第317話 全力突破します!
「うわー、うわー! 今私チャーム掛けられてたーっ! こわー!! アルラウネ怖いっ!」
「はー……ライトキュアで回復してくれてよかったわ」
油断してた! RST、上がったとはいえ200ないもんね。アルラウネのMAGってもっと高かったのか。
正気を失ってたんだなっていうのは、咄嗟に口に出た「ダメ」の一言で理解できた。だって、ヤマトを止めるコマンドは「ステイ」か「ストップ」で覚えさせたんだもん。
「ちょっとチーム分け間違ったわね。もしくはこういう時はユズが不滅の指輪をしてないとダメだわ。私が覚えてる回復魔法は下級だけだから、30%の確率が通って良かった。はー……」
心底焦ったというようなママの言葉に、ぞわっと鳥肌が立つ。
MAG23くらいのはずの、ママの初級回復魔法に助けられてしまった! ママの言うとおり、「ヤマトとアグさんがいるから」ってちょっとチーム分けは油断が過ぎたかもしれない。
改めてよく考えたら、私とママは補正込みでもRSTが高くないんだわ。蓮か聖弥くんがいないといけない場面だった。それでなければ、状態異常全てを防ぐ不滅の指輪を私が付けるべきだった。私だったら基本全ての魔法を使えるから。
「まずいわねー。私も今まで魅了も幻影も掛けられたことがないから油断してたけど、ユズが掛かったら地獄絵図よ」
「……ハイ、私もママが掛かったら地獄絵図だなってさっき思ったところでした」
「ブーメラン」
「存じております」
土下座したい、土にめり込む勢いで。そんなことしてる場合じゃないんだけど。
魅了されてた私の危うい命令を聞かず、多分自分の判断でアルラウネを倒してくれたヤマトには感謝感謝だよ。
「手を出さないつもりだったけど、前言撤回だわ。早く蓮くんたちと合流しましょ。ユズ、全力で行きなさい!」
「イエスマム!!」
手近なモンスターは全てヤマトが倒してくれたけど、この回廊を抜けて蓮たちと合流するまで一切気を抜けない。
「レジストブースト! マジックブースト!」
スピードブーストとかは聖弥くんが掛けてくれてたんだけど、上級補助魔法のふたつはそんなに必要ないかなって掛けてなかった。
改めてそれを自分とママに掛けて、少しでも抵抗を引き上げる。
そして、この場で使うのはやっぱりこれだよ!
「ファイアーウォール! サモン・ファミリア!」
ヤマトには悪いけど、安全第一。ヘビは毒以外は状態異常攻撃がないから、この場で一番警戒すべきはアルミラージの幻影とアルラウネの魅了。植物系モンスターは弱点である火を越えてこないし、アルミラージも視界に入れてない相手には魔法は使えない。
そして、アルミラージは小さい。ファイアーウォールなら視界を遮れる。
「ヤマト、ファイアーウォールを越えてくる敵がいたら倒して!」
「ワンッ」
了解、というように一声吠え、ヤマトは警戒態勢に入った。
私はタゲられないコウモリを炎の向こうに飛ばし、回廊の突き当たりからファイアーウォールを更にどんどん撃った。
これで敵に逃げ場は無し。コウモリのいる回廊出口側へ逃げるか、ファイアーウォールを突っ切ってくるかしかない。
「グルルル……」
今モンスターは全部炎の海の中なんだけど、それでもやっぱりこっちに抜けてこようとしてる奴がいるらしい。ヤマトが気配を感じ取ったのか低く唸り始めた。
「アグさん、ブレス」
「ギャオオオオオオ!」
「あ……」
コウモリを使って上空から更にファイアーボールを撃とうとしてたら、アグさんが盛大にブレスを吐いている……。
これは、中のモンスは終わったね。火の海の中に、更にフレイムドラゴンのファイアブレスだもん。
「悪いけど、安全第一よ。私も魔法攻撃で畳み掛けるのが正解だと思うけど、ユズがサモン・ファミリアを使ってる状態でこれ以上一気に魔法を使うのはちょっと怖いわ」
「MP尽きないくらいなら大丈夫だと思うけどなー」
一応ステータスを確認したら、MPはまだ半分くらい残ってる。
でも、ママの言うとおり安全第一か。サモン・ファミリアは多分脳への負荷が増えるから、頭痛を感じましたで即オーバーヒートを起こす可能性も否定できない。
こればっかりは、安全な状態で一度確認するしかないな……ここから出たら、蓮に付き合ってもらってサザンビーチダンジョン辺りで調べてみなきゃ。
中のモンスがきっちり焼き上がってるであろう頃合いで、一度サモン・ファミリアを解除してからメイルシュトロムを撃つ。MP消費より脳の過負荷が怖いからね。
水の大渦が出現して、自重で下に落ちると一気に辺りの火を消し去った。
「ユズがこんな魔法を使えるようになるなんて思わなかったわね……」
水浸しになったフロアでドロップを拾いながら、ママがしみじみと呟く。最上級魔法は迫力も違うから、「MAGが上がらない!」って大騒ぎしてた私を知ってるママは尚更そう思うんだろうな。
回廊の奥の方に残っていたモンスターは素早い中距離攻撃ができるママとヤマトに大半を任せ、私はひたすらヘビを倒す。
そしてなんとか合流地点に辿り着いたとき、既に別行動した3人が待っていた。ファイアーウォールで時間掛けちゃったから、待たせたかもしれない。
一応無事に現れた私たちを見て、蓮たちは「はぁぁぁぁぁー」と盛大なため息をついた。
「ヤバかった。長谷部が一度幻影食らってた」
「うん、僕に攻撃が来て死ぬかと思ったところで、蓮がグレートキュアで止めてくれたよ」
「スミマセン」
珍しく彩花ちゃんがしおれてると思ったらそういうことかい!
同じ事やってるじゃーん!