第322話 カオス、新年からカオス
今日から元通りの「日曜休み、月~土更新」に戻します。
「彩花ちゃん……往生際が悪いよ。聖弥くんの目の前であいちゃんを誘えば、焦った聖弥くんが私に助けを求めてきて私も来るってわかってたんでしょ」
「くっ、さすがゆずっち、ボクの思惑に気づいてたか! 伊達に付き合い長くない!」
「彩花、もうふたりには彼氏がいるんだしさ、こどもっぽい理由でそんな遠回しな嫌がらせじみたことやめなよ」
「やだやだやだー! ゆずっちと初詣行きたかったんだもんー!」
駅前で駄々をこねる彩花ちゃんに、通り過ぎる人がなんだ? って視線を向けてくる。んもー、恥ずかしいことするなあ。
「おまえら、何してんの?」
「うわー、偶然ー。既に小凶のおみくじ引いた気分」
「いや、大吉じゃね? よーし、みんなで初詣行こうぜ!」
彩花ちゃんに負けず劣らずのでかい声が割り込んできたなと思ったら、倉橋くんと前田くんと中森くんと須藤くんがいる!
凄い偶然っていうか、まあこの辺だと寒川神社に行く人多いから仕方ないかな!? なにせ県内4位の初詣参拝者数だし!
てか、なんで私たちに会うのが小凶なんだよ、須藤くん……中森くんは当たり前に「みんなで初詣」とか言い出すし。
「お、おい……無理言って誘うなって。付き合ってる奴らもいるんだしさ」
かれんちゃんに並ぶ常識人枠の倉橋くんが、中森くんを止めようとしてる。くっ、気遣い! さすが倉橋くん!
「でも長谷部も石黒もいるじゃん。俺は! 女の子と初詣に行ってみたい! それが例え長谷部でも!!」
「オウ中森、『例え長谷部でも』ってどういう意味だコラ。新学期の実技の授業でぎったんぎったんに叩きのめしてやるからな?」
ダメ人間な発言を堂々とした中森くんに、彩花ちゃんが斜め下からガンを飛ばしている。もー、ガラ悪くなっちゃうんだからー。
「中森ー、それは長谷部に失礼だろ。さすがに謝れよ」
コブラ対マングースの様相を呈した中森くんと彩花ちゃんの間に倉橋くんが割って入り、中森くんを引き剥がす。すかさず中森くんは彩花ちゃんに頭を下げた。
「悪かった! 許してください長谷部様!」
手のひら返し早いなあ。というか、中森くんって脊髄反射で生きてるのかな? 素直では?
速攻で謝られた彩花ちゃんはむーと唇を尖らせていたけど、急にニコッと笑顔になった。
「よし、許す。じゃあ、初詣行こうかー、《《みんなで》》!」
そう言って彩花ちゃんが抱きついたのは倉橋くんの腕で。
「えっ?」
その場の彩花ちゃん以外の全員が、ぴったり声を揃えて驚いていた……。
「だってさ、倉橋って由井聖弥よりよっぽど王子様じゃない?」
すったもんだの挙げ句に彩花ちゃんを振り切るのは無理っぽいと判断したらしい倉橋くんは、目が虚無になってる……。それで、微妙に乙女モードになってる彩花ちゃんが、その腕をがっしりとホールドしながら照れっとしてるし。
新宿ダンジョンで言ってた「王子様っぽい人」って倉橋くんのことだったのか……微妙に納得できるけど、なんでそうなったんだ?
「まあ、俺もそれは認める。倉橋は腹が白い王子だよな」
「安永……頼む、認めないでくれ……」
蓮が「倉橋くん王子説」を肯定したけど、当の倉橋くんは否定。
うーん、状況がカオスになってきたなあ。
「……よし、今から寧々ちゃんにも声掛けてみよう! どうせ神社行く途中に家の前通るし」
「柚香!? これ以上人数増やしてどうするつもりだよ!」
焦る蓮を尻目に、寧々ちゃんに「今、蓮と聖弥くんと彩花ちゃんとあいちゃんとかれんちゃんと倉橋くんと前田くんと須藤くんと中森くんと寒川駅前にいるんだけど、寧々ちゃんも一緒に初詣行かない?」とLIMEを送る。
ポコンと「あけましておめでとう」の可愛いスタンプが送られてきて、その後に「なんでそんなにいるの? 柴田さんたちも一緒にいるけど、それでいいならうちの前で待ってるね」って返事が来た。
「えーと、更に寧々ちゃんと柴田さんたちが増えます」
「…………待って? もうクラスの半分くらいになるんじゃない?」
「ふっ……ぶははははは!」
かれんちゃんが真顔でツッコみ、前田くんは笑い出し、それに釣られてもう混乱極まった私たちはなんだかわからないけど爆笑しまくった。
結局、総勢15名の初詣になり、神奈川県内初詣参拝者数4位、神社だけなら2位の行列に飲み込まれた私たちは――。
「解せぬ……うまいことばらけて蓮とふたりになるはずだったのに、なんで一緒にいるのが柴田さんなんだろう」
「そんなこと考えてたの? それはつまり、今年も思い通りに行かずにめちゃくちゃになるってことなんじゃない?」
参拝し終えて人波から抜け出したときは、私は何故か柴田さんとふたりになっていたのだった。
おみくじは吉だったけど「旅行 波乱あり。気を付けましょう」と書いてあって……うーん、今年は修学旅行もあるんだけど、そのことかなー?
つまり、今年もなんだかんだトラブル有りって事か!
――よろしい! 受けて立ってやるわ!
神様案件だった「ヤマト誘拐事件」以上の事件なんて起きっこないもんね!