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第349話 乙女の悩み(ただし武器防具)

 新宿ダンジョン攻略終了から1ヶ月後。

 ……なんか、色々あった。


 まず、世間的にも大騒ぎになったのが新宿ダンジョンの消滅。ニュースにも取り上げられてた。

 世界的に見ても例がないってことでダンジョン学の専門チームが動き始めたらしいけど、既に痕跡もなくなってるものを調べようがなくて詰んでるって。

 そもそも新宿ダンジョンが、他のダンジョンより後に突然できたから「海底火山の噴火でできた島みたいなもの」とか言われてて、真相を知ってる人間としては面白かった。


 付近の防犯カメラとか総ざらいされると、直近で出入りしてたのが私たちだということはバレてしまうだろうけど、ダンジョン消滅との因果関係を突き詰めるのは無理だろうね。割と場所柄、酔っ払いとかがふらっと入ってきて1層で寝てたりするらしいし。


 そして、一応バス屋さん加入のことと、ヤマトのことが全部片付いたよっていう報告のために雑談配信したら、X‘sに上げた予告配信から彩花ちゃんが気づいちゃって、駆けつけて乱入してきたし。


 配信開始前にうちに来てたら止めようもあったんだけど、配信中を狙ってこられたから阻止できなかったよ……。チャイムが鳴ってママが玄関に応対に出たら、すっごい速さで彩花ちゃんが突入してきた。


「彩花ちゃん顔出し嫌だって前に言ってたじゃん!」

「そうだけど、こいつが入れるのにボクが入れないのやっぱり納得いかない! ずるい! ボクもゆずっちのパーティーに入る!」

「あっ!」

「長谷部、おまえ!」

「彩花ー! 俺ですら言わなかったことを!」


 その揉めてる最中に、彩花ちゃんがいつもの調子で「ゆずっち」って言っちゃうしさ! だから嫌だったんだよね! 彩花ちゃんって戦闘はともかく、バラエティ向きじゃないんだもん。


 配信では蓮と聖弥くんは一貫して「ゆ~か」って呼んでくれてたし、バス屋さんですら極力私の名前を呼ばないように気を付けてた。

 それを、ぶち壊してくれたわ!


 結局、彩花ちゃんの加入問題は宙ぶらりんのまま。ユニット名がY quartetである以上、百歩譲ってバス屋さんは準レギュラーを認めても、彩花ちゃんまでは認められない。

 ……というか、「Y quartet+1」って、実は私ちょっと気に入ってるんだよね。「プラス《《ワン》》」ってなんか可愛いし。


 いろいろあったのは私だけじゃなくて、寧々ちゃんの方も。

 なんと寧々ちゃん、会社を立ち上げてしまったのだ。年明けから準備を始めて、3週間くらい掛かったらしいけど。


 まだ撫子が私たちを狙っていたとき、寧々ちゃんのLVを上げてカスタムクラフトを習得してもらって、天之尾羽張(あめのおはばり)をクラフトしてもらった。

 その直後にヤマトが行方不明になっちゃって私のLVもリセットされたから、私は新宿ダンジョンで修行することになったけど、寧々ちゃんはその間に7ちゃんねるのスレッドで簡単に事情を明かして助けて欲しいとお願いしてくれた。


 結果として、寧々ちゃんが世界でふたり目の「カスタムクラフト」習得者であることが広まってしまい、寧々ちゃんの元にはいろんな仕事が殺到した。カスタムクラフトだけじゃなくて、他に頼んでもいいような普通のクラフトの仕事まで。

 もちろん、断ることもできたはずなんだけど、寧々ちゃんはそれをしなかった。さすが、親子二代のクラフトマン。


 で、大量の受注をどうしたかというと、「株式会社NeNe工房」っていう会社を立ち上げて受注契約を結び直し会社への発注へと切り替え、冒険者科のクラフトの人たちに外注した。

 クラスのみんなも、2年生も3年生もフリークラフトできるようになってるから、寧々ちゃんしかできないカスタムクラフトだけを片付ければいいってね。

 名前についてはまんまだなーと思ったら、お父さんが「名前で売る以上全面に押し出した方がわかりやすい」ってアドバイスしてくれたそうで納得した。


 カスタムクラフトは性能から説明文に至るまで、思い通りのものができるから凄く使い勝手がいいんだよね。しかもこれで作ると個人の適正武器扱いじゃないから、誰が装備しても同じ性能で使えるし。現在オンリーワンの技術だから、それなりにお金は多く取ってやってるって。それでも予約2年待ちだとか。


「今が知名度の絶頂期だから、私の名前を使って取れるお仕事は全部取るね!」って学校で宣言してた寧々ちゃんは頼もしかったよ。

 さすが、初めて配信に出たときにうっかり本名をフルネームで言ったついでに、家業の法月紡績の宣伝までしただけある。商魂たくましい。


 本当にびっくりしたよねー、高校生で会社って起こせるんだーって。

 寧々ちゃんに聞いたら「印鑑登録だけ絶対必要だから、15歳以上だったらできるの」って言われて更に驚いた。まあそこは、お父さんとか伯父さんのアドバイスを受けながらやったんだろうけど。税理士さんとかも法月紡績のお仕事をしてる人に頼むんだって。


 今までは、レシピ習得に必要なDEXを上げ終わってお仕事できるMPがあれば、クラフトの人はそこでLV上げはやめてた。

 でもカスタムクラフトっていう更に上があるってわかって、冒険者科クラフト専攻を卒業した人たちはそこを目指してまたLV上げを始めてる。これは、ブートキャンプを経てる冒険者科卒の人間にしかないアドバンテージ。すっごく大きい。


 寧々ちゃんはLV54でDEX283だったから、早い人ならLV40くらいでカスタムクラフト習得できるんじゃないかって。

 現にあいちゃんが聖弥くんの特訓に付き合ってた結果、LV40でDEX197らしくて、寧々ちゃんに「お仕事半分渡すからあとちょっと頑張って」って懇願されてる。


 そんな私と寧々ちゃんは、揃って教室で頭を抱えていた。


「私たち……強くなりすぎてるよね」

「3年生よりLV高いのは間違いないよ。柚香ちゃんのステータスは強すぎるなんて言葉じゃ済まないし」


 寧々ちゃんのステータスも相当凄いけどね! クラフトじゃなくて本職冒険者のファイターでもここまで上がってる人はそうそういない。


「ふたりとも、なーんでそんなに気にしてるのかにゃー。私はこのまま行くけどね」

「彩花ちゃんはステータス以前に素で強いんだよ。もう、ステータスを気にする必要はないんだわ」


 私と寧々ちゃんが悩んでいるのは、半月後に卒業式を控えた3年生のための追い出し企画、冒険者科でも刀メインの武器を使ってるLIMEグループ「武士(もののふ)の集い」の最初で最後のダンジョン攻略を控えているからだ。


 いつもの装備で行ったら、強すぎるんだよね! 3年生のための企画なのに、それより強すぎるのはどうかな……って悩んでるのだ。

 あと、気がついたらしれっと彩花ちゃんがこのグループに参加していた。まあ、草薙剣も日本の刀剣だし、資格はあるけどね。


「仕方ない。私、ステータス補正が付かない装備で行こうかな。初心者の服着て、武器は木刀で。武士の集いなのに徒手空拳ってわけにいかないし」

「ああ、あのすっごい強い木刀」

「木刀自体は半端なく固いだけで、特別強いんじゃないけどね」

「それでもゆずっちが持てば十分立派な武器だけど。そうだー! 倉橋ー、木刀貸してー!」


 彩花ちゃんが突然声を掛けたので、教室の反対側にいた倉橋くんがビクッとしていた。

 倉橋くんは、結局未だに彩花ちゃんに時々猛プッシュされてるらしい。

 道場で愚痴られたけど、時々っていうのが彩花ちゃんらしいな、気まぐれだからなあ。倉橋くんも彩花ちゃんを嫌っているわけじゃないけど――でも(おそ)れてるけど――半端にちょっかいを掛けられるせいで気持ちの持ってき場所がないんだってさ。


「これが、毎日のように押されてたら落ちてたかもしれない」ってすっごい複雑な顔で言ってた。


「ランバージャック稽古の時に借りた木刀、また貸して! 道場で貸してくれるんでしょ?」

「え、3年生の追い出し会に? 木刀で?」


 凄い驚かれてる……まあ、仕方ないけどね。

 武士の集いに参加してる1年生は、私と寧々ちゃんと彩花ちゃん、それと倉橋くんと林田くんの5人。5人っていうのはだいたい毎年の平均的な人数らしいけど、女子が3人いるのは珍しいんだって。


 しかも、この「1年生の女子3人」が、多分うちの学校の中では刀剣使いの最強戦力なんだよね……。

 私と彩花ちゃんはLV自体が新宿ダンジョン攻略で凄いことになっちゃったし、寧々ちゃんはその前からカスタムクラフト習得のためにLV上がってたし。


 結局、私と彩花ちゃんと寧々ちゃんは3人揃って「初心者の服に笠間自顕流の木刀」という装備で参加することになった。


 あれ? 笠間自顕流の木刀だったら私経由でも借りられたよね?

 そういえば今日は彩花ちゃんは「私」の日だ。倉橋くんにわざわざ頼んだってことは乙女成分が強かったのかな。


読んでいただきありがとうございます!

活動報告に「柴犬無双・登場人物紹介」を作りました。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1600476/blogkey/3242605/


面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)

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