第310話 日常がちょっとだけ戻ってきた!
私を鑑定した結果出るのは、自分の端末で見るステータスと同じものだ。
正直これを公開するのはなかなか勇気が要る。なんせ、何かに付け「前代未聞ばっかりやりよる」って言われてるのに、ワイズマンなんて史上初のジョブは出てくるし、ステータス自体がおかしいし。
「これが今の私のステータスです。正直普通じゃないです。撫子にLV1に戻されたせいで、どうもそれまでのことが全部LV10の法則に組み込まれちゃったみたいで。自分でも初めて見たときバグってるのかと思いました」
私は聖弥くんのスマホの画面をカメラに向けて映した。私のとんでもないステータスが、全世界に向けて公開される。
ゆ~か LV53
HP 636/636(+250)
MP 130 /164(+170)
STR 222(+165)
VIT 201(+150)
MAG 141(+95)
RST 96(+100)
DEX 289(+185)
AGI 282(+165)
ジョブ【ワイズマン】【テイマー】
スキル【初級ヒール】【中級ヒール】【上級ヒール】【最上級ヒール】【回復力アップ】【護りの祈り】【初級攻撃魔法】【中級攻撃魔法】【上級攻撃魔法】【最上級攻撃魔法】【MP自然回復力アップ】【初級補助魔法】【中級補助魔法】【上級補助魔法】【最上級補助魔法】【ユニーク魔法:インフィニティバリア】
装備【村雨丸】【アポイタカラ・セットアップ】【オリハルコン・ヘッドギア】【毒無効の指輪】
従魔【ヤマト】
『は?』
『LV53だと!?』
『MAG141!? ゆ~かが!?』
『待て待て待て、おまえら、見るところそこじゃない!』
『目が滑る』
困惑のコメントが雨あられ……わかる。私も「目が滑る」って思ったもん。
ワイズマンってなんぞ、MAGの成長おかしいだろう、素でSTR200超えってゴリラかい。
うーむ、まあ、予想通りのツッコまれ具合だよね。ゴリラ呼ばわりは草だけど。でもさっきキックでセフィロトを割いたから、「蹴れるゴリラ」と言えなくもない。握力計とか本気出したら破壊するだろうし。
しばらく言いたいように言わせておいて、私はスマホを聖弥くんに返した。すると、私じゃなくて聖弥くんがカメラに向かってにっこりと王子様スマイルを向ける。
「僕と蓮もLV64まで上がったんですよー。成長率はゆ~かちゃんみたいに凄いことにはなってないけど。ちょっとね、ゆ~かちゃん単独でも凄いステータスだから、今後ちょっかい出そうなんて考えない方が、ね?」
『久々に見たぞ、腹黒王子スマイル』
『ちょっかい出す奴おったらただの阿呆だ』
……それですわ。実はママと比べても私の方がステータス全部高くて、「歩く災害超え」という名誉なんだか不名誉なんだかわからない状態になってる。ママの場合はアグさんあっての「歩く災害」だけど、私も今後ヤマトが育つと同じ道に進むね!
「しかもね、ヤマトも今私と同じように撫子にLV1に戻されちゃったから、ここから帰りがてらレベリングするんだけど……とんでもないステータスになるんだろうなあ」
ちょっと遠い目で言ってみた。今日ヤマトを奪おうとしたケンジの仲間みたいに、「私の動画が好きだから」じゃなくて「私の隙を突いて利益を奪ってやろう」って思って見てる輩がいるかもしれないからね。
ママと聖弥くんもそれを含めて、「ステータスを公開すべき」って思ったんだろうし。
鎌倉ダンジョンで襲撃されたときは、まだLVが低くて「装備を剥いじゃえばたいしたことない」って思われてもしかたなかった。だから、あの頃ステータス公開してたのは悪手だったんだよね。
でも今は、「素でこのステータス」って大体の人は驚いてくれる。
「簡単に説明すると、回復・攻撃・補助の全魔法を取得するとヒーラーとかの魔法系ジョブが統一されて【ワイズマン】になるんです。私より先に蓮がなったんだけど、私もそれを満たせるMAGまで成長したから取りました。あ、MAGが高いのはそこら辺の魔法系ジョブボーナスが入ったせいもあります」
『ワイズマンって聞いたことない』
『俺、冒険者協会職員だけど、これは年末年始でも緊急対応案件』
『もしかして世界初じゃない?』
『ユニーク魔法って事は、ゆ~かと蓮のは違う魔法?』
おお、ユニーク魔法に着目してくれた人がいた。実はこれ、自分でもちょっと自慢したかったんだよね!
「そう、ワイズマン取得するとユニーク魔法が出るんだけど、俺のユニーク魔法はアブソリュート・ゼロ。氷系攻撃魔法でした。ゆ~かのは名前の通り攻撃無効化バリア」
箸を止めて蓮がごくごく簡単にユニーク魔法について説明する。でも目尻がちょっと下がってるのがわかる! 蓮はクール気取りたいからドヤ顔はしないんだけど、気持ち的には「ドヤァ」なんだわ。
『攻撃無効化バリアだと!?』
『前代未聞祭じゃあ』
『そもそも1パーティーにふたりもそんな魔法使いがいることがとんでもねえ』
『前代未聞のゲシュタルト崩壊』
「冒険者協会には報告済みよー。まだどこまで上がってるかわからないけど。神奈川県支部の理事の毛利さんは、私が現役だったころのパーティーメンバーだし」
「あ、毛利さんに話してくれたんだ。ママ、ありがとう」
「アグさん連れ出すしね。一応話しておかないと、アグさんがいなくなったって心配掛けるかもしれないから」
『もしかして今日宮ヶ瀬ダム上空飛んでた!? 何かの見間違いかと思ってたんだけど!』
「飛んだ飛んだ! 見間違いじゃなくてそれは間違いなくアグさんと私ね。神奈川県内では一時期有名になっちゃったんだけど、こういう反応新鮮だわあ」
目撃者の反応にママはご満悦である。うーん、やっぱり神奈川県民で見てるって人が結構いるから、配信内でも目撃者が出るんだね。
『遠くへきたもんだなあ。ゆ~かLV2の頃から見てるけど』
『それな。多分だが、成長率がおかしいからゆ~かは冒険者として世界最強の可能性が大いにあるな』
「え、世界最強? またまたー。ライトニング・グロウとかLV80台ですよ、多分、上には上がいる」
『STRもMAGも一流でAGI特化型なんて存在がそうそういてたまるか』
そんなコメントを見て、思わず私は吹きだしてしまった。
なんだろう、本当にこの感じ、懐かしい。
私の動画は本当にいろんな人が見ていて、中には丁寧に話してくれる人もいるし、マイエンジェルって絶叫する人もいるし、こんな風に雑な口調で話す人もいる。
でも、「待てコラ、頭がついて行かん」とか「前代未聞も大概にせよ」とかそういうコメントも、不思議と不快感はないんだよね。
私がそこから感じるのは、親しみの感情なんだ。
空になった紙皿を一旦地面に置いて、私はヤマトを抱き上げた。
「あのねえ、私こういう配信でコメント見るの大好き! 画面の向こうのみんなが親しく話し掛けてくれる気がするんです。気のせいじゃないよね?」
ヤマトの手を握ってカメラに向かって振るようにしながら、私はみんなに届けと心からの笑顔を向ける。
『気のせいじゃない!』
『ゆ~かはみんなの身近なアイドルだよ』
『蓮くんと聖弥くんもアイドルだよ!』
あ、最後のは多分モブさんだな。
アイドルかあ。多分それは、歌って踊れる「アイドル」じゃなくて「偶像」の方に意味が近いんだろうけど。
「さっきも言ったんですけど、ありがとう! ヤマトと一緒に、ついでに他のメンバーも一緒だけど、こういう雑談配信が出来るようになって本当に嬉しいです! なんかね、やっと撫子とバタバタする前の日常が戻ってきた気がする」
ヤマトに頬ずりすると、柔らかくて温かい舌が私の顔をべろんべろんに舐めた。それがくすぐったくてまた笑ってしまう。
『ヤマトが戻ってめでたしめでたしだな!』
「ほんとに、めでたしめでたしです。あー、でも私たちは今回お世話になった人たちにお返しとして、ちょっとダンジョン攻略手伝って欲しいって言われてるからそれが終わらないと完全に『いつも通り』にはならないですね」
『それ終わったら今度はどんな前代未聞をするつもりだ』
「えー、修学旅行で清水寺ダンジョン行くから、清水の舞台から飛び降りる生配信……は学校行事だから無理か。蓮と聖弥くんとも企画の相談します。一段落付いたら!」
どこのダンジョンとは配信で言えないけど新宿ダンジョン攻略があるから、「いつもの」状態に戻るのはちょっと先のことだけど。
ヤマトがいて、蓮や聖弥くんだけじゃなくてママもアグさんも配信に出てて、バーベキューしながらなんて変なシチュエーションで。
笑って配信できるのは、本当に幸せだなあって私は思った。