第321話 謹賀新年!
「あけましておめでとうございます」
柳川家の元旦は、いつもより遅い朝ご飯のお雑煮から始まる。家族揃って新年の挨拶をして、私はお年玉をもらって、という流れ。ヤマトも既にお年玉としておやつをもらって、私の足元で大喜びで食べている。
「はい、ユズ。お年玉だよ」
パパが笑顔でポチ袋を渡してくれるけど、この家で私が一番お金持ってるんだよね……と一瞬辞退し掛けたら、手触りがおかしい!
ポチ袋の中身は、500円玉1枚でした――Oh。
「自分のお金があるとはいえ、未成年に何もあげないのはなんだかなあって思ってね」
パパはすっごいにこやかに言うなあ。確かに去年までよりはお年玉の重要性って薄れたけどさ。辞退はしかけたけど、この展開はこれはこれで微妙に残念な気持ちになる。
「そうそう、元々お年玉って丸いものに年神様が宿るって考えから来てるから、昔みたいに丸いお餅をあげてもいいかと思ったんだけど」
「昔って、ママがこどもの頃?」
「んなわけないでしょ! 私がこどもの頃だってお金だったわよっ」
迂闊なことを言ったら、めちゃくちゃ怖い顔でママに睨まれた……。
だってー、前世の記憶の中にお年玉のことはないし、その辺は知らないんだもんー!
「まあまあ、とにかく、ヤマトも含めて家族みんな無事に新年を迎えられたことをお祝いしようか」
怖い顔のママをパパが宥めてくれて、その場はめでたく収まった。いやー、ママって怒るとガチで怖いから、多分本気じゃないだろうけど怖い顔されるとヒヤッとするんだよね。
お雑煮を食べた後は、ヤマトの頭の上にミカンを載せて写真を撮ってX’sにアップした。あと、五十嵐先輩とか寧々ちゃんとか颯姫さんとか瑠璃さんとか、お正月会わない人に年賀LIME。倉橋くんとか他の友達からも来てたからあけおめ返し。
そして、初詣はお昼に寒川駅前で待ち合わせだ。最寄り駅は宮山だけど、宮山で待ち合わせは混んじゃって無理だからね。
「ゆーちゃーん! あけおめー!」
待ち合わせの時間より早く「寒川神社への最寄り駅は宮山駅です」と書いてある寒川駅前に着いたら、私に話し掛けるあいちゃんの声が――あれ、でも見当たらな……。
「わっ! 驚いたー! あいちゃん凄い! 振袖だ!」
意表をつかれすぎて、見たときあいちゃんだってわからなかったよ。今日のあいちゃんは赤い花柄の振袖を着て、ロング手袋と襟巻き装備、更に髪は結い上げて和風の髪飾りを付けている。
「気合い入ってるぅ」
「あったり前じゃん。彼氏との初初詣だよ? 今日振袖着ないでいつ着るの?」
「成人式で着るからいいんじゃない?」
むしろ、あのもみくちゃになる初詣に振袖を着るという発想自体がなかったよ。私の当たり前すぎる答えにあいちゃんは「乙女心がない」とぼやきつつがっくりとうなだれた。
「なんでロング手袋なの?」
「着物って意外に腕が寒いんだよ。ゆーちゃんも今度着てみたらいいよ。あーっ、可愛い、絶対可愛い! ゆーちゃんの振袖なら絶対ピンクだね。でも水色も捨てがたいなー。花の総柄でもいいけど流水もいいし。かれんちゃんは振袖より紫の袴穿いて欲しいなー。彩ちゃんは黒の振袖だね! 髪の毛切ったしモダン振袖も似合うけど、背も高いし大振りの古典柄が鉄板かな!」
お、おう……さすがあいちゃん、ファッションのことなら着物にも詳しいのか。確かに意外に腕はスカスカしてて、手袋してないとこの時期は寒そう。
「あけおめー。わー、愛莉振袖だ。気合い入ってるねー」
「あいっち、めっちゃ可愛いよ! 一緒に写真撮ろ」
彩花ちゃんとかれんちゃんがちょうど良く一緒に来て、あいちゃんの着物について私と似たようなリアクションをしてる。
「可愛い? 当たり前でしょ! この準備にどれだけ時間掛かったと思ってんの」
「あー、だから時間読み間違えて早く着いてたんだ」
「ぐっ……ゆーちゃん鋭いね……朝からパパとママに頑張ってもらったよ」
「じゃー、4人揃ったところで行こうか-」
そして、ごくナチュラルに4人で初詣に行こうとしてる彩花ちゃんよ! 聖弥くんと蓮も来るってことに気づいてないわけないんだけどなあ。
「あけましておめでとう、みんな揃ったね。アイリちゃん、今日も世界で一番可愛いよ」
「あ、あけおめ」
彩花ちゃんがあいちゃんの背を押してまさに歩き出そうとしたとき、まるでヒーローのように聖弥くんが飛び出してきた。その後に続けて蓮も。――って、公衆トイレに隠れて待ってたの!? それはさすがに気づかなかったわ!
「出たな、由井聖弥に安永蓮!」
「昨日柚香ちゃんに『みんなで初詣行こう』って誘ってもらえて良かったよー」
猫がフーシャー言うような威嚇をした彩花ちゃんに、聖弥くんがにっこりと笑い掛ける。その間で見えない火花が散った気がした。





