第340話 悔しい! ここは新宿ダンジョンでした!
颯姫さんに経験値を集中させるために、今までは全員でパーティー登録してたんだけど、「ライトニング・グロウ」と「その他」にパーティーを分けた。
そして私と蓮はパラライズ役、聖弥くんが範囲魔法で削りを入れて、ライトニング・グロウで止めを刺す。ママと彩花ちゃんも削る係。
もはや、作業である。気を付けなきゃいけないけど、作業感が凄い。
ラッキーだったのは、「ミスリルゴーレム単一フロア」とかが出なかったことかな。あれはあれで大変だからね。
前の90層は属性スライムで阿鼻叫喚だったから凄く覚悟を決めてたんだけど、朝一の90層はそうじゃなかったから驚いた。
「フロアで敵固定じゃないんですね!?」
「属性スライム出なくてよかったよ。 どうも、階段降りるときにある程度ランダムで次の層が配置されてるっぽいんだよね」
普通のダンジョンだと、フロアごとに出る敵が決まってる。
それを考えても、ここって本当に「プログラムで作られた人工ダンジョン」なんだなあって感じるね。
お昼ご飯と長めの休憩を挟んで、午後は97層からの攻略になった。ちょっと焦ったのは、前回99層で出たセフィロトがここで出たこと。
私が不滅の指輪を装備して、彩花ちゃんが魅了無効の指輪を装備してる。うん、準備はよし。
「眷属召喚されたザコ敵は、さっさと倒しちゃっていいんですよね?」
「ザコ……まあ、ボスクラスじゃなくて一般の敵はサクサクやっちゃっていいよ」
上級下層で出るクラスのモンスターを「ザコ敵」と言った蓮に、ライトさんが苦笑していた。
「聖弥と颯姫さんは合体アクアフロウで、眷属召喚された奴らを片っ端から水没させてください。俺が凍らせて一気に片付けちゃうんで。その間に柚香がセフィロトと人面樹みたいな奴をどんどん麻痺させて行けば」
「合体アクアフロウ……?」
当たり前のようにコンボを要求してくる蓮に、颯姫さんが首を傾げている。それに慌てて聖弥くんがフォローを入れていた。
「水没させて凍らせると、その時点でHPが0になるんですよ。蓮と柚香ちゃんがワイズマンになった後に効果とかを確認したとき、それも確認したんです。本当は柚香ちゃんのメイルシュトロムを蓮のアブソリュート・ゼロで凍らせるのが一番広範囲なんですけど、柚香ちゃんは今回攻撃魔法を撃ってる余裕がないので」
「通常ダンジョンでやっちゃうとドロップもなくなるので、新宿ダンジョンでしか使えない技なんですが」
「ああ、そういうことなの。なるほど、確かにここじゃないとあまり意味がなくなっちゃうね。でも即死扱いなのは大きいわ」
通常ダンジョンでは使えないということを蓮が説明すると、颯姫さんは頷いていた。もう少し打ち合わせして、ママがターゲットを決めて攻撃するからそれを中心に同時にアクアフロウを撃つという手順になってた。
うぬう、こんなことなら、絵の具と水鉄砲とかが有ったらよかったかも。それなら彩花ちゃんが走り回ってターゲットに色を付けられるから。
そんなことを考えても、さすがにそんなものはアイテムバッグに入ってないので、私のアイディアは誰にも言わなかったけどね。
「じゃあ、行くか」
きっちりと打ち合わせも終わり、私たちはライトさんの言葉に頷いた。GO! という掛け声で私は右に、その他の人たちは左に向かって駆け出す。
「てぇいっ!」
補正込みだと550を軽く超える自分のSTRを信じて、私は一番近くにいたセフィロトに棒手裏剣を突き立てた。
やすやすと――とはいかないけど、一応刺さる! そして棒手裏剣を突き立てられたセフィロトは動きを止める。よし、成功!
使った棒手裏剣は大きいポケットの方に入れて、ホルダーから次の棒手裏剣を取り出す。テレポートで一瞬のうちに間合いを縮めては棒手裏剣で対象を麻痺させることを繰り返す。
うん、テレポートで移動が正解だ。直前までターゲットにされることがないから、攻撃も受けないし。敵が比較的密集してる場所では走るけどもね。
フロアの半分以上の敵を行動不能にした頃、残りのエリアでいくつも氷の塊ができているのが見えた。
こうして考えると、植物系モンスターが相手でも弱点の炎で攻撃しようとしないで、氷漬けにしちゃう方が早いんだなあ。
そして間もなくフロアにいるボスクラスの敵が全て麻痺し、ザコ敵は氷付けにされ、ライトニング・グロウが延々と敵を倒していく地道な作業が始まった。少しは削りも入れられたけど、うっかり倒すと経験値がもったいない。
97層の攻略は結構時間が掛かってしまったけど、98層は状態異常を使ってこないベヒモスが相手だったのでかなり楽だった。
前回セフィロト戦でやったように、氷で高所を作ってスパイク装着済みのタイムさんを配置して狙撃しまくる。獣系モンスターだから蓮のパラライズも効いたし。
そして問題は99層で。
「あっ、見たことある!」
思わずそんな声が出てしまった。見たことあるどころか、よりによってここで出る!? って地団駄踏みたいくらいだよ!
「あー、中級レアボスってここら辺でも出るんだ」
「レアだもんね」
蓮と聖弥くんも偵察をして驚いてる。
99層にいたのは、鎌倉ダンジョンで私たちが倒したデスナイトだった。
それが、わらわらいる。
これだけデスナイトが出てたら、もしかしたら普通のダンジョンだったら青箱出たかもしれないのに! 不滅の指輪が手に入ったかもしれないのに!
くーやーしーいー!
それにデスナイトは魔法反射があるんだよね。厄介すぎる。蓮が一気に使えない人に早変わりだ。中級のレアボスは上級ダンジョン中層クラスの強さって前に聞いたけど、魔法反射を考えると私たちの今の戦い方とは相性が悪い。スリープ&パラライズも魔法だもんね。
「うげー、あいつ魔法反射ですよ」
「前に配信で見たよ。また、いやらしいのが出たなあ」
「これは悠長に経験値集約とかやってられないな。姫も魔法が使えないし。――よし、準備のために一度部屋に戻ろう。タイムさんとゆ~かちゃんの痺れ毒がどうしても欲しい」
ライトさんの提案で、私たちは一度居住区域に戻ることにした。
テーブルがないと、棒手裏剣や矢への毒付与がやりにくいからね。