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第308話 ボス部屋のお約束です

「ここをキャンプ地とする!」


 配信を切って私がいい加減泣き止んだ途端、ママが腰に手を当てて叫んだ。

 スマホで時間を確認したら、もう午後7時なのか……凄い時短で潜ってきたはずだけど、上級ダンジョンはフロア自体が広いからそれなりに時間が掛かっちゃったね。


「なるほど、ボスを倒した後の最下層。確かに敵が出ないですよね」


 蓮がふっと遠い目をして言った。うん、多分同じ事を考えてる。「Magical Hues」のMV撮ったときに、前に倒してから2週間くらいなのにボスが沸いちゃって、一部から「事故映像」と呼ばれるMVができたんだもんね……。


「まあ、今回は今倒したばかりだから大丈夫でしょ。……でも、ここで泊まれるようなものって持ってたっけ」


 アイテムバッグの中はちゃんと整理してないから、文化祭の残りのお茶とかどうしようもないものも入ってる。でもこの場に必要な物は入れた覚えは全くない。残念ながら、本当に全くない!

 すると、私の懸念を打ち消すようにママがドヤ顔で胸を張った。


「大山に行く途中で必要な物は全部買ってきたわよ。任せなさい、私は数え切れないくらい上級ダンジョンのボス部屋で一泊してきたんだから」

「そうだね! 土日ママがいないって結構あったね! 今思えば、あの時はダンジョン潜ってたんだー」


 その場の全員の視線が「小学生の娘を置いてダンジョンに潜っとったんかい」という感じでママに突き刺さり、ママは思わぬブーメランで胸を押さえた。


「いや、別に気にしてないよ? 月1回か2回くらいだったし、そういうときはパパが珍しい物を作ってくれたり、外食したりするのが楽しみだったから」

「柚香が鋼メンタルで良かったですね、場合によってはグレる案件ですよ」


 蓮の呆れたような視線がママに向いてるけど、私が鋼メンタル!? そこひっかかるわ。


「いや、そこはね、ユズが気にしてないのをわかってたから行けたのよ。ユズも土日は習い事が多くてそれどころじゃなかったのかもしれないけど。――まあ、できた娘よね、ユズがまっすぐ育ってくれて感謝してるわ」


 しみじみとママが呟く。そういう風に思ってくれてたんだ……。

 でも、その手元、私は見逃さないからね!


「いい感じの話でまとめてごまかそうとしてるけど、ママは一体何を買ってきたの!?」

「えー、ボス部屋キャンプって言ったらこれはお約束なのよ!」


 ママがアイテムバッグから取り出したのは、バーベキューコンロだ! しかもでっかい! それだけじゃなくて、炭とか着火剤とか、多分お肉が入ってるであろう発泡スチロールの箱とか、どんどん出してる!


「ダンジョンウェーイ勢」


 ぽろっと彩花ちゃんがこぼした一言に、すっごく同意しかない!

 一泊なんだし、せいぜい携帯コンロでお湯を沸かしてレトルトカレーとかそんなもんでいいでしょって思ってたわ。


「ヤマトだって、焼いたお肉食べたいよねー?」

「クゥ~ン」


 焼いたお肉と聞いて、ヤマトが尻尾をぶんぶん振ってママの脚に手を掛けている。くっ、ヤマトを味方に付けるなんて! そんなこと言われたら「お肉焼かなきゃ!」って思っちゃうじゃん!


「明日はヤマトのLV上げも兼ねて、そこそこ戦闘しつつ帰る予定だからね。今日しっかり栄養摂って、きちんと休息しないとダメよ。お昼は適当に食べたんでしょう?」


 着火剤の上に炭を載せて手慣れた様子で火を付け、炭が白っぽくなるまで火が回ったらママはトングでお肉やカット済みの野菜をどんどん大型のコンロに載せていく。手際が、手際がいい!! これは熟練のバーベキュー職人の技!


「確かに……ヘリの中で慌てておにぎり食べただけだから、お腹空いた」

「そうだな、一応途中でプロテインバーとかも食べたけど、確かにがっつり食べたい」

「でしょー? モリモリパーティー……あ、毛利さんたちと組んでたパーティーね、あの時もこれがお約束だったの。颯姫ちゃんが新宿ダンジョンでもきっちりご飯食べさせてたのは、その影響があると思うわ」


 こんな密閉空間で炭を使うとか、と言いかけたけど、フロアは広いし階段も上層に続いてるしで換気はあんまり心配ない。常識的にいろいろ言いかけたけど、だんだんお肉の焼ける匂いがしてきて私はその全てを放棄した。


 高校生冒険者の前でバーベキューは卑怯なんだよ!! 匂い嗅いだら急に空腹を感じ始めちゃった!


「なんなら配信してもいいわよ? あ、焼きおにぎり食べたい人ー」


 ママ……もう顔を隠す必要がなくなったからって、開き直りすぎでは?

 でも、確かにこれは配信したらウケるかもしれない。上級ダンジョン最下層を配信する人ってほとんどいないんだよね。


「せっかくだし、やろうか。配信」

「僕はいいけど、長谷部さんは? さっき思いっきり映ったよね」

「あー……もうめんどいなあ。別に理由はなくてなんとなく顔出るの嫌だなって思ってただけなんだよね。配信してる間、映らない場所で食べてるよ」


 私の提案に蓮は頷き、聖弥くんは彩花ちゃんに確認を取っている。

 うん、さっきケンジを草薙剣で脅したのがバッチリ映ってたんだよねえ。X‘s見てみたら「あの物騒なアサシン風美少女は誰!?」とか質問来てるわ。とりあえずそれは無視しておくけど。


「ユズ、ちょっとタマネギホイルで包んで載せといて。ママは別の仕込み」

「はーい。じゃあ、X‘sに告知出すから10分後に雑談配信始めよっか。蓮と聖弥くんも告知しといて」

「オッケー」


 10分後から雑談配信しますと書き込みしたら「おまえはいつも急なんだよ」と即リプが付いた……。それに更に「予告無しより成長した」とリプが付いていく。

 あー……なんだろう、なんか懐かしいな。最近まともな配信してなかったもんなあ。


 いや、感慨に浸ってないで今はタマネギの皮を剥いて芯の部分をくりぬき、アルミホイルに包んで炭の上に載せなくてはならない。

 これ、時間掛かるけどタマネギがとろとろになって美味しいんだよね。


読んでいただきありがとうございます!

活動報告に「柴犬無双・登場人物紹介」を作りました。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1600476/blogkey/3242605/


面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)

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