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13:彼女を知った経緯③

重複投稿しておりました。2023.06.03 19:43差し替え完了です。申し訳ありません! お知らせくれた方ありがとうございます! ┏○))ペコ

 終戦協定を結ぶ少し前。戦いは終えたのだが、やるべきことは沢山あった。相手国の首脳部との協定会議に賠償金の支払い金額査定、戦死者の遺族への弔問に、捕虜の解放。知り合いや部下たちの見舞に、戦死した家族に手紙を認めていれば、時間はあっというまだった。相手国との終戦調印を終えて、晴れて終戦を迎えたのだった。


 「よく生きて戻ってくれたね。今回も軍神の名に恥じない活躍だったそうじゃないか、フェルス。また勲章が増えるね」


 陛下の名代として調印式に出席する為に、前線へとやってきていた王太子であるハインリヒが私に声を掛けた。飄々としていて表情から心の内を読み取り辛いのは、長年王族として生きてきたからだろうか。彼の遊び相手として宛がわれ、長い時間を共に過ごしてきたというのに、ハインリヒの考えていることが時々分からない。

 休暇で戦地から戻って王都の城に顔見世しようと赴いた私に、伴侶を与えようと独身貴族女性の絵姿を薦められることが多々ある。ハインリヒの伴侶である妃殿下からも何故か薦められて、少々困っているのだが。辺境伯家の長男にお相手がいないのは不味かろうと、正論を吐かれては彼らを無下にはできなかった。ただ私が彼らの紹介で伴侶を決めることはなかったが。


 「ハインリヒ、私だけの活躍じゃないさ」


 これ以上、口を開くと余計なことを言いそうになるなとハインリヒを見る。勲章の重みは、私の下で死んでいった仲間の命の重さだ。二十年続いた戦争は終わった。これで前を向いて、新たな未来へと進むことができる。もしかすれば、また戦の道を辿る可能性もあるが、疲弊した国内経済の回復を優先させるだろうから、暫く平和だろう。

 そもそも陛下も次代の王となるハインリヒも、好戦派ではない。二十年戦争に突入した切っ掛けは、相手国が我が国に侵略してきたこと。

 国境沿いの領地が最前線となり、ロータス辺境伯領と相手国との領境が激戦区となった。辺境伯領を抜かれて困るのは、王家である。地政学上、抜かれてしまうと王都陥落が目前となってしまうのだから。停戦を結んだ時期もあったのだが、結局二十年も戦争が続いてしまった。


 「そうか」


 短く言葉を零したハインリヒが私の背中を軽く叩く。彼もまた、多くの犠牲者に心を痛めているのは知っている。前線へ出ることは叶わない身であり、出兵する者を見送ることしかできないと憤っていたのだから。

 

 「なあ、ハインリヒ。少し頼みがある。軍の報告書には上げたが、ちゃんと調べてくれるか心配でな……」


 私が敵の魔術師を倒せたのは、黒髪の女性のお陰であると報告書に認めたものの、軍部がきちんと調査してくれるかは疑問だった。

 私を軍神と謳われているから、私以外に功労者を出すことを嫌がる節がある。それに女性の地位が低いために、正当に評価されない可能性もある。

 こういう時は辺境伯家出身ということと、ハインリヒという王族と仲が良いのは便利だな。軍上層部には申し訳ないし、私情を挟んでいる気もするが、一番確実で手っ取り早い方法である。ハインリヒが忙しいことも重々承知しているが、彼であれば片手間で調べてくれるはずだ。


 「君が頼みごとをするなんて珍しいね。どうしたんだい、改まって」


 ハインリヒが私の顔を見ながら、不思議そうな顔を浮かべる。確かに、私が誰かに頼み事をするのは珍しいのか。


 「軍に所属している、黒髪の女性のことを調べて欲しい。今回、私が功績を上げられたのは彼女のお陰だ。できることなら正当に評価されて欲しい」


 私が部下に命令を下すこともできるが、それこそ私情で軍の者を動かしている気がしてならない。


 「女の人かあ……。周囲にいた者の証言次第かなあ。でも、君が言うなら王家も軍も意見を呑むしかない気もするけれどねえ」


 微妙な顔をしてハインリヒが告げる。先ずは詳しい報告書をハインリヒの下へ寄越せと言われて、私は彼に頭を下げる。女性の地位は低いままであるし、女性が活躍するのを快く思わない男性貴族は多くいる。戦場となると、力の弱さや、月のモノがきて役に立たない時があるからと、あからさまに嫌う者もいた。

 ただ魔法を使える者は重宝されており、魔法教育を受けている貴族女性が戦場に立つこともあるし、食うに困っている者が軍属になることもある。戦が長く続いた故に、男の代わりに招聘された者もいると聞いている。だというのに古い考えに縛られている者は、女はひっこんでいろと堂々と口にする。女性が正式な評価を得て認められるのは、まだ少し先かと息を吐いて、もう一度ハインリヒを見た。

 

 「私が一方的に彼女を評価するのは駄目だ。贔屓だと彼女が責められる可能性もあるのだから、正式なルートで評価される方が黒髪の女性の為になるはず、だ」


 私の言葉ひとつで、私と同じように祭り上げられることだってある。彼女が評価されて正当な報酬を受け取って欲しい気持ちもあるが、難しいものだな。


 「うんうん。堅物な君がそこまで考えているなんて驚きだよ。嬉しいから頑張って調べてみるよ。ようするに新たな軍神を生み出したくないんでしょ。軍神を助けて勝利に導いた戦場の女神、なんて良い響きだよねえ」


 ふふふと笑うハインリヒに、苦笑を返す。とりあえずどうにかなりそうだし、私が危惧していることをハインリヒは気付いてくれた。


 「ああ、いや。本人が望んでいるなら、そうしても良いのではないか?」


 軍と王家の判断次第となるが。黒髪の女性が望んでいるのであれば、ハインリヒが取り計らってくれるだろう。少し他人任せにしているが、私にできることは戦場で戦うこと。

 もうひとつが、戦が終わり辺境伯領で復興のためにいろいろと動かなければならなくなる。軍神の二つ名も時間と共に、風化していくだろう。暫くの間は軍神と呼ばれることは確実で、これから祝勝会で夜会や祝いの席に呼ばれると簡単に予想できる。


 「王家としては望んでくれるのが一番良いんだけれどね。まあ、君が気になっている女性次第かな」


 気になっている……気になっているというよりも、正当な評価を受けて欲しいという気持なのだが。この感情も気になっている部類に入るのか、微妙である。

 肩を竦めながら笑うハインリヒ。彼もまた王太子の称号を得ている人間である。誰かに担ぎ上げられることの苦悩や息苦しさ、期待、羨望、嫉妬、いろんな感情を向けられることを身に染みているだろう。お互いに苦労するなと私も肩を竦め、調停式の会場の廊下を共に歩いて行くのだった。



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