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9.真相への接近

 夜の帳が降りた高杉女学院は、別次元の世界へと変貌していた。佐藤岬は、懐中電灯を握りしめ、旧校舎の廊下を進んでいく。その細い光は、闇を切り裂くどころか、周囲の暗闇を濃密な墨汁へと変えていった。足音を立てまいと慎重に歩を進める彼女の姿は、暗闇に溶け込む影絵。


(ここのどこかに、秘密が隠されているはず……)


 岬の心臓は、胸郭を突き破らんばかりの勢いで鼓動を刻んでいた。その音が、静寂な廊下に木魚の音のごとく響き渡る錯覚さえ覚えた。岬の脳裏に、昨日の出来事が走馬灯のように蘇る。その記憶は、濃霧の中から浮かび上がる幻視。


 朝のホームルーム。教室は、底なし沼に投げ込まれた石が引き起こす波紋さながらに、いつもより騒々しかった。


「ねえねえ、聞いた? 柚香(ゆうか)が昨日、あの声を聞いたんだって!」


「マジで? やっぱりあの噂、本当だったんだ……」


 ざわめきが教室中に広がっていく。それは、目に見えない蜘蛛の糸が張り巡らされ、生徒たちの不安を伝播させているかのようだった。岬が声をかけると、クラスの人気者である佐々木(ささき)柚香(ゆうか)が前に出てきた。


「先生、私……昨日の夜、旧校舎で……」


 柚香の顔は蒼白で、声が震えていた。その姿は、深い闇の中から這い出してきた幽霊。


「柚香、落ち着いて。何があったの?」


「私の名前を呼ぶ声が聞こえたんです。でも、誰もいなくて……」


 岬は、自分も同じような経験をしたことを思い出し、背筋が凍るのを感じた。その感覚は、氷の刃が脊髄を這い上がり、思考を凍りつかせていった。


 放課後、岬は再び図書室に向かった。そこで、古い校舎の設計図を見つける。


「これは……」


 設計図には、現在の校舎には存在しない部屋が描かれていた。地下室だ。その瞬間、岬の背筋を電流が走り抜けた。長年封印されていた秘密の扉が、今まさに開かれる予感が彼女を襲った。


(ここに、何かがあるのかもしれない)


 そして今、岬はその地下室を探しに来ていたのだ。


 旧校舎の一階を歩き回ること三十分。ようやく、壁に埋め込まれた古びたドアを見つけた。そのドアは、時間の流れから取り残された化石。薄暗い廊下に溶け込んでいた。


「これは……」


 ドアには、奇妙な模様が彫り込まれている。それは、古代の呪文を刻んだ石版を思わせた。岬が恐る恐るドアノブに手をかけると、不思議なことにすんなりと開いた。その瞬間、冷たい風が岬の頬を撫でてゆく。


 階段を下りると、そこには薄暗い地下室が広がっていた。埃っぽい空気が鼻をつき、かすかに腐敗したような匂いが漂っていた。時間そのものが腐敗したような異様な空間。


 部屋の中央には、大きな石板が置かれている。その周りを、何かの文字らしきものが取り囲んでいた。それは、異世界への扉を開く呪文を連想させた。


「これは……儀式の跡?」


 岬が石板に近づいたその時だった。


「やはり、来ましたね」


 背後から聞こえた声に、岬は飛び上がりそうになった。その声は、闇の中から突如現れた幽霊の声のごとく不気味だった。振り返ると、そこには鈴木校長が立っていた。


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