5.深まる謎
その時、廊下の奥から物音が聞こえた。中村が懐中電灯を向けると、そこには二人の生徒が立っていた。光に照らされた彼女たちの顔は、能面のように青ざめていた。
「君たち、こんな夜中に何をしているんだ!」
中村の声に、生徒たちは肩をすくめた。
「す、すみません……噂を確かめようと思って……」
「危ないからって言ってるでしょう。さあ、すぐに帰りなさい」
中村は生徒たちを諭し、岬と共に校舎を後にした。
自宅に戻った岬は、ベッドに倒れ込むように横たわった。頭の中で、さっきの出来事が繰り返し再生される。悪夢のような残像が網膜に焼き付いている。
(どうして、私の名前が……)
疑問が渦巻く中、岬の意識は徐々に薄れていった。そして夢の中で、彼女は見た。旧校舎の廊下を歩く幼い自分の姿を。その姿は、闇の中でぼんやりと光を放っていた。
目覚めた時、岬の頬には涙が伝っていた。何かを思い出しそうで思い出せない。そんなもどかしさと恐怖が、彼女の心を支配していた。
知らぬ間に、岬は噂の渦中へと引きずり込まれていたのだ。その渦は、彼女の過去と現在を飲み込み、そして未知の恐怖へと誘っていく。窓の外では、満月が不気味な光を放っていた。これから始まる悪夢を見守るかのように。