第二話 花指輪のプロポーズ
宜しくお願い致します
とまぁこれが彼女が赤ん坊の頃の話であった。そんな彼女が少し大きくなり始めた頃。その時に疾う疾う運命の出会いを果たした。
「"アルバ"! 久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
「はい。"ゲイル"様と奥様もお元気そうで何よりで御座います」
「敬語はやめてくれ。私たちの仲だろ?」
アルバとはエリーゼの父親である。アルバは幼いエリーゼの手を引いている。エリーゼはその頃になるとすでに喋るし歩く。
周りの子よりも早くなんでもできてしまうので大人たちからは褒めちぎられたが彼女は元々女子高生だ。当然である。
見た目も細いふわふわの母譲りのはちみつ色の髪の毛をツインテイルにしていてクリクリの紫の瞳が愛らしく将来は美人になると何回も言われている。
ちなみに服装はフリフリのドレスである。
アルバはそんな娘を自慢に思っていてよく連れ歩いていて今回は自身と仲の良いゲイルという人物に会いに来た。
エリーゼの父は伯爵でありゲイルの家……"ハルマン家"は公爵家である。
ハルマン家は王家とも親戚の関係にある。ゲイルは現国王である"グランドール・フォン・ライラック"の実弟である。
グランドールはこのエリーゼたちの住む王国"ライラック"を治めている。
ゲイルとアルバは王立学校時代からの仲である。ゲイルは是非家族も紹介したいと自身の妻と息子も連れて来た。
アルバはエリーゼに挨拶する様に勧めた。
エリーゼは形式通りに可愛らしいカーテシーを披露した。
「初めまして。エリーゼ・ルドウィックと申します。よろしくお願いいたします」
「あらあら可愛いわぁ♡ 私は"アネモネ・ハルマン"と申します。宜しくお願いしますね? エリーゼ嬢」
幼いながらも完璧に挨拶する娘にアルバは鼻が高くなる。ゲイルの妻であるハルマン夫人もそんなエリーゼを気に入り出した。
「おやおや幼いのに挨拶できてえらいねぇ。"レイン"お前も見習いなさい」
ゲイルはそう言って自分たちの後ろに隠れる息子を前に出した。すると息子は少しモジモジしながらも
「初めまして……"レイン・ハルマン"と申します。よろしくお願いいたします」
と返した。
これにエリーゼは目をキラキラさせた。
「か……かわ……」
「え?」
「は……すみません。何でも御座いません。失礼いたしました」
何とか取り繕うエリーゼ。しかし心の中は興奮でいっぱいである。
(嘘ぉ! 主人公登場した! めっちゃ可愛い!)
そう目の前にいるレインはまさに例の小説の主人公なのである。
まず特徴として銀色の髪に涼やかなアイスブルーの瞳はまず同じである。涼しげな美少年だが可愛らしく子供らしいあどけなさがある。
服装も下は半ズボンで足にはソックスガーター。上には子供用の小さいスーツをビシッと着用している。
「うちの息子どうも人見知りでね。良かったらエリーゼ嬢に仲良くして頂けると嬉しいのだが」
「それはもう私は構いませんよ。エリーゼもいいかい?」
父の質問。エリーゼの答えは一つしかない。
「勿論ですわ! レイン様よろしくお願いいたします! 私とお友達になってくださいませ!」
「え? ぼ……僕でいいの?」
「はい!レイン様とがいいのです!」
エリーゼが食い気味に言うとレインは照れ臭そうにしてふにゃりと笑い
「うん。よろしくね? エリーゼ」
「はい。よろしくお願い致します!」
そこから二人の交友は始まった。
◇
それから……エリーゼは積極的にレインの元に訪れたしレインもまたエリーゼに会いにくるなど仲良く過ごしていた。
エリーゼ的には弟ができたみたいで可愛くて仕方ない様子である。
その日も従者を連れたエリーゼがレインの元へ顔を出していた。
「レイン様? って……あら?」
レインは何やら一心不乱に何か書いている。
「レイン様? 何を書いてらっしゃるの?」
「ん? うわ! びっくりしたぁ……何だエリーゼか……」
「何だとはどう言う意味ですの? それより何を一生懸命書いてらっしゃるのですか?」
エリーゼが質問するとレインは何やら悲しそうな顔をしている。
「……言っても笑わないか?」
「笑いません。それにレイン様の顔を見れば落ち込んでるのわかりますもの。そんな方に追い打ちをかける真似は致しません」
そう告げるとレインはそうかと安心した。
「……その……僕実は"ルイス"殿下と従兄弟なんだ……」
確かに関係性はそうなる。しかしそれがなぜ落ち込む理由につながるのか。それがわからず首を捻るエリーゼ。
「いや……前からなんだが、僕はよく殿下と比べられるんだ。つい最近も王族が主催する茶会に出席したが、周りからの僕への評価は散々だったんだよ。
僕はあまり要領が良くなくて何をしても平均的で……それに人見知りだ。けどルイス殿下は周りの人々を楽しませる話術も持ってるし何より僕の家より格上。それが……僕には苦しくて……だから……せめて勉強ぐらいは頑張ろうと思ったんだ。
比べられる機会を減らしたくて……」
その時エリーゼは思い出した。原作はどうしても主人公視点になる。その時もクローズアップされていたが、レインは従兄弟であるルイスにコンプレックスを抱いているのだ。
相手は自分より格上の存在。年も同じだが何をしても平凡な彼は王子の引き立て役にされて苦しい思いをしていた。だから勉強を頑張り最終的には学年首席で卒業する。それが更にざまぁ後のルイスやエリーゼを更に追い詰める。
それがストーリーの終盤であるはずなのだ。しかしエリーゼは少し考えてレインの目を見つめて
「私はレイン様のことすごいと思います」
「気休めはやめてくれ」
「気休めではありませんよ。貴方はそうやって自分の悪いところを克服しようとする向上心があります。それに平均というのは何でも卒なくバランスよくできると言うこと決して悪いことではありません」
エリーゼの解釈にレインは目を見開いた。
「レイン様? 貴方は確かにルイス様の従兄弟かもしれませんが貴方は貴方です。少なくとも私はレイン様の良いところを知っているつもりです」
そう言ってふわりと微笑むエリーゼにレインは顔を赤くし始めた。
「あ……ありがとう……少し元気をもらえた気がする」
「それは良かったです! そうだ。少し休憩いたしませんか? 私美味しいお菓子を持って来たんですよ」
(レインが元気になって良かった!)
エリーゼはレインの手を引っ張り元気に歩く。その背中をレインは赤い顔で見つめて高なる胸の鼓動に気がつき始めた。
◇
それから月日が経ち十代前半。後数年で王立学園に入学するそんな時にエリーゼはレインに誘われて花畑にやってきた。
花畑にはさまざまな色の花が咲き誇り美しい。
レインはエリーゼにピンクの花で指輪を作り彼女の左手薬指に嵌めた。
「……僕はエリーゼ。君の事が好きだ……。だから僕と将来結婚してくれないだろうか?」
その言葉と行動にエリーゼは感動した。これはエリーゼが生前読んでいた小説で気に入っていたシーンである。
確かここで貰った花はドライフラワーにして保管していた原作のエリーゼがルイスとくっつくとこの花の指輪を投げ捨てて
『こんな安っぽい物いりませんわ。ルイス様は貴方と違ってもっと良い指輪をくださるもの!』
と言いだす。思い出して段々腹が立つエリーゼ。何も言わないエリーゼにレインは首を傾げた。
「どうした? エリーゼ」
「は! いえその……とても嬉しくて意識が飛んでいました」
「! それって!」
「はい。よろしくお願い致します。レイン様」
エリーゼは原作再現の嬉しさと好きなシーンを体験できた事。そして尽くしてくれる系男子のレインを幸せにしたいという思いから承諾。
するとレインは涙目でエリーゼの手を握り、絶対幸せにする! と何度も誓ってくれた。
エリーゼはそんな彼に少しときめき徐々に愛おしくなり始めた。
登場人物
レイン・ハルマン
エリーゼの幼馴染兼婚約者であり話内で登場する小説の主人公でもある。ハルマン公爵家の令息であり王太子殿下であるルイスとは従兄弟にあたる。
美少年だが特に秀でた才能もなく何をしても平均な自分を嫌っている。エリーゼをとても大切に思っていて彼女の為に尽くすが…。