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3.最初の授業

 放課後の教室に、血のように赤い夕陽が斜めに差し込んでいた。その光は、机や椅子に不気味な影を落とし、教室が息をしているような錯覚を引き起こしていた。佐藤岬は黒板の文字を丁寧に消しながら、今日一日の出来事を振り返っていく。


 新任教師として迎えた最初の一週間。想像以上にハードな日々だったが、生徒たちの素直な反応に、教師としてのやりがいを感じ始めていた。しかし、その充実感の裏で、何か言い知れぬ不安が岬の心の片隅で静かにうごめいていた。それは、暗闇に潜む得体の知れない生き物のように、彼女の意識の端をちらつきながら、決して正体を現さなかった。


「佐藤先生、お疲れ様です」


 振り返ると、生徒会長の高橋(たかはし)玲奈(れな)が立っていた。知的な雰囲気を漂わせる優等生だ。夕陽に照らされたその姿は、どこか儚げに見えたが、同時に彼女の瞳の奥に潜む何かが、岬の背筋を凍らせた。


「あら、玲奈さん。まだ帰らないの?」


「はい、生徒会の仕事があって……」


 玲奈は少し躊躇するように言葉を濁した。その瞳に、何かを訴えかけるような光が宿る。そして、意を決したように続けた。


「実は先生に相談があって……最近、学校で変な噂が広まっているんです」


 岬は身を乗り出すようにして聞き返した。心臓の鼓動が、僅かに早まる。


「噂?」


「はい。旧校舎の三階の廊下を、真夜中の十二時に歩くと……」


 玲奈の声が低くなる。その言葉自体が呪いであるかのように。


「何かに呼ばれるんですって。名前を」


 岬の背筋がぞくりと震えた。初日に聞いた噂が蘇る。その記憶が、冷たい指で岬の心を掻き乱す。


「そんな……本当なの?」


 岬の声が震えた。その瞬間、教室の空気が重くなり、見えない手が彼女の喉を絞めつける。


「私も最初は単なる噂だと思っていたんです。でも……」


 玲奈はスマートフォンを取り出し、岬に画面を見せた。そこには学校の非公式SNSグループが表示されていた。


「これとか『深夜の旧校舎で本当に声が聞こえた』これとか『友達が試してみたら本当だった』……こんな書き込みが溢れているんです」


 岬は画面をスクロールしながら、次々と投稿される生徒たちの証言に目を通していく。確かに、噂は想像以上のスピードで広がっているようだった。


「どうしてこんな……」


 言葉を失う岬。そんな彼女に、玲奈は心配そうに声をかけた。


「先生、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。ありがとう、玲奈さん。この件は私からも職員会議で相談してみるわ」


 玲奈に礼を言って別れた後、岬は職員室に向かった。しかし、そこで待っていたのは思いもよらない提案だった。

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