第304話 モンスタートレイン
「ユズ! ヤマトの確保優先よ! 敵はあいつらに任せてヤマトを探しなさい!」
「イエスマム!」
他の冒険者が戦ってる最中のモンスターに手を出さないのはダンジョンのお約束。
私たちはそれを盾にしてヤマトの存在を確かめることを優先することにした。
フロアに下りて、端から端まで調べてヤマトを見落とさないようにと走り回る。
「ヤマト! どこ!?」
おそらくヤマトは撫子に切りつけられたときに私と同じ状態異常になってるはず。動けないかもしれない、声も出せないかもしれない。それでも僅かな可能性に賭けて私は叫んだ。
「チクショウ! ここまで来たのにおまえなんかにヤマトを渡すかよ! タクヤ、おまえはヤマトを探せ! シュウ、いつものアレやんぞ!」
リーダーらしき男が叫ぶと、彼らは攻撃をやめて走り出した。次々とモンスターが彼らをターゲットにして攻撃を始める。でも植物系モンスターはおしなべて足が遅いから、追いかけても追いつかない。
そして、男たちはヤマトを探して駆け回る私に向かって走ってきて、すれ違いざまにニヤリと笑った!
途端に奴らに付いてきてたモンスターのターゲットが私に切り替わる! これ、モンスタートレインってやつか、初めてやられた!
「ふざけないでよ! こっちはヤマト探すのに必死なのに!」
「バッカじゃねーの! 早いもん勝ちなんだよ! 俺らの方が先に来てたんだから俺らに権利があるんだよ!」
うわあ、腹立つ……こいつらに権利とかいう言葉使われたくない!
「邪魔、すんなって、言ってんでしょー!! ファイアーウォール!」
一太刀ごとにモンスターを斬り倒しつつ、前方の敵集団に向かってファイアーウォールを放つ。これで火に弱い敵は分断された。私は手前にいる敵に更にファイアーボールをぶつけて吹っ飛ばす。
男たちがそんな私を見てどよめいた。「ゆ~かが魔法攻撃してるだと!?」なんて声も聞こえてきた。確かに以前の私はそうだったよ、それを知ってるって事は貴様ら私の視聴者か! 尚更許さん!!
「パラライズ! 聖弥、手伝え!」
「わかった! 麻痺したら隅っこに放り投げればいいんだね!」
「おまえらぬるいよ! こんな奴らサクッとやっちゃっていいのに!」
私がモンスタートレインに巻き込まれたから、階段から残りのメンバーが駆けつけてくる。蓮のパラライズはモンスターに対してではなく私にモンスタートレインをなすりつけた輩に対してで、聖弥くんは麻痺した奴をかなり手荒に放り投げている。
スリープだったらその衝撃で起きちゃうところだけど、パラライズだからなす術もなく無抵抗になって男たちは全員モンスターの攻撃に巻き込まれない場所に退避させられた。
「彩花ちゃん、殺しちゃダメだよ。今は、令和です!」
「何時代だろうが必要と思えば殺すよ。まあ、今回はゆずっちに免じて命は奪わないでやるけどさ。ついでにこいつらにスリープ重ね掛けしといて、ボス片付ける前に邪魔しに入られたら面倒!」
「それもそうだな、スリープ」
「ひとりだけ起こしておこう。後で証言させるためにね」
聖弥くんがひとりに蹴りを入れてわざと起こす。でもそいつもまだパラライズは効いてるから見てることしかできないんだけどね。
「さーて、わざわざ譲ってくれたんだから、倒しちゃいましょ! アグさん、GO!」
「ギャオオオオオオ!」
アグさんがブレスを吐きながらモンスターの群れに突っ込んでいく。セフィロトが眷属召喚したのは植物系モンスターだから当然といえば当然だけど、トレントもアルラウネもマンドレイクも火に弱い。
これはもうガンガンファイアーボールぶつけた方が早いのでは? シン・ランバージャックとかも面白そうだけど、セフィロトは太いから絶対時間が掛かる。
今の私には、さっさとこいつらを片付けてヤマトを探すって大事な目的があるのに!
ザアッと森の中を風が吹き抜けるような音がした。嫌な予感がして咄嗟にテレポートで敵がいない方向に10メートルほど転移する。
その途端、私がいた場所のフロアの床から土煙が立ち上った。うわぁ……殺気を感じ取ったって奴かな。以前の私だったら避けられなかったと思うよ。
「え、何今の!」
「セフィロトは風魔法を撃ってくるわ! 上級ダンジョンの通常ボスの中では最強格よ、伊達に生命の木なんて大層な名前付いてないわね!」
アグさんに単独行動をさせて敵の一翼を任せながら、ママも鞭を振るって戦っている。「上級ダンジョンで荒稼ぎしてた」だけあってその知識は頼りになる。
「モンスターだから無詠唱なのか……発動がわかんなくて厄介じゃねーか」
顔をしかめながらも、蓮はファイアーボールをセフィロトに向かって連発している。巨大な火球が激突する度にセフィロトはその巨躯を揺らすけれど、まだ移動するつもりはないらしい。かなり余裕があるように見える。
アグさんは炎のブレスを吐くフレイムドラゴン。そして敵は火に弱い植物系モンスター。
こちらに不利な要素は何もないけど、セフィロトの眷属召喚が頻繁すぎて敵が多い!
「ああああああ、腹立つ! MP尽きてしまえ!!」
私は村雨丸を納刀するとセフィロト本体に向かって走り出す。リングブレスを嵌めている拳で渾身のパンチを叩き込むと、殴った場所がえぐれて派手に木片が飛び散った。
村雨丸じゃこの太さの木を斬るのは難しいから、もう物理は殴った方が早いと思ったんだよね!
「盛大に燃えちゃえ! ファイアーウォール!」
樹皮が飛び散った部分を起点にして、そこから縦に炎の壁を走らせる。裂帛の気合いを込めた魔法はまるで炎の龍のようにセフィロトの全体に絡みつき、生い茂っていた葉はどんどん燃え尽きていく。
「ウインドカッター!」
蓮が撃ったウインドカッターがセフィロトの太い枝を切り落とした。そしてその風に煽られ、私のファイアーウォールは更に勢いを増して燃えさかる。
「ヴォアアアアアア!」
地を這うような低い叫びと共に、地面が揺れる。セフィロトがとうとう根を動かし、後ずさり始めた。
「逃がさな……ヤマト!」
今までセフィロトの巨体で隠れて見えなかったフロア後方、そこに私は茶色と白の色合いを見つけていた。