第350話 3年生追い出し会in武士の集い
「え、その格好で来たの?」
2月最後の日曜日、鎌倉ダンジョンの前で2年生の橋本先輩にめちゃくちゃ驚かれた。
武士の集いの中でも全学年で女子は5人しかいない。そのうちの3人が1年生で、揃って例の臙脂の芋ジャーに木の棒にしか見えない木刀を握ってやってきたら、驚きもするかも。
橋本先輩は夏合宿の時にエルダーキメラに遭遇した2年生パーティーのメンバーで、武士の集いの次期代表になることが決まってる。今回の追い出し企画の責任者でもあるね。
「私たちがバランスを崩すほど強いと、3年生に花を持たせられないじゃないですか」
「そうだけど。いや、そうじゃない。いや、そうだけど!?」
「どっちなんですか、もー」
混乱してわけわからない事を言う橋本先輩に、彩花ちゃんが口を尖らせる。
「記念撮影するのに、それでいいのかって」
「えっ、記念撮影!? 聞いてませんよそんなこと!」
「あれ、言わなかったっけ?」
橋本先輩が、私たちの隣にいる倉橋くんと林田くんに話を振った。ふたりも「聞いてないです」と顔の前で手を振って否定した。
このふたりは、ちゃんとまともな装備で来てる。まともな装備といっても、私たちみたいに「ヒヒイロカネ100%」「アポイタカラ100%」とかじゃなくて、「オリハルコン20%」とかの防具だけどね。
実は、冒険者の中で刀使いというのは凄く多いわけじゃない。刀はダンジョンでのドロップ例がないから、基本的には「元々家にあった」とか「クラフトで作ってもらった」でないと持ってないんだよね。
それでも例年5人くらいいるのは、刀を使うとDEX上がりやすいという説もあるし、「日本人ならショートソードより刀でしょ」「近場で習ったから」って人がいるからみたい。私のことですね!
「あ、悪い、LIMEで流し損ねた。柳川たちのステータスで動揺しちゃって……」
「それはすみません!」
ちょっとへそを曲げつつ、私は大声で謝った。
橋本先輩から事前に「パーティー分けのためにステータスを教えて欲しい」って言われて、ステータスのスクショを送ったら、秒で「マ?」って返ってきたんだよね。
そんな私の現在のステータスはこうだ。
ゆ~か LV86
HP 1032/1032
MP 263 /263
STR 360
VIT 326
MAG 224
RST 131
DEX 441
AGI 457
ジョブ【ワイズマン】【テイマー】
スキル【初級ヒール】【中級ヒール】【上級ヒール】【最上級ヒール】【回復力アップ】【護りの祈り】【初級攻撃魔法】【中級攻撃魔法】【上級攻撃魔法】【最上級攻撃魔法】【MP自然回復力アップ】【初級補助魔法】【中級補助魔法】【上級補助魔法】【最上級補助魔法】【ユニーク魔法:インフィニティバリア】
装備【初心者の服】【木の棒】【不滅の指輪】
従魔【ヤマト】
「HPが1000超えてるとか人間じゃない」って言われたけど、残念ながら人間ですぅー! ライオンを猫づかみできる飼育員になれるよ、今なら!
撫子にLVリセットされたからこその高ステータスなんだけど、あれが人為的に起こせたらステータス上げの鉄板になると思うんだよね。起こせないから、私だけが例外なんだけどさ。
でも、蓮もMAGが400超えてるから、私に負けず劣らず化け物である。MAG400はその他のステータスがどれだけカスであっても、それだけで戦略級兵器なんだよ。MPが高くないと運用はできないけど。
「柳川と長谷部はともかく、法月も補正無しで来たんだ」
「だ、ダメでした?」
橋本先輩はむーと唸りながらステータス注記付きのパーティー分けを見ている。そして、3秒くらいで諦めた。
「ま、いいや! ここまで来たら装備補正なんか誤差だ!」
「でかい誤差じゃね!?」
横から現代表の蓼沼先輩が顔を突っ込んできて、橋本先輩の手にしている表を一通り見た後、目頭を揉みながら「誤差だった」と呟く。
そ、そんなリアクションされるなんて……。
「えー、ファントム彩花ちゃんと柚香ちゃんと寧々ちゃんと一緒に記念撮影しようと思ってたのに、芋ジャーなんだ……」
3年生唯一の刀女子である石井先輩ががっかりしてた。あ、そういう意味もあるのか! それは……悪いことをしたなあ。
「石井先輩ー! すみません! 橋本先輩が記念撮影のこと言ってくれなかったから、ヤマト関連のゴタゴタで上がりすぎたステータスをどうしようってことしか考えてなくて!」
「いいよいいよ、仕方ない。卒業式の時に制服で一緒に写真撮ろうね。橋本くん、覚えておけよ」
石井先輩は防具クラフトで、体育祭の時は衣装係だった。クリスティーヌの衣装の調節とかでお世話になったし、同じ「武士の集い」メンバーってことで結構可愛がってもらったんだよね。寧々ちゃんなんかは同じ衣装係だったしNeNe工房のお仕事を頼んだりもしてて、かなり仲がいい。
むう……家まで走って行って、装備を取ってこようかな。
「んじゃ、パーティー分け発表しまーす」
悩んでる間に橋本先輩が全体に声を掛けてしまって、「今からひとっ走り家に行ってきます」と言えない状況に!
結局、パーティー分けは私と寧々ちゃんと彩花ちゃんが全員別のパーティーだったから、この3人を主軸に分けたっぽい。
私は石井先輩と林田くん、それに2年生の高橋先輩と渡辺先輩がパーティーメンバーだ。石井先輩と渡辺先輩がクラフトだから、私以外の戦力は多分一番低い。
寧々ちゃんは蓼沼先輩がリーダーのパーティー、彩花ちゃんは橋本先輩と倉橋くんと同じ小柴パーティー。倉橋くんの目の色が一瞬沼色になったけど、彩花ちゃんは喜んでる。
5人パーティーが3つで、鎌倉ダンジョン20層までの到達記録を競うっていう企画だね。上級だったらギリギリ危ないかもしれないけど、中級程度だったらそんなことができる余裕もある。
まあ、私の場合体育祭の期間中に毎晩「鎌倉ダンジョンRTA」をしてたから、目をつむってても10層までなら行けるけどね!