第335話 新宿ダンジョン99層、そして――
翌日昼過ぎ、私たちはとうとう99層に到着していた。
とはいえ、ここで引き返すってもう決まってるから、変な緊張感はない。
私たちは今日はあくまで「LV上げのため」としてここにいる。あとは、どんなモンスターが出るのかの確認とかね。
「あっ、嫌な奴だ!」
「弱点はっきりしてるからいいんじゃない?」
蓮と颯姫さんの反応がはっきり分かれてるなあ。
何だろうと思ったら、奥多摩ダンジョンのボスだったセフィロトがたくさんいる!
セフィロトだけじゃなくて、一回り小さくて人面の付いたトレント系の何かっぽいモンスターとかもいるし。
「奥多摩ダンジョンのトラウマです。セフィロトじゃなくてアルラウネが」
「長谷部はアルミラージの幻影食らって聖弥に攻撃したし、柚香はアルラウネに魅了掛けられたって言ってましたよ」
私と蓮の説明にライトニング・グロウの人たちは一様にぎょっとしてた。
「聖弥……よくその死亡フラグを生き抜いたな」
「あの時走馬灯を見ましたよ」
バス屋さんが目を押さえつつ聖弥くんの肩を叩いて、聖弥くんは真顔で当時の恐怖を訴える。自分がやっちゃったことだから、彩花ちゃんは何も言えずに「ぐぬぬ」ってなっていた。
「眷属召喚してくるのよね?」
「あれ? 颯姫さんたちはセフィロトと戦ったことないですか?」
「俺たち、割と行くダンジョンが決まってるから」
なるほどね。横須賀ダンジョンはヒヒイロカネがドロップするから、いい稼ぎ場所だし。
「蓮くん、不滅の指輪装備してるわね? それは柚香に渡して。じゃあここで一気に」
ママが魅了対策の指示を出して声を張る。けれどその先に続いた言葉に、私は思わず「んげー」って変な声を出してしまった。
「颯姫ちゃんのLVを上げてMAG120オーバー目指しましょ! 眷属召喚してくるセフィロトを残して戦い続ければ経験値が稼げるわ!」
そっちかぁー。セフィロト自体簡単に倒せる敵じゃないし、私とママと彩花ちゃんもRSTが極端に伸びてることはないだろうから、やっぱり魅了とかが怖いな。
「ばらけて戦わないと危ないですね。メンバーが魅了されたとき」
「対応できる人同士を近くに置けばいいのよ。彩花ちゃんの最寄りはユズ、タイムさんはアルラウネの射程範囲外からアルラウネを優先的に麻痺させていって。私もできるだけ下がってアルラウネにタゲ取られないようにするわ」
ママも「自分が魅了食らったらヤバい」って自覚あるんだなあ。ママのスピードは私や彩花ちゃんほどじゃないけど、鞭っていう武器が怖いんだよね。ちょっと距離離れてても問題なく攻撃してくるし、軌道が読みにくい。
「ママの鞭の先端に痺れ毒付ける?」
「それいいわね! あんまり保たないけど」
「痺れ毒か。タイムさんのボウガンだとセフィロトに効くか厳しいけど、ゆ~かちゃんの攻撃ならダメージ通るかな?」
ライトさんに尋ねられてちょっと私は考え込んでしまった。
前回セフィロトと戦ったときより、LVは格段に上がってるはず。でもセフィロトって表皮が硬いからなあ。
「一応、枝なら切れるし幹も傷なら付けられますよ」
「痺れ毒の持続効果ってどのくらい?」
「3時間くらいだそうですけど……もしかして、痺れさせようとしてます?」
確かに、セフィロトは蓮のパラライズも通るかわからないから、私の物理攻撃で毒を与える方が確実だよね。だったら、村雨丸より棒手裏剣の方がいいかも。
「だったら、棒手裏剣握ってブッ刺しますよ。そっちの方が多分確実。一番確実なのは、先にウインドカッターで断面作ってそこに刺すことですね」
「なるほど、方法は任せる。蓮くんと姫と聖弥くんはファイアーウォールで行動阻害しながら……」
「待った、それだと僕がアルラウネを狙い撃ちできなくなる」
「しまった、それがあったか」
バス屋さんと彩花ちゃん除くみんながうーんと考え込む時間。その中でいち早く対策を思いついたのは、魔法応用の鬼の蓮だった。
「メイルシュトロム!」
「アブソリュート・ゼロ!」
「ハリケーン!」
「ぎええええ!」
私が渦巻く巨大な水塊を出し、地面に付いた瞬間に蓮が凍らせ、颯姫さんがハリケーンでその氷の上にタイムさんを運ぶ。そしてタイムさんは悲鳴を上げている……。
確かにね、高所から撃てばファイアーウォールで視界が遮られることはない。タイムさんは滑り止め代わりに、靴に黄色と黒のロープを巻き付けられていた。そうじゃないと滑り落ちるよね。
その瞬間から、敵の攻撃が始まる。事前に指示があったように蓮と颯姫さんと聖弥くんはファイアーウォールを連発して敵の行動を阻害しながらダメージを与え、私は逆側に走る。
セフィロトがどんどん眷属召喚をしてきて、フロアにはモンスターが溢れかえった。ウザいなあ!
とりあえず私は不滅の指輪をしてるから状態異常にはならない。ヤマトにはアルラウネを狙って倒すように指示して、私自身は他の敵は無視して一直線にセフィロトに向かう。
「ていっ!」
1本目の棒手裏剣をセフィロトに力尽くで突き立て、毒を通す。太い枝を持ち上げて葉っぱを降らせて攻撃しようとしていたセフィロトはそこで動きが止まった。よし!
立て続けに5本の棒手裏剣を使って5体のセフィロトを行動不能にして、一度離脱。階段までもどって大急ぎで毒シートを貼って、またフロアへと戻る。
その間にも植物系モンスターの弱点である火魔法で敵は弱らされ、ライトさんとバス屋さんとママと彩花ちゃんの攻撃で次々と倒されていく。
やっぱり、私に向かってもビシバシと魅了が飛んできてるなあ。抵抗は不滅の指輪のおかげで問題ないんだけど、なんか精神に干渉してきたぞっていう感覚はわかる。
何度か階段とフロアを往復して、私は1体のセフィロト以外を麻痺状態にした。もうこうなったらこっちの勝ちだね!
眷属召喚されたモンスターは上級ダンジョンの通常敵クラスだから、状態異常さえ気にしなければ私とヤマトはワンパンで倒せる。
タイムさんも炎で身動き取れなくなっているアルラウネを狙って麻痺させていくから、自然と残るのは雑魚モンスターだけになる。
「こっちは蓮くんと聖弥くんに任せて、姫は角材で倒しに行って」
「わかった!」
凄くシュールな光景だけど、颯姫さんが角材(ヒヒイロカネ製)でセフィロトを殴りに行った。……うん、やっぱり村雨丸よりも角材の方が攻撃は効果的だね。
眷属召喚をしてくるセフィロトだけ、私が全部の枝を斬り落として鋭い葉っぱでの攻撃を防ぐ。
そこから延々2時間ほど、私たちは「経験値稼ぎ」に勤しんだのだった。
さすがにもういいだろう、と最後のセフィロトを麻痺させてから完全にモンスターを掃討し、私たちは居住区域に戻ってダンジョンを出る準備をした。
「あー、緊張する。心臓吐きそう」
5層からヤマトと蓮に敵を一掃してもらいつつ、颯姫さんが気分悪そうにしている。だよねえ、ステータスがどうなってるか心配だもん。
そして地上に出てダンジョンアプリを立ち上げた颯姫さんは――。
「MAGが、118!」
一声叫んで、新宿の路上でばったりと倒れたのだった……。
そのポーズ、某有名な珠を7つ集める少年マンガの仲間が倒れてるシーンで見たことあるなあ。