ミッション:コンビナートを防衛せよ
ハイウェイエリアにてウェスター博士のサイボーグが現れた。
彼らの目的は大規模コンビナートの爆破と推測される。
迎撃するためシナキは甲冑ブルーを受領。
先導役のコトーニャ、ナビゲータのミルクルミと共に出撃を開始した。
果たして、ハイウェイで彼らを待つものとは。
ソニックランナーの最大出力は時速220km。
ただし、ライト及びヘビータイプのインセクトを乗せているため、重量で150kmしか出せていない。
それでも十分速いのだが。
しかし、相手がウェスターのサイボーグと聞いては黙っていられないシナキは、ハイウェイへ繋がる道をひた走るコトーニャの後ろで焦れるように言った。
「もっとスピード出ないのか!?」
「これで全開。おちついて、すぐに着くわ」
「でもよ!」
ハイウェイ襲撃の知らせを受けてから20分弱。
もし自分の到着前にコンビナートを破戒されてしまったらと思うと気が気じゃない。
そんなシナキへ真横を浮遊しているミルクルミの分身体が言う。
「しーちゃんはもっとどっしり構えてて」
「どっしり、って、お前・・・」
「ウェスターのサイボーグにはいまのとこ、しーちゃんしかまともに攻撃が通らない。うちの最終兵器ががたがた言わない」
厳しめなことを淡々という少女である。
そんなミルクルミの分身体、ナビゲーションスピリットは時速150kmのソニックランナーに平然とついてきている。
最大でどのくらいの速度が出せるのかは不明だが、ゴスロリ風の少女が高速で飛んでいるという姿はなかなかにシュールである。
「ミルクの言う通りよ。わたしたちはとにかく、敵の元へ辿り着くことだけを考えなきゃ」
「・・・分かったよ!とにかく急いでくれ!」
「わかってる」
コトーニャはシナキへと頷いて改めてアクセルを引く。
右側通行の道路は緊急事態発令のため一般車両が端へと寄せられており、緊急車両たるクリミナルハンターたちの車両が真ん中を進めるようになっている。
そのど真ん中を高速で飛ばすコトーニャのソニックランナー。
夕日が沈みゆく中を風を切り、段々と街灯がともっていく中を駆け抜けて、外環高架下へと向かっていく。
やがて車両は高速道路入り口へと辿り着き、そこから坂を上がってETCで通り抜け。
外環内部へ侵入すると、既に戦闘の痕がそこらに刻まれていた。
破壊されたロボットやケガをしたクリミナルハンター。
更には空中を縦横無尽に飛び回る敵味方問わずのドローンの群れ。
戦闘を中継するものからそれを妨害するために武装をしたもの、通信攪乱電波を出すものまで様々だ。
コトーニャのソニックランナーは障害物を巧みに回避しながらも速度を落とさずに進み、かなり進んだところで遠くに大きなコンビナートの姿が確認できた。
「あれか!」
「そうよ。まだ破壊されてはいないけど・・・」
「戦闘状況を確認。コンビナートの防衛部隊が出撃しているけど状況は不利、かなり指揮力の高いサイボーグがいると思われる」
ミルクルミの眼が緑色に輝き、現在の状況を知らせてくる。
彼女の本体はハンター本部にてコンピュータナビゲーティングを行っており、分身体で視認した情報と複合して全体へと情報共有を行うのが仕事だ。
「敵部隊はコンビナート破壊と接近するクリミナルハンター迎撃の二部隊に分かれている模様。ハイウェイ上の敵ドローンや飛行ロボットに注意せよ」
「敵ロボットだぁ!?」
「シナキ、上!」
コトーニャの鋭い声が早いか、マシンガンを装着したドローンの銃撃がソニックランナーを襲う。
複数の機体から放たれる乱射がアスファルトを穿つなか、コトーニャは華麗にハンドルをさばきながら言う。
「わたしは回避に集中するからシナキはショットバスターで迎撃をお願い!」
「わ、分かった!」
シナキは片手を中空に揚げると何もない空間がねじれ、その中からブルー用のショットバスターが出現する。
アイテムボックスから取り出したのだ。
これを粒子化で収納するという手もあったのだが、こっちの方がセキュリティ的にも取り出すスピードも早い。
インセクトの装着は粒子化でないと難しいが、ただ単純に武器出し入れをするだけならアイテムボックスの方が効率良いのだ。
初射撃。
宙にいるドローンへ狙いをつけると、インセクト・ブルーが照準を補正して腕の角度を調整してくれる。
「ブッ飛べ・・・!」
これなら安心して打てる、と思いつつ発射すると、ただの的のようなドローンは放出されたエネルギーの弾に直撃して爆散、破片が落ちる。
続けて一発、二発と撃って次々ドローンを堕としていくうちに、シナキ自身の中でナレッジが貯まっていく。
これは当たる、外れる、直撃か否か、どこに当たるか。
ブルーの学習型CPUとサイボーグである自分の学習能力が、精度を上げつつあるのだ。
また、限界までエネルギーチャージしたショットバスターの最大発射可能回数は350発で、5発まで連射が可能である。
「シナキ、次っ!」
あらかた進行方向に飛ぶドローンを打ち落としていると、今度は前方より10リッターの貯水タンクほどの大きさをした戦闘用ロボットが二体、飛んできた。
脚部はなくプロペラで飛行しており、両腕に相当する箇所には高出力のエネルギーライフルを装備している。
「あれがロボットか!人型じゃないんだな!」
なら逆に遠慮なく戦える、とシナキはショットバスターを構え直し、ダン、ダン、と連射する。
一発目はプロペラに、二発目は直撃して一体目のロボットは爆発。
二体目は光線のようなビームを放出してソニックランナーの行く手を阻むが、逆にソニックランナーが搭載している武器の一つであるミサイルが火を噴き、そのうちの一発が当たって四散していった。
「よし・・・!」
確かな手ごたえと共に、射撃の自信をつけていくシナキ。
同様のロボットやドローンを撃破しながらもソニックランナーは速度を下げずにひた進んでいき、ついにはコンビナートと繋がるビッグブリッジへと差し掛かった。
これはコンビナートへと繋がる唯一の道路で、片側3車線の大きな橋となっている。
「戦闘エリア、ビッグブリッジへと移行。既に先行しているクリミナルハンターは現在も交戦中。損耗率30%、撤退戦への移行を提案」
『コトーニャ!シナキ!ビッグブリッジに到着したな!』
フレッドからの通信が入る。
更に敵の数が濃厚になってきた状況だが、フレッドは悔しそうに彼らへ連絡をした。
『これより先行したハンターたちは撤退戦に入る!全軍を投入しておいて情けない限りだが、例のサイボーグを相手には敵兵の数を削ることで精一杯だった・・・!残りの敵機動兵器の掃討と、敵サイボーグの排除をお前たちに頼みたい!行けるか!?』
つまりは、ここから先は敵も増えるが味方からの援護は期待出来ないという事。
コトーニャはちらり、とシナキを振り返るが、彼からの返答は決まっていた。
「任せろ、おやっさん」
「了解です、司令官」
『ならば頼む、この一戦が、今後のウェスターとの戦いの進退を占うこととなる!』
通信が途切れる。
「敵性ユニット、多数。撤退する味方への誤射に注意」
ミルクルミの状況報告に、コトーニャは頷いてシナキへ言う。
「ここから先の露払いと味方撤退の援護はわたしが担当する!シナキはなるべく力を温存させて敵サイボーグと接触して!コンビナートが堕とされるまでの時間も少ないから一気に飛ばすわ!」
「おうよ!」
「ミルクはしーちゃんのナビゲートをつづけるよ~」
コトーニャはアクセルをふかすと、ソニックランナーに搭載していた武装をここで全開放した。
ミサイル、タンク部分に接続されたエネルギーショット、タイヤ横のマシンガン。
それの照準を一部インセクトに任せつつ、自身は片手に出したバズーカで大型の敵を狙い撃つ。
こちらを感応するのに遅れた敵のロボットたちは次々と直撃を受けて爆発していき、それは同時にコトーニャの攻撃の命中精度の高さを示している。
「流石ファーストクラスのハンターってか」
シナキが賞賛する通り、コトーニャの実力は他ハンターより頭一つ抜けている。
コトーニャは両親を犯罪者に殺されており、その事件を担当した当時ファーストクラスハンターだったフレッドに引き取られ、英才教育を受けたという過去を持つ、
ハンターとして厳しく育てられたコトーニャだが、フレッドの父親としての愛情もあって歪むことなく真っすぐに育った。
ただひたすらに、命を救う任務を遂行する少女に。
武器の弾を失うことで軽量化されたソニックランナーは段々と速度を上げ、コンビナートの入り口付近へと到達。
そこに陣取ってコンビナート守備隊へ攻撃を加えているロボット軍団へとバズーカを打ち込む。
だが。
その一発は突如として現れた青年風の男の指一本で弾かれ、虚空を舞った。
「!?」
コトーニャが驚きに目を見開くよりも早く。
その青年風は素早くソニックランナーを両断するかのように片手を広げて―――。
即座に飛び出したシナキ/ブルーに、横薙ぎに振られた手刀を両腕で防がれた。
「むむっ」
「行け、コトーニャ!」
「了解っ!」
間一髪、シナキに助けられる形になったコトーニャは、冷や汗をかきながらも自身のミッションである残敵掃討に向けてソニックランナーを走らせた。
残されたのはシナキとミルクルミの分身体、そして青年風の男。
彼こそがウェスター博士のサイボーグなのだろう。
男はシナキと距離を取ると、シャツの袖についた埃を払うような仕草を見せた。
「くそが、下等な人間などに手を触られちまった。なんて汚らわしい!」
「!?」
シナキは仮面の下で目を細めた。
ウェスター博士は自分を改造した後、容赦なく人格を抹消しようとした。
あのゼータというサイボーグも人格を失いウェスターの操り人形のようになっていた。
ゆえに、ウェスターに改造された者はすべて人格を奪い取られたものだと思ったのに。
「お前・・・自分の意志があるのか?」
「はァ?」
シナキが問うと青年はいかにも面倒くさそうに、苛ただし気に首をねじってにらんでくる。
その瞳は黒く、ただ黒く。
あらゆるものを見下し、拒否しているかのようだった。
「人間風情がなに俺に質問しちゃってんの?死ねよ?死ねよ!?」
青年は怒りの形相で地面を蹴ると凄まじい速度でシナキの背後へと回り、その首を掻き切るべく手刀を振るう、が。
改造されたシナキの身体と、ブルーというボディは即座にそのムーブを見抜き、首をかがめて回避を行った。
すかさずバックブローで反撃を行うがそれは皮一枚でかわされ、またも距離を取られる。
「やはりこの動き、サイボーグか」
「くそが!くそがくそがくそが!人間のくせになに抵抗してやがる!さっさと殺されろよ、このグズ!」
「待てって!オレはウェスターに改造されたサイボーグだ!お前もそうなんだろう!?」
「あ?」
再びシナキへ襲い掛かろうとした青年の動きは、その声にぴたりと止まる。
ブルーを纏ったシナキの姿を下から上へとまじまじ見た青年は、納得したかのように首を傾げてにやりと笑った。
「あー、あー、あー。ウェスター様が言ってた裏切者のオメガってのはお前かー。んじゃあ人間よりもクズじゃねぇか。さっさと殺そー」
「待てっつってんだろ!お前、ウェスターに人格排除されなかったのか?それだけでも教えろ!」
「はァ?人格排除だァ?」
シナキの怒号に一切ひるむことなく、青年は馬鹿にしたような面もちで見てくる。
そして両手をひらひらさせたかと思うと、やはり面倒そうに言葉をつむぐ。
「このタウ様がそんなものされるわけないじゃーん?人格破壊されるようなのはクソみたいに反抗的だったゼータみたいなクズだけだぜ。他の六騎士はきちんと自分の意志で生きてるっつの」
「・・・!」
「なに、お前も人格無くされそうになったクチ?ぎゃはは、ウェスター様サエてるぅ。こんなクズの人格なんてあっても一理もねぇもんなァ?」
癇に障る、タウと名乗った青年の喋り方。
だが彼の口にした事だけで、シナキは大体の察しをつけた。
ウェスターはこう言った、自分はサイボーグたちを指揮して人類を滅ぼすのだと。
つまりは最初から自分、オメガに人格は必要としていなかった。
ウェスターに絶対忠実な存在であれば良かったからだ。
次にタウはこう言った、反抗的だったゼータは人格破壊されたと。
なら他の六騎士はある程度の人格を残して、ウェスターに忠誠を誓うようにされていると推測できる。
なるほどな、と得心したシナキは仮面の下で喉を鳴らす。
「くくっ」
「・・・あ?なにがおかしいわけ?わけ?」
「いいや、お前みたいのが人格削除されなかった理由が分かったんだよ」
シナキはタウを指差し、煽るように言ってやった。
「よっぽどおまえの命乞いが、ウェスターに喜ばれたんだろうな」
あの男は人間の醜い部分を曝け出して嘲笑う性質を持っている。
だからタウの時も自分同様、皮を削ぎ繊維をむき出しにして叫びを上げさせたのだろう。
そして人格を消す段階できっと、みっともなくやめてくれと騒いだのだろう。
ああ。
その内容によっては、あの博士なら愉悦の表情で見逃してくれるかもしれない。
「ほら、オレにもやって見せろよ、不様な命乞いをよ」
「ンだと、くそが」
顔を真っ赤にして唇を震わせるタウ。
怒髪冠を衝くといった表情の彼は、首をぐりぐりとくねらせて感情をシナキへとぶつけてきた。
「この、このこのタウ様を馬鹿に馬鹿に、馬鹿にしやがってくそくそくそくそが!!」
瞬間。
彼はインセクターのスイッチを押し込む。
すぐさま彼の全身に粒子が張り付き、鋼鉄の鎧が形成されていく。
シルバーの色彩、逆三角形のような体躯に、長い棒の両端に大型の鎌がついた武器を持ち。
両肩には二門のエネルギーキャノンのような装備がついている。
これが、六星騎士・斗宿五天梁タウ。
「ウェスターサイボーグ・タウ。ハンターベースにデータなし。外見よりパワータイプのインセクトと推測。また、ショットバスターは効果がないと思われる」
「そうかい」
ミルクルミのナビゲートに従い、ショットバスターをアイテムボックスへとしまうシナキ。
そのまま格闘の構えをとると、じりじりと距離を詰める。
「殺して、殺して、ころころ殺して殺してやんよ!!このオメガ野郎!!!」
「ボキャブラリーが足りないぜ、サイコパス!」
大鎌を高速回転させて突撃するタウ、迎え撃つブルー。
史上初のウェスターサイボーグ同士の戦いが、いま幕を開けた。