第318話 状態異常コワイコワイ
彩花ちゃんは幻影食らってて。
私は魅了食らってて。
「やっべえな……果穂さんのライトキュアでかろうじて治ったって、それ本当にヤバい奴だぞ」
蓮は真顔で語彙をなくしていた。
うん、よりによって魔力最底辺のママによってかろうじて、ってのが危機感を煽るね。
このメンバーの中で一番状態異常が怖いのは、広範囲に強力な攻撃魔法を撃てる蓮なんだけど、蓮のRSTは簡単には崩せない。
次にヤバいのが、私とママと彩花ちゃん――って、聖弥くん以外の3人じゃん!?
この3人、物理攻撃が恐ろしく強いのも問題なんだけど、更に私とママの場合ヤマトとアグさんを巻き込んで危険なコマンドを出しかねない。
「……不滅の指輪、もっと欲しいね」
しみじみと聖弥くんが言い、全員がうんうんと頷いた。まあ、欲しいと言ったって簡単に手に入る物じゃないんだけどね。聖弥くん(時々蓮)が着けてる不滅の指輪はレアボスのデスナイトの青箱ドロップ品だから、レア度は恐ろしく高い。
「柚香、もうこれから先、使う魔法はひとつだけでいい」
真顔のままの蓮が私の肩を掴み、その後に続いた言葉に、私は崩れ落ちた――。
「インフィニティバリア!」
残りの森林エリアは、先にインフィニティバリアを掛けてからの物理攻撃で簡単に乗り切れた。
使い慣れてない魔法、存在を忘れがちなんだよね!
「考えてみたらさ! さっきも先にこれを展開しておけば魅了は食らわなかったはずなんだよね! くぅぅ、悔しい!」
「おまえ元々魔法使いじゃないから、基本的に魔法使うって意識が薄いだろ。後で思い出すってありがちだよな」
蓮に思いっきり同情された……。まあ、蓮も使い勝手のいい魔法中心に使うから、全部の魔法を平均に使うってことはないよね。「いつもの」感じでアクアフロウで倒した後、しまった、ファイアーボールの方が効率よかったーとかなるのかもしれない。
アルミラージはヤマトに片付けてもらい、バリア通過したアルラウネは村雨丸でさくっと真っ二つにする。
面白いことにこのバリア、「物理攻撃してやろう」って敵ははじき返すのに、「魔法で攻撃したろ」って思ってるらしいモンスターは、魔法使う瞬間まではじき出さないんだよね。
つまり、今のアルラウネは魔法を使うつもりだったってこと。それが魅了の可能性も高いんだけど、使った瞬間にバーンと5メートル吹っ飛ばされて、魔法は私に届かない。既に2回くらいこれを見た。
前後を挟まれることに気を付けながら、なんとか19層へ上がる階段へ辿り着いて私たちはそこで小休止をすることにした。
インフィニティバリアがあるとはいえ、状態異常の怖さを知っちゃった後だから高校生4人はぺたんと座り込んでしまった。
思ったよりも精神が消耗した……体力は大丈夫だけど、バックアタックに気を付けながらの状態異常に警戒しながらので、慣れてなさ過ぎて疲れた。
「ひえー、思った以上に疲れたー」
「警戒することが多いよね」
「これもそのうち慣れるのかなあ? 蓮と聖弥くんは状態異常の心配がなくて羨ましー!」
壁に寄りかかって座りながらぼやいたら、蓮と聖弥くんが同時に「いやいや」と真顔で否定してきた。
「自分が状態異常にならなくても、おまえや長谷部がこっちに攻撃向けてきたら瞬時に避ける自信ないぞ、俺。味方に武器を向ける長谷部の恐ろしさ、想像つくか?」
「さっきは咄嗟に盾を出したからなんとか初撃は弾けたけど……あれが幻影じゃなくて魅了だったら多分僕は死んでたね」
「ごめんって! くっ、あの時安永蓮を狙ってたら殺せてたのに」
男子ふたりの実感のこもった嘆きよ……。そっか、幻影だったから、聖弥くんはなんとか防げたんだ。別の物に見えてたってことだもんね。
魅了だったら、聖弥くんだとわかってても攻撃してたから盾も想定に入れた攻撃を入れてきて死亡確定、と。
で、彩花ちゃんは一見謝ってるけど全然反省してないな。
「そういえば彩花ちゃんって、魔法何取ってるの?」
彩花ちゃんのステータスって実は見たことないんだけど、いくらなんでもMAG10は超えてるよね。そう思って聞いてみたら即座に「補助魔法」って答えが返ってきた。
「補助魔法なんだ? 回復じゃなくて?」
「基本ボクってダンジョンはソロで潜ってるもん。だから補助魔法だよ。やられる前にやればいいんだもんね。……っていうか、ほら、前は撫子がサポートしてくれてたからさ」
あー、彩花ちゃんだもんなあ。今は臨時でパーティーメンバーになってくれてるけど、新宿ダンジョン攻略が終わったらまたソロ狩りになるんだろうな。
「……簡単に言うとね、あなたたち、パーティーの人数として少ないのよ。大体5人か6人くらいでパーティー組むことが多いのは、それだけ多方面に神経を配れるから」
歴戦の猛者だけあってひとりだけへたり込んでないママが、私たちに回答を出してくれた。そういえば、夏合宿のパーティーも5人だったし、昨日の輩パーティーも6人だ。
多方面への警戒か、確かにそう言われると「ダンジョンエンジニア入れて4人」は少ないんだろうな。補正で突き進めたから今までは良かったけど、上級ダンジョンで活動するとなるとイレギュラーな人数かもしれない。
ライトニング・グロウも4人パーティーだけど、あれは「新宿ダンジョンという秘密」を守るために多分迂闊に人数増やせないんだろうな。バス屋さんは…………あの人はおまぬけだけど、そういう約束は守りそう。多分。
甘いものを食べて、飲み物を飲んで休憩していると大分気持ちが落ち着いてきた。
休憩時間も終わったし、一番大変な「20層より下」はクリアしたから、後は前に突き進むだけだ。
気持ち的には多分ここが折り返し。頑張ろう!