第328話 UNKNOWN・1
ヤマト、強い! 知ってたけど!
奥多摩ダンジョン攻略終わったところでLV38まで上がってたけど、新宿ダンジョンの経験値の入り方はまた別格だから、ここに来ても1層ごとにLVアップしてるっぽいんだよね。
「俺たちの数年間は何だったんだって勢いで、攻略が進んでいく……」
普段あまり呆然としないライトさんですら、呆然としている。これが現実です。
「想定外、想定外過ぎる」
「わ、私もなんか心の準備ができないうちに100層に到達しそう」
バス屋さんだけいつも通りウェーイだけど、タイムさんも声に力がないし、颯姫さんに至っては口元押さえて気持ち悪そうにしてるし。
ヤマトが強いのもあるけど、3人がかりでのスリープ&パラライズと蓮の攻撃魔法っていうのが効率よすぎるんだよね。更に言えば、タイムさんのボウガンに毒塗ったせいで効果が跳ね上がった。
初日なのにもう85層だよってところで、やっぱり一筋縄ではいかない事態が私たちを待ち構えていた。
「えっ……」
「敵が、いない?」
いつも通り階段から索敵した颯姫さんと蓮が、戸惑った声を上げている。
敵がいないフロア? さすがにそんなの聞いたことないよ。――と思って私も見てみたけど、確かにパッと見た感じモンスターが1体も見当たらない。
「フロアに降りた瞬間、ジャイアントサンドワームがドバーッと地中から出て来たりして」
彩花ちゃんがそんなことを言うので想像しちゃったよ。やだなあ、それ!
「んー、私もこんなの知らない。とりあえず、何か投げて様子見てみましょ。ユズ、アイテムバッグの中に適当なもの入ってない?」
「何かあると思うよ」
文化祭の残りのお茶……はさすがに投げるの気が引けるし。何があるかなあ、フライングディスクとかならいいかな。
私が軽くひょいっとフライングディスクを投げてみたけど、大方の予想に反して何も変化は起きなかった。
「ゆ~かちゃん、ヤマトを少し先行させてみて」
「ラジャ!」
ライトさんの指示で、ヤマトを先にフロアに降ろす。突っ込ませることはせず、慎重に辺りを警戒しながら少しずつ進ませるけど……あっ!
「……ウウウウー」
ヤマトの小さい三角形の耳がピコンと前を向いて、小さな唸り声を上げている。
私たちは見つけられなかったけど、やっぱり敵がいるんだ。
「ヤマトが何かに反応してます。何かいることはいるみたい」
「なんだろう、透明化でもしてるのかな、だとすると厄介だね」
「試しに魔法撃ってみるか」
階段にいる状態から、蓮がヤマトが警戒してる方に向かってファイアーボールを撃った。火の玉は延々飛んで――階段の手前で、ふっと消えた。
「消えた……」
「本来あんなところで消えないよね?」
魔法使いとして一日の長がある蓮と颯姫さんが、嫌そうな顔になってる。つまり、蓮の魔法が消えたところに何かがあるってことだよね。
「ゆ~かちゃん、インフィニティバリアを切らさないようにしてもらっていいかな。
近付いてみよう」
「そうですね、もう少し近くに行かないとわからないかも」
新宿ダンジョンのフロア、結構広いからね。私がインフィニティバリアを唱えると、全員がそのドームの中に入ってきた。走らない程度の早足で、インフィニティバリアを維持しつつ近付いていく。
「なに……これ」
「スライム系の何か、よね?」
「こういう時、ダンジョンアプリが使えないのきつすぎるなあ」
かなり近付いてやっとわかったんだけど、階段の前を塞ぐような形で、巨大な……なんだこれ、水まんじゅう? ふにゃんとした反射の薄いシャボン玉? なんだかわからないけどほぼ透明の「何か」が鎮座していた。
「つついてみていいですか」
「お願い」
ライトさんの許可が出たので、アイテムバッグから木刀を出してそっとつついてみる。あっ、手応えある! グミのような、高反発の感じ!
でもちょっと力を抜いたら木刀は押し戻されてきた。かるーく叩いてみたら「ぽよん」という感じに跳ね返ってくる。
跳ね返っては来るんだけど、何のリアクションもないな。
「ヤダヤダヤダ、怖い!」
得体の知れないものに対してバス屋さんが怖がり始めた。怖いっていいながら蜻蛉切で思いっきり刺してるけど!
「イーヤー! 跳ね返ってくるー! キモッ!」
そして、私と同じく攻撃を跳ね返され、鳥肌立ったらしくて全身を自分でさすってた。
こうして間近で騒いでるのに、謎の物体Xは本当に何も反応しない。
「これはそもそもモンスターなの?」
「モンスターじゃなかったら何なんです?」
一応インフィニティバリアは唱え直してるんだけど、そろそろ私もMP切れる。仕方ないので今日2本目のマジックポーションを飲んでから、インフィニティバリアを掛け直した。
「このままバリア維持しますか?」
「いや……うーん……」
ライトさんはめちゃくちゃ悩んでしまってる。仕方ないよね、「バリア解除していいよ」って言った瞬間に攻撃が来たら、とんでもないことになるし。でも、今のところ何も起きないし。
「ちょっとだけ待って、一応全属性の魔法で攻撃してみたいの。蓮くん、私と交互に、使ってない属性で魔法撃ってくれる?」
「そうだな、それを見てから考えよう。ゆ~かちゃん、悪いけどもう少し維持お願い」
颯姫さんの提案にライトさんとタイムさんがうんうんと頷き、蓮と私は「わかりました」と声を揃えた。
「インフィニティバリア!」
「ライトニング!」
「ウインドカッター!」
雷、風、水、氷……火以外の属性を持った攻撃魔法が次々と謎のぽよんに向かって行くけど、全部当たったとおぼしきところで消える。
「無効化されてる? それとも、吸収されてる?」
「うーわー、わっかんねー!」
蓮が混乱して髪の毛をかき乱した。更に「わっかんねー」を助長させるのは、これだけ魔法をぶつけられておいて何の反応もない事だね……。