表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2.同僚との出会い

 職員室に一歩足を踏み入れた瞬間、岬は緊張で息が詰まりそうになった。室内には何人かの教師たちの姿があったが、全員が新入りの岬に好奇と歓迎の眼差しを向けている。その視線の重みが、岬の肩に静かにのしかかった。


「みなさん、新しい仲間をご紹介します。国語科の佐藤岬先生です」


 鈴木校長の紹介に、岬は再び深々と頭を下げた。


「佐藤岬です。至らない点も多々あるかと思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」


 緊張からか、声が少し裏返ってしまう。しかし、周囲からは温かい拍手が沸き起こった。その音が、岬の緊張を少しずつほぐしていく。


「佐藤先生、こちらがあなたの席になります」


 三十代半ばくらいの男性教師が、岬に声をかけた。その表情には、親しみやすさと同時に、何か測りかねるものが潜んでいるように見えた。


中村(なかむら)健太(けんた)と申します。となりの席ですので、何かわからないことがあればいつでも聞いてくださいね」


「は、はい! ありがとうございます、中村先生」


 岬は、中村の優しげな眼差しに少し緊張が解れるのを感じた。しかし、その安堵感は長くは続かなかった。


 彼の背後に見える窓からは、森に囲まれた別の校舎が目に入った。朽ちかけた赤レンガの外壁。鬱蒼とした木々に埋もれるように佇む、旧校舎だ。時間が止まったかのような、不気味な静けさを湛えている。


(あれが……噂の……)


 その瞬間、背筋をぞわりと何かが這い上がるような感覚に襲われた。氷の欠片が、脊髄を伝って頭まで駆け上がる気がした。岬は思わず旧校舎から視線を逸らす。


「佐藤先生、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」


 中村の心配そうな声に、岬は慌てて取り繕うように笑顔を作った。


「いえ、大丈夫です。少し緊張していただけで……」


 そう言いつつも、岬の心の中には不安が渦巻いていた。噂。旧校舎。そして、どこか懐かしい感覚。全てが繋がっているような、そんな予感が岬の心を掠めていった。


 新任教師としての船出。それは、思いもよらぬ恐怖への旅立ちでもあったのだ。岬の瞳に映る教室の風景は、これから始まる未知の冒険を予感させる、不気味な輝きを放っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ