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10:辺境伯領視察②

 領主邸の玄関で、ロータス辺境伯家の皆さまと辺境伯家で働いている方々が総出で私を迎え入れてくれる。フェルスさまが何故私を選んだのか、そしてロータス辺境伯家がナーシサス伯爵家を選んだのか、弟と母からは聞いていない。

 理由を問うたけれど、悪い理由ではないからと小さく笑うだけで教えてはくれなかった。カイアスさまとの婚姻は、比較的魔力量が高かった私の特性を望んだものだから、フェルスさまも同じ理由なのだろうか。

 

 「エレアノーラ嬢、はるばる遠い所を申し訳ないね。家のようにくつろげないかもしれないが、ゆっくりしていってくれ」


 辺境伯閣下が笑みを携えながら私を迎え入れてくれ、閣下の言葉に頭を下げて言葉を紡ぐと、そんなに畏まる必要はないと告げられた。

 フェルスさまのエスコートを受けたままなので、私の隣には彼が立っているのだけれど『余計なことを言わないでくれよ、父上』という雰囲気をありありと醸しだしている。そんな二人を辺境伯夫人は面白そうに見ながら、私へと身体を向けた。


 「長旅ご苦労さまです、エレアノーラ。フェルスが女性を連れてくるなんて、本当に信じられません」


 夫人はお綺麗な方だった。フェルスさまの銀糸の髪は夫人譲りのようで、年齢を感じさせない面持ちだ。優しい視線を向けて私を見たまま言葉を続ける。


 「これからきっと沢山のことが貴方たちに起こるでしょうけれど、フェルスが頼りなければ、わたくしたちでもナーシサス伯爵家の皆さまでも良いので、周りに頼ってくださいね」


 逃げ道を作ってくださったことに感謝を告げて挨拶を終える。辺境伯閣下とはお目通りを済ませていたが、夫人とは初めてで好意的に受け入れてくださって感謝しなければならないだろう。先に婚約を済ませた友人からは、婚姻先で上手くいっておらずお姑さんと対立していると聞くこともある。そんな話を聞いて不安だったのだが、初めての挨拶は上手くいったようでなによりだ。

 私の横に立つフェルスさまの雰囲気が微妙なものになって『母上、だから余計なことを……』と言いたげである。そうしてフェルスさまの下の弟さん二人とも挨拶を済ませると、今まで黙っていたフェルスさまが半歩前に出た。


 「父上、母上、エレアノーラは長旅で疲れております。荷物もありますし、一度部屋に案内したいのですが……」


 フェルスさまが私よりも疲れた様子で、場を切り上げようとする。そんな彼の様子に辺境伯閣下と夫人、弟君二人も微笑ましそうに見ていた。

 辺境伯家で働く方々にも『よろしくお願いします』と頭を下げて、私が一週間滞在する客室に案内される。部屋付きの侍女さんと挨拶を交わし、ナーシサス伯爵家の私付きの侍女とも打ち合わせを兼ねた挨拶を交わしている。大丈夫そうかなと安堵しながら、部屋まで案内してくれたフェルスさまにもお礼を告げた。


 「いや、私も初めてだから不手際が多くあるやもしれない。不都合があれば遠慮なく家の者に言えば良いし、言い辛いなら私を呼んでくれ。――これから領都内を見せて回りたかったのだが、母から無理をさせるなと言われたよ」


 彼は後ろ手で頭を掻きながら少し背を丸くして、男性と女性の体力は違うから気を付けなさいと、昨夜、今日の予定を聞いた辺境伯夫人から注意を受けたとのこと。戦場でも夜会でも見せなかった、微妙な顔で教えてくれたのだった。それが少しおかしくて……彼の顔を、目を細めて見やる。


 「お気遣い感謝いたします。一年間従軍していましたので、フェルスさまがお望みであれば直ぐにでも外に出掛けられます」


 父の代わりに戦場に立つため、促成教練を受けて戦地へと送られた。他のご令嬢よりは体力が備わっているし、多少の無茶でも体はついてきてくれる。上官の命令は絶対だと身に染みているし、彼と婚約したのだからある意味で私の上官である。


 「ああ、いや。エレアノーラに早く領内を見せたかった私の我儘だ。移動は転移魔法を使いたかったのだが、手配できなくて申し訳なかった。今日は部屋でくつろいでくれ」


 フェルスさまが片眉と片腕を上げながら、部屋を出て行った。転移魔法は先の戦争で、優秀な魔法使いを失ってしまったのだから仕方ない。戦争が始まる前は、貴族の移動手段として重宝されていたそうだ。

 結構な報酬が手に入り、魔力量の多い魔法使いはこぞって依頼を引き受けていたとか。今は魔法使いの人が減り、移動手段が馬車移動となっているので仕方ない。私個人の移動であれば、辺境伯領まで何度か移動魔法を使えば可能だけれど、皆を連れて行くには魔力量が足りなかったのだ。

 ふう、と息を吐いて窓から辺境伯領邸の庭を眺める。手入れの行き届いた庭には薔薇が植えられ、大輪を咲かせていた。


 「綺麗……」


 ぽつりと言葉が零れる。貴族の間では薔薇が好まれて育てられており、ナーシサス伯爵家でもロータス辺境伯家の庭でも愛されているようだった。

 私付きの侍女が耳聡く聞き取り笑みを浮かべながら『庭を散策させて頂きますか?』と問いかけてくる。荷下ろしも終えており、晩餐までは時間があるから暇つぶしには丁度良いだろう。辺境伯邸で働く方には少しご迷惑を掛けてしまうかもしれないが、邸の外に出るよりも負担は掛からないはず。お願い、と声を掛けると部屋付きの侍女さんを掴まえて、許可を取りに行ってくれた。

 

 「では、ご案内致します」


 暫くすると侍女さんが戻ってきて、しずしずと頭を下げた。


 「よろしくお願い致します」


 私も侍女さんに頭を下げて、辺境伯邸の庭へと出るのだった。

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― 新着の感想 ―
転移魔法が、ある世界って かなり高度な魔法が、普通に活用されてた。 当然、妨害手段もあったのだろうな。 いずれ、転移ゲート的なネットワークが構築されるだろう。
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