第297話 Y quartetの魔法攻撃・1
テレポートが百発百中になるまで30分ほどだった。いろいろな場所から距離を変えて円の真ん中を目指して跳ぶのを繰り返す。時には走りながらテレポートを使う。
蓮は必要ないんだけど、私と聖弥くんは「テレポートからの強襲」を前提にしてるから、そういう練習も必要だった。
テレポートの後は、ファイアーボールとアクアフロウの大きさの確認。悔しいけど、聖弥くんの出す魔法の方が大きい!
「解せぬ! 私MAG140のワイズマンなのに、3人の中で一番魔法が小さい!」
地団駄踏んで悔しがったら、聖弥くんに「ごめんね、僕の補正が優秀だから」と笑顔で謝られた……いや、それ謝ってないのよ!
「柚香と聖弥のアクアフロウ、空中でぶつけてみて」
私たちの出したアクアフロウを見て蓮がそんなことを言い出す。何か考え込んでる顔だから、思いついた事があるんだろうな。
「じゃあ、同時にあそこの円に向かって撃とう。高さは1メートルくらいで」
「ラジャ! せーの、アクアフロウ!」
私と聖弥くんの撃ったアクアフロウが、テレポートの練習に使った円の辺りで衝突してひとつの水球になった。おおお……水だからこういうことも起きるんだ!
「アブソリュート・ゼロ!」
そこへ蓮が氷魔法を使って、アースドラゴン戦の時よりも大きい水の塊を凍らせる。そのまま氷は壁まで飛んでいって、かなり大きく壁面を抉った。
エグぅ……。ダンジョンはランバージャック稽古でもわかるとおり自動修復する機能があるけど、普通のフロアの小部屋の壁なら完全に壊してる破壊力だわ。
「うん、やっぱりできる。この方法なら、アースドラゴン級のモンスターもいけるだろ。もうひとつ試したいことがあるから、もう一回やって」
蓮に言われるがままに、私と聖弥くんはアクアフロウを撃った。蓮は今度はフロストスフィアで氷を作り出そうとしたんだけど――。
「さすがにダメか」
表面は凍ったけど中までは凍らせきれなかったらしくて、壁にぶつかった瞬間に水が噴き出してた。
「私と聖弥くんふたりで出すと、あの時の蓮のよりも大きいもんね」
「颯姫さんはフロストスフィアで凍らせてたけど……割とギリギリだったのかも」
「まあ、アブソリュート・ゼロでいけるのは確定だからいいや。後は、柚香と聖弥がウインドカッターをどこまで制御して颯姫さん並の凶器を作れるかだけど」
「凶器……」
蓮が物騒な言葉を吐いたので、思わずオウム返しにしちゃったよね。
確かに、クールタイムはないとはいえ、蓮が続けて魔法を使うより私と聖弥くんが氷を削った方が早い。
「待てよ? 柚香と聖弥だったら俺よりテレポートの練習もしてるし、アクアフロウ撃った後すぐさまテレポートで敵の側に転移して、そこでウインドカッター使ってからまたテレポートで戻るってことができるな……」
「わー、蓮が厳しいことを言うー」
「いや、理には適ってるよ。接敵する分防御が強い僕と柚香ちゃんの方が削り要員に向いてるし。ウインドカッターはとにかく撃ったら即テレポートくらいのつもりでいれば、敵の攻撃対象にされることは減ると思う」
聖弥くんも真面目な顔で口元に手を当てながらめちゃくちゃ考え込んでいる。
私と聖弥くんで「氷のどの面を削るか」を事前に打ち合わせて連携をみっちり練習しておけば、この「真・氷コンボ」は巨大かつ強力な敵に対して凄く効果的な攻撃方法になると思う。
まあ、そういう敵にぶつかること自体がレアなんだけどね!! 私たち今年はエルダーキメラとデスナイトとアースドラゴンって3体もレア敵と戦ったから、いくらなんでももうレア運は尽きてるはずだよ!
聖弥くんと相談して、氷の上の面を私が、右下と左下の面を聖弥くんがウインドカッターで削って三角錐を作ることになった。この振り分けの理由は、魔法の正確性!
ちょっとライトニングで「どこまで精密に魔法を撃てるか」を試してみたら、聖弥くんの方が圧倒的に精密度が高かったんだよね! 悔しい!
颯姫さんと蓮がアースドラゴン相手にやったときとは違い、アクアフロウを撃つのは私と聖弥くんで、私たちが向いている方向に水球が飛んでいく。
颯姫さんは自分の方に跳んでくる蓮のアクアフロウを凍らせたから削りやすかったけど、私たちの場合やっぱりテレポートを使わないと間に合わない。
「アクアフロウ! テレポート! ウインドカッター!」
「アクアフロウ! テレポート! ウインドカッター、ウインドカッター!」
アクアフロウを撃って、その先へ跳んで、氷の塊を削る。私は魔法3回だけど聖弥くんは4回。
そして、何故か威力も精密度も一番のはずの蓮が、アブソリュート・ゼロ1回だけだよ! 解せぬ!
「待って!? これ蓮が出したアクアフロウを蓮が凍らせた方が私たちの行動は確実になるんじゃ!?」
「俺が出すより柚香と聖弥のを合体させた方が水が大きいんだよ! ……あ、そうか、最初に3人分のアクアフロウを合体させればもっと氷がでかくなるな! アブソリュート・ゼロなら凍るだろうし!」
蓮が、更にエグいことを言いだした……。確かに「絶対零度」ってユニーク魔法で水が凍らなかったら、結構な名前負けだよね。
「よし、やってみようぜ、せーの、アクアフロウ!」
私と聖弥くんの撃ったアクアフロウより、一際大きい水球が合流して「なんぞこれ」って水の塊が宙を飛んだ。
蓮の「アブソリュート・ゼロ!」の声と同時にテレポートして……うわっ! 飛んでくる氷の圧が凄い!
「ウインドカッター! ウインドカッター! 柚香ちゃん!?」
私が迫ってくる氷に気圧されて一瞬固まっちゃったから、聖弥くんに慌てた調子で名前を呼ばれた。
「う、ウインドカッター!」
慌てて残る氷の上面を削って、テレポートで待避! その直後、今までにない衝突音がフロアに響いた。
「柚香、大丈夫か!?」
「氷が大きすぎてビビったよー! もー!」
テレポートした先で座り込んじゃった私のところに蓮が走ってくる。その蓮に向かって私は思いっきり文句を言った。
効果が絶大なのは保証するけど、こっちにも慣れが必要だわ、これは。




