第351話 作戦会議
「さて、どうしましょう」
「なにが?」
パーティー分けの後は10分ほどの作戦会議タイムだ。
どのルートを通っていくかとか、他のパーティーについてどう扱うかとかを相談するところなんだけど。
私はまず、自分の扱いについて確認を取らなきゃいけない。
「私が前面に出て縛り無しで戦ったら、ぶっちぎり勝利は間違いないです。でも、それじゃあつまらないじゃないですか! 3年生の卒業おめでとうイベントなのに!」
「そうだなー、石井先輩と言わずとも、せめて2年生が先陣切らなきゃ」
私が拳を握りしめて力説したら、高橋先輩がうんうんと頷いてくれた。この人もクラフトだね。うちのパーティーは私が強すぎるせいなのかクラフトが多めだ。
「じゃあ、渡辺くんが先頭、次が私と林田くん。最後が柚香ちゃんと高橋くん。10層までの最短ルートを突っ切ろう。柚香ちゃん、体育祭の間に散々潜ったんだよね?」
「そりゃもう、目をつぶってても行けるくらい!」
「柳川、ワイズマンだっけ? 全魔法使えるんだよな?」
「最上級の攻撃魔法は属性別で習得だったので、全部じゃないですが。補助魔法と、いざというときの回復魔法は任せてください! 状態異常無効の指輪も付けてますよ」
やっぱりね、状態異常は怖いから!
そこは甘く見て痛い目に遭いたくないので、ステータスには影響ないけど最強の装備をしてきたよ。
「柚香ちゃん、10層まで最短距離で指示出しお願い。11層からは先頭が私と高橋くん。真ん中が林田くんと渡辺くん、最後尾柚香ちゃんに変更。……多分だけど、蓼沼チームがうちの後ろについて消耗を防いでくると思うんだよね」
「なんと!」
スマホを見ながら、小さい声で石井先輩が言うので、私たちは自然と円陣を縮めて話を聞く体勢になった。
どこかの後ろについて消耗を防ぐって……スピードスケートの団体戦みたいな戦術だなあ!
「さっきから、ちらちら蓼沼くんがこっち見ながら相談してるんだ」
スマホを立てた状態で石井先輩が……ああ、それ、インカメラなんだ……きっと、石井先輩のスマホには、本来石井先輩から見えないはずの蓼沼先輩がバッチリ映ってるんだね。
「うーん、惜しい。彩花ちゃんがいるチームだったら、そういう小細工は彩花ちゃんが粉砕してくれるんですが」
「ファントム彩花、そういう子だよね。バーサーカーだし」
一緒にダンジョン行ったことないはずの石井先輩からも、バーサーカーと思われてる彩花ちゃん!
確かに、普段の挙動とダンジョンの挙動が極端に変わる人ってあんまりいないけどさ!
「1年生にとっては初めてだけど、3年生にとっては3回目なわけ。だから、過去に有効だった戦法をある程度上級生は把握してると思った方がいいよ。コバンザメは調節してもしきれなかった強いチームがあると、凄く狙われる」
コバンザメか、わかりやすいネーミングだなー。
でも、このコバンザメ、ひとつ重大な欠点があると見たね。
「うちがそこそこの速度しか出さないでいると、彩花ちゃんがいる小柴チームが高笑いしながらぶっちぎっていくと思います。彩花ちゃんには、3年生に花を持たせるとかそういう発想がないので」
そう、今日初心者の服に木刀で来てるのだって、彩花ちゃんにとっては「私とお揃い」くらいの意味しかないはず。あとは、倉橋くんにちょっかい出して木刀を借りる口実だったりね。
決して、3年生より目立たないようにとかそういうことは考えてない。
同じクラスで普段の彩花ちゃんを知っている林田くんは、「長谷部……相変わらずだなあ」と、ちらりちらりと倉橋くんの方を見た。
「そ、そうかー」
「でも、そういうチームがあると助かるかも?」
石井先輩は、きっと今まで真っ当な「追い出し会」しか体験したことないんだろうな。まさか、3年生の存在を完全無視で来る奴がいるとは思わないよね。
「くっくっく……蓼沼先輩、存分に後悔するといいです。世の中には常識が通用しない奴っていうのもいるんですよ。その作戦、ぎったぎたにぶち壊してやるよ、彩花ちゃんがね!」
「柳川が壊すんじゃないのか。まさかの他力本願」
「高橋先輩、柳川は変人だけど、長谷部よりはかなり常識あります」
円陣の中で、小さい声ながら私が力強く言うと、「草ァ~」って感じの空気が流れた。林田くんて、私のことを「変人だけど彩花ちゃんより常識はある」って思ってたの!? 後半部分はともかく前半!
「私のステータスがおかしいのは配信とかで全世界に公開しちゃいましたけど、そのレベリングにずっと同行してたのが彩花ちゃんです。LVは90台のはずだし、ステータスは化け物クラス、そしてステータスと関係なく元々強い、そういう人です」
「うへー、マジで? 多分……自チーム以外のステータス非公開だから、蓼沼くんは彩花ちゃんはノーマークだと思う。よし」
うちのチームで一番小柄な石井先輩が、拳を突き上げる。
「楽しいことになりそうだー! 気合い入れるぞー!」
「オース!」
「ウッス!」
「イェーイ!」
いいなあ、このノリ! 結局、クラフトだ戦闘だ男子だ女子だって関係なく、みんな「冒険者」なんだよね!