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1章 3 追い出される私

 一切の状況が理解できないまま、大勢の人々の前で罵声を浴びせられた挙げ句、出て行けという言葉。


目の前の青年は私を憎悪のこもった目で睨みつけているし、周囲にいる人々は軽蔑の眼差しを向けてくる。


どうやら私はここに来てはいけない存在だったようだ。


「何だ? 先程から黙りこくって……何か弁明したいことでもあるのか? もっとも貴様の言い分など、一切聞くつもりはないがな」


「分かりました。出ていきます」


「何?」


私の言葉に青年の目が険しくなる。


「お騒がせして申し訳ございませんでした。どうやら身の程をわきまえず、この場に来てしまったようですね。ご迷惑おかけいたしました」


深々と頭を下げた。

すると周囲でざわめきが起こる。


「謝ったわ……」


「あれほどプライドが高かったのに……」


「貴様……今度は一体何を企んでいる? まさかまたしてもアンジェリカに何か仕掛けようとしているな!?」


青年はアンジェリカと言う女性を守るかのように立ちはだかった。


「いいえ、そんなこと一切考えていません。すぐにここから出ていきます。失礼いたしました」


再び、頭を下げて出ていこうとし……私は肝心なことに気付いた。


「あの……」


「何だ? まだ何か言い残すことがあるのか?」


「いえ、そうではありません。出口は何処でしょうか? 教えていただきたいのですが……」


「何だと? 貴様、ふざけているのか? それとも頭でもイカれたか?」


再びざわめく人々の前で、青年は腕組みをする。


「いいえ、ふざけてなどいません。本当に出口が分からないのですが……」


私は周囲を見渡した。

全員敵意のある目を向けてくる。誰も私に出口の案内などしてくれないだろう。


「……すみません。自分で出口を探して帰ります。皆様にご迷惑をおかけしたこと、再びお詫び申し上げます。それでは失礼いたします」


丁寧に謝罪をし、背中を向けたところ……。


「待て」


先程の青年が声をかけてきた。


「はい? 何でしょう」


振り向くと、相変わらず青年は私を睨みつけている。


「カイン、来い」


青年が不意に名前を呼んだ。


「はい、殿下」


すると、黒髪の美しい青年が進み出てきた。彼の着ている服はまるで騎士の姿のようにも見える。現に彼の腰には剣が差してある。


「この女を城の出口まで案内してやれ」


青年……殿下は一瞬顔をしかめて私を見るも頷いた。


「承知致しました。では、リアンナ様。こちらです」


「は、はい」


カインと呼ばれた青年に促され、私は彼の近くに行った。


「二度と、我が城に足を踏み入れるな。貴様の父にもそのように伝えておけ」


殿下は冷たい声で私に命じる。


「はい、分かりました。二度とここには来ません。お約束します」


返事をすると、何故か殿下は一瞬不機嫌な顔つきになる。


「……とっとと失せろ」


「はい、失礼いたします」


こうして私はカインという青年に連れられて、その場を後にした――




長い廊下を、私はカインに連れられて歩いていた。


「……」


前を歩くカインは口を一文字に閉じ、後ろを歩く私を振り返ることもない。


きっと彼も私を嫌悪しているのだろう。

あの場を抜け出せたことは嬉しいが、この先どうすればいいのだろう。


「帰れ」と言われても何処に帰れば良いかも分からない。


第一、今の自分の置かれている状況が全く分からないのだから。

何故自分がこんな格好をしているのか、何故あんな場所に倒れていたのか……。


その時、ふと廊下に大きな姿見がかけられていることに気付いた。

何気なくその鏡を見つめ、思わず驚きで足を止めた。


「え……? な、何……? ま、まさか……」


両手を頬にあててみると、鏡の女性も同じ動きをする。


「どうされたのです? リアンナ様」


カインの声が聞こえる。


「そ、そんな……これが私……?」


鏡の中には栗毛色の髪に、緑色の瞳をした美しい女性が映っていた――

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― 新着の感想 ―
[一言] きっと都合の良い時だけ、おべっかを使う取り巻きはいても、こういう時に助けてくれるような友達は一人もいない程、性格が悪かったのか。 帰るにしても全く何もわからないのに不安だな。 誰か迎えに来て…
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