第323話 学校に行ったら職員室に呼び出された
「なんなんだい、これは。僕ぁ聞いてないよぉ」
「なんだろう、このデジャヴ……」
動画のスクショとおぼしき写真をこちらに見せながら、眉を寄せて困った顔の大泉先生が盛大にため息をつく。というか、なんか今の言葉を前に聞いた気がするけど気のせいかな?
「ですよねー。冬休み中のことでしたし」
そこに写ってたのは、私のステータスだ。例の、奥多摩ダンジョン最下層で雑談配信したときに公開した奴ね。
新学期に登校したら、朝活ランニングの後に私と蓮と聖弥くんは職員室に呼び出された。それで開口一番これだよ。
「なんで世界初のジョブとか出ちゃうんだい……」
「あ、あー、それは、……柚香が……いや、俺が、えーと。いや、柚香が」
「安永、少し落ち着きなさい」
何故か蓮が言い訳をしようとしてくれて、しどろもどろになりすぎて片桐先生に宥められてる。
……どうしようかなあ、颯姫さんに訊いたってことは言えないな。そうすると新宿ダンジョンの話とアカシックレコードの話がどうしても絡んじゃうから。
蓮がどう話すのか、確認してからにするか。
蓮はひとつ深呼吸をして、もう一度ゆっくり話しだした。
「えーと、ヤマト関係のことで俺たちY quartetが神様と戦ってたんですけど、倒した時に柚香のLVがリセットされちゃったのは知ってますか」
「いやー、初耳だよ。神様と戦った? 何してるんだよ、君たちは」
「あ、俺は見たよ、アーカイブで」
「私も見ましたよ、アーカイブで。大泉先生、要注意の生徒の情報は押さえておかないと」
見てないという大泉先生に、安達先生と片桐先生がツッコんでおる。担任って何だろうなあ! ていうか、私たち要注意生徒なの!?
片桐先生と安達先生が撫子事件のあらましを大泉先生に説明してくれたんだけど、そこら辺のすりあわせは先にしておくことじゃないのかな。思わず虚無になる時間だわ。
「で、年末に奥多摩ダンジョンで配信したときには、一度LV1に戻された柳川は既にLV53になってたと。はー……たった5日だよな? 一体どこでLV上げしたらこうなるんだ」
「それは秘密ですが、僕たちもLV64まで上がったんですよ。それで、MAGが200超えた蓮が魔法を全取得してみたらワイズマンが出てきたんです」
聖弥くん、さらっと嘘を吐かずに隠すべきところは隠してごまかしてる! さすがだ! よし、これにこのまま乗ればいいんだね!
「そうなんです、で、私も全部行けそうだったので取ってみたら取れました。冒険者協会には報告済みです、母経由で」
「計算上MAG120でしたっけ……条件はわかったとしても、全世界で何人取れるやら」
「ハハハ、ハー……在学中にLV60超えとか、LVリセットでとんでもないステータスに育つとか、君たちに学校で教えることはあるのか疑問だよ。で、これから君らは学校どうする?」
大泉先生が若干意味不明なことを言うので、私たち3人は思わず顔を見合わせてしまった。どうするって、まだダンジョン学とか勉強すること一杯あるんだけどな?
「いや、どうするも何も。私は成績次第で大学進学希望なので、普通に授業受けますが?」
「俺たちも、元々冒険者になるつもりじゃないですし、ちゃんと卒業まで在籍しますよ?」
私と蓮が不思議そうに尋ねると、大泉先生が「かーっ!」と叫びつつ自分の太ももを叩いてた。何ですか、その反応は。
「そうだよ、この子たちは全員冒険者志望じゃないんだったよ! 柳川は飼育員目指してテイマー専攻志望で、安永と由井は俳優だもんなあ。あー、もったいないもったいない」
「大泉先生、仕方ないですよ。元々全員が冒険者になるわけじゃないんだし、今年はそれがたまたま柳川たちだったってことじゃないですか」
「そうそう、俺たちだって冒険者やってたのが今は教師じゃないですか。同じでしょ」
嘆くうちの担任に、何故かフォローしてくれる2年生の担任と3年生の担任。うーん、謎構図だなあ。
「元々安永と由井のステータスは経過観察対象だったけど、まさかこんなことになるなんてなあ」
あっけらかんと安達先生は笑う。それに対して大泉先生が「他人事だよ、この人は!」と嘆き崩れて、「俺は担任じゃないんで」って返されてた。
なんでしょう、このコント的なやりとりは。
「それで、僕たちが呼び出しされたのは、今後の通学意思とかの確認って事ですか?」
先生たちがぐだり始めたので聖弥くんがまとめに掛かろうとすると、今度は先生たちが顔を見合わせている。
「まあ、事実確認ってことかな。なんでそんなことに、っていうところが大きかった」
「どこでレベリングしたのかは分からなかったけど、経緯は把握できたから大丈夫だ。ゆ~かチャンネルに上がってた動画と動画の隙間の部分で、何が起きたかを知りたかったんだよ。一応報告書とかもあるしな」
「そういうことだ。もう戻っていいぞ」
片桐先生と安達先生がきちんと説明してくれて、大泉先生が雑に乗っかる。この人は、本当に締まらないな……。
レベリング情報については初詣で会ったクラスメイトとはその時に、それ以外は今日の朝一番で問いただされたんだけど「内緒」でごまかしたんだよね。
ていうか、私たちも座学以外は確かにあんまり教わることなくなったけど、クラフトを極めてしまった寧々ちゃんの方が教わることなくなったのではないかな?