8.深夜の呼び声
震える手で携帯電話を手に取り、時刻を確認する。午前三時三十三分。その数字の並びは、何か不吉なメッセージを伝えようとしているのか。
そのとき、画面に知らない番号からの着信が表示された。岬は恐る恐る電話に出た。
「も、もしもし?」
受話器の向こうから、かすかに聞こえてきたのは……
「岬……帰ってきて……」
幼い少女の声だった。その声は、遠い過去からの呼び声。岬の心の奥底に重く響いた。
岬は思わず携帯電話を投げ出した。背中を伝う冷や汗――恐怖が液体となって流れ出していた。
(ど、どういうこと……?)
頭の中で様々な想いが渦巻く。二十年前の失踪事件。奇妙な儀式。そして、自分の失われた記憶。それらは全て、一つの巨大なパズルのピースのように思えた。しかし、そのパズルの全体像は、まだ霧の中に隠れたままだった。
岬は、自分が知らぬ間に大きな謎に巻き込まれていることを悟った。そして、その謎を解く鍵が、自分の過去にあることも。
窓の外を見ると、旧校舎の方角に不気味な影が揺らめいているように見えた。その影は、まるで岬を誘うかのように、ゆらゆらと動いていた。
岬は、これから自分が直面する恐怖に、震える心を抑えきれなかった。その恐怖は、深い闇の中に潜む未知の怪物。確かな存在感で彼女の全身を包み込んでいった。