第315話 モンスターハウス? いいえ、ボーナスルームです
すみません、先行連載のネオページの方で6日ほどお休みをいただいてしまったので、2週間ほど月水金の更新とさせていただきます。
「ヤマト、行っくぞー!」
「ワンッ!」
「ヤマト! マスターは私だよ! もうー」
まあ、斬り込むしかないんですけどね!
私と蓮と聖弥くんは毒無効の指輪と不滅の指輪があるから、デストードの毒も効果がない。問題はヤマトと彩花ちゃんですわ。
「しょうがないなー! 蓮、聖弥くん、デストード優先で倒して!」
「このぎゅうぎゅう詰めの中からかよ……うう、やりたくないけどやるか。聖弥、悪いけど俺のことガードしてくれ。サモン・ファミリア!」
蓮の黒い使い魔コウモリがパタパタと天井付近まで飛んでいき、そこからライトニングでデストードを狙い撃ちし始めた。蓮自身は広間に踏み込まずに部屋の外にいて、その前に聖弥くんが立ちはだかって中から攻撃してくる敵を叩いている。
私は――ヒャッハーしてる彩花ちゃんとヤマトと同じく、村雨丸を握って手近な敵から斬りかかる!
デストードの伸ばした舌が足首に絡んできたから、思わず「んぎゃっ」って声が出ちゃったけど、気持ち悪いだけでダメージはない。その舌をスパッと斬って、私の体でできる最大限の大振りでデストードの本体を一刀両断する。
うん、前にも思ったけど、やっぱりデストードは柔らかい。キリングトードだともっと手応えある。
はっきり言ってこの部屋だったら蓮のアブソリュート・ゼロで片付けた方が早い気もするんだけど、彩花ちゃんとヤマトが「暴れ足りない!」って態度だから仕方ないよね。
村雨丸の一閃ごとに、敵の命が散っていく。もう私のステータスだと、上級ダンジョンの敵も難しい相手じゃない。
キリングトードを踏みつけてジャンプして、着地点にいるデストードに落下の勢いも加えて刀を突き通す。私に踏みつけられたキリングトードは、彩花ちゃんの草薙剣が貫いていた。
私とヤマトと彩花ちゃん――特に声は掛け合ってないけど、攻撃がかち合ったりはしない。一呼吸ごとにお互いの位置を確かめながら、まるで事前に打ち合わせでもしているように別々の敵を相手取っている。
ヤマトは体が小さいけど、体当たりの威力が凄い。ぶっ飛ばしたキリングトードの背中にある棘のような突起が災いして、マッドゴーレムに刺さってる。それを見て笑いながら、彩花ちゃんが2体のモンスターを同時に刺し貫いた。バーサーカーだなあ!
ただ、ひたすらに。目の前の敵を倒すことを積み重ねる。ヤマトはどんどんLVアップしてるみたいで、とうとうマッドゴーレムの足に噛みついて振り回し始めた。
「んー、後詰めもなにもあったもんじゃないわね」
そんな言葉をママが発したのは、モンスターハウスのモンスターが綺麗にいなくなったとき。辺りにはごっそりと魔石やドロップが残っていて、ヤマトは尻尾をパタパタと振りながら多分キリングトード産っぽい黒い魔石をガジガジとかじり始めた。
あっ、そういえば戦闘中に魔石をかじることはしなくなったね。これはいいことだ。
ヤマトにかじられてしまわないうちにと、私は急いで魔石を拾ってアイテムバッグに放り込んでいく。サモン・ファミリアを解除した蓮と聖弥くんもドロップアイテム拾いに加わってくれたけど、蓮はちょっと足元をふらつかせている。
「わー、デストードの痺れ毒もある! やったあ!」
さすがモンスターハウス! デストードの痺れ毒はふたつもドロップしていた。これ、タイムさんにひとつあげようっと!
後はキリングトードの皮とか、やっぱりクラフト素材になりそうなものが残っている。全部拾って、寧々ちゃんとあいちゃんへのお土産にしよう。
「今の、ヤマトのLV相当上がったんじゃないか? うえっ……」
サモン・ファミリアで酔ったらしい蓮が、口元を押さえつつ尋ねてきた。
帰り道は基本的にアグさんとママには頼らない方針だから、ママのパーティー登録は外している。その分経験値も効率よく入ったはずだけど……。
ヤマト LV36 従魔
HP 941/958(+25)
MP 476/476(+50)
STR 862(+32)
VIT 1002(+35)
MAG 409(+33)
RST 446(+35)
DEX 870(+32)
AGI 1267(+33)
装備 【アポイタカラ・Tシャツ】
種族 【大口真神】
マスター 【ゆ~か】
「うひいいいいーーーーー」
思わず変な声が出た……。てか、出るわ! こんなもの見たら!
ヤマトは【柴犬?】から【大口真神】になった時もステータスが上がったけど、私と同じくLV1に戻されたことで成長率がやっぱり爆上がりしてる!
いや、それは予測してた。予測はしてたけどさ! 1000を超えてる項目がふたつもあるのを見たら変な声も出るよ!
素のMAGも、蓮より高い。魔法を使う種族でもないのに……。これ、なんなんだろうなあ。
「えっ、なにその反応! 見せて見せて!」
彩花ちゃんがすっ飛んで来て私のスマホを覗き込み、一呼吸置いてから爆笑し始めた。つられて蓮と聖弥くんとママもやってきて、ヤマトのステータスを確認してからやっぱり何故か笑い出す。
「なんだこれー」
「あははははは」
「んふっ、やだー、アグさん超えてるー。もう笑うしかないわー、LV36なのに」
4メートル級のでっかいアグさんと、体高30センチもないヤマトで、ヤマトの方が強くなっちゃったのかー。
もうこれ、本当に笑うしかないわ。
アグさんが入り口を塞いだ大広間でしばらく私たちは発作的に笑い続け、ヤマトが「なんで笑ってるの?」と言わんばかりに首を傾げてそれを見守っていた。