずである。にもかかわらず彼がこんなことを言っているのは、彼自身の体の驚異的な再生力によって傷ついた体が治っているというこを自覚せずに、自分が魔力操作を鍛えたからだと勘違いしているからである。
彼が落ちてからすぐ、落とし穴の中からゴーストのような魔物が数体出現した。
「なんだこいつら、この遺跡の亡霊みたいなやつか?もしかしてこれ戦闘イベント?そもそもこいつらって触れられるのか?…なんてどうでもいい。なんか俺、いける気がするっ!」
少しキュアノスに魔力操作を教えてもらった程度で謎に自信が出てきているソラは、キュアノスから護身用にもらった短剣をもってゴースト相手にに構えた。