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インターミッション~初出撃

クリミナルハンター本部にて司令官たるフレッドと出会ったシナキ。

コトーニャ、ミルクルミと続き初めての仲間であり理解者を得た彼は、最後の仲間であるというミズキーナという兵器開発者の元へ向かう。

そこでシナキを待つ武装フォーマットとは。

指令室から歩く事五分ほど。

エレベーターを降りて技術棟へ渡り、そこからまたエレベーターを経由して地下三階へ。

ようやく辿り着いたメカニックルームの扉を開くと、まず・・・内装がピンク色。

天井の中央にはシャンデリア、むせ返りそうなバニラの香り。

長椅子のソファとバーカウンターが置かれ、安い焼酎とウイスキーとロックグラスがテーブル狭しと配備されている。

いかがわしい店にでも入ってしまったのかと思いかねない。


「ていうかいかがわしい店ェ!!」


入った途端に出ようとするシナキの袖を握って引き留めるコトーニャとミルクルミ。

こうなることは織り込み済みだったのかもしれない。

一方、シナキは生前上司にこんな風な派手なキャバクラに連れていかれて、苦手な酒を吐くまで飲まされた経験がフラッシュバックしてしまう。


酒が嫌いというわけではない。

ただ、あんな無理やり飲ませるやり方や、それを見て笑う大人達の姿には反吐が出る。

なのでそれを彷彿とさせるこの場所からは一刻も早く立ち去りたいわけである。


「どうどう、落ち着いてシナキ」

「騙したなぁ!ハンターとか兵器開発とか何とか言って実はぼったくりバーの呼び込みだったんだぁ!!コトーニャの恰好もバニーっぽいし!」

「ぼったくるつもりならお化粧するから」

「しーちゃんメンタルが豆腐」

「しーちゃんとか呼ぶなぁ!いい大人に向かって!」


などと入り口でわいわいとやっていると、ミニスカボディコン衣装に白衣というもはや何の格好なのか分からないような格好をした、30代くらいの女性が色気を撒き散らしながらシナキたちの元へとやってきた。


「あらぁ?その子が例の改造人間クン?」


紫のセミロングヘアをガーリープリカールに巻いて煙管を片手に持っているその女性。

彼女こそがミルクルミの母親である―――。


「ママーつれてきたよー」

「やはりこの店のママかァ!」

「ママの意味ちがうよー」

「ふふン、なかなか元気な子じゃない。安心したワ」


彼女はシナキの顎下をつつ、と指でなぞると背を向け、近くの長椅子へと腰かけて焼酎の水割りを作り始めながら、片手間のように自己紹介を始めた。


「アタシがこの兵器開発室の主任、ミズキーナ・アジャーニ。ミルクの母親よ」


ミズキーナと名乗った女性は足を組んで完成した焼酎を・・・自分で飲みながら、カウンター裏にある冷蔵庫を指先で振るように指し示した。


「とりあえず好きなものを飲みなさいナ。ミルクはアルコール以外でネ」

「わーい」


とてとてと歩いて冷蔵庫を開けて牛乳を取り出すミルクルミを見て、もはや抵抗するのを諦めたのかシナキは財布を取り出そうとして持っていないことに気付く。


「・・・の、飲み代はツケで」

「いらないわよン。この部屋はアタシの趣味、別にこれで金稼ぎしてるわけじゃないワ」

「・・・じ、じゃあオレも牛乳をくれ」

「ほーい」


見回せばいくらでもあるグラスの中から適当に一つ手に取って、ミルクルミは牛乳を注いでシナキへと渡した。

コトーニャはオレンジジュースを拝借しているようだ。

全員に飲み物が行き渡ったところで乾杯を行い、一気に飲み干す。

ぷはーっ、と美味そうに息を吐いたミズキーナは、改めてシナキへと視線を向けて言う。


「フレッドチャンから話は聞いてるわよン?ウェスターのジジイと戦うための武器が欲しいんでしょウ?」


この状況でまじめな話を振られるとは思っていなかったシナキはしかし、呑まれっぱなしでは話が進まないと考えたのか表情を作り直して頷くことにした。


「ああ、あいつらサイボーグと戦うための武装が欲しい。ここにあるのか?」

「もちろん、あるワ。アタシの自信作をとくと見るがいいワ!」


言うなりミズキーナが指パッチンするやいなや、バーカウンターのテーブル部分がパカリと開いて、中から銃器がずらりと顔を出したではないか。

謎のギミックに驚きながらもシナキはもう、ツッコミきれないので放置することにして、そこに置かれた数々の武器をコトーニャと共に眺める。

ショットガンのようなポンプアクション式の銃を手に取ったシナキは、おお、と感嘆の声をあげた。

前世はどこぞのような銃社会ではなかったし、こうして銃器が手の中にあるというのは怖くもあり、興味深くもある。


「どしたのシナキチャン?それが気に入ったノ?」

「シナキちゃ・・・まぁもういいや好きに呼んでくれ。気に入ったわけじゃないけど、これはどういう銃なんだ?」

「それはビームショットライフル。ショットガンとライフルの特性をビームで再現しようとして出力が足りなかった、失敗作ヨ」

「んなもん置いとくな!!」


床に叩きつけてやろうかとしたが、一応銃器なので思いとどまったシナキである。

その横ではコトーニャがガトリング砲らしきものをしげしげと眺め、


「これは?」

「ハンターベース謹製、アトミックバルカン。一発一発に核兵器の威力を再現しようとしたけれど、一発一発放射能を放出するだけの失敗作ヨ」

「危ねぇ!!だからそんなもん置いとくなって!!」


コトーニャの手を引いて蓋を閉じようとするシナキである。


「ていうかさっきから失敗作ばっかじゃねぇか!まともなもんは無いのかまともなもんは!」

「モチロンあるワ!だってそこ、失敗作置き場だもノ!」

「あああもうツッコミきれねぇえええ!!とりあえずこんな人が酒飲むところに置いとくな!あと失敗作いらねぇから最初から完成品よこせやああああ!!」


頭を抱えて絶叫ツッコミしてしまうシナキである。


果たして無意義で無駄な時間を過ごしたシナキ一行は、ケタケタと笑うミズキーナの誘導に従ってバーカウンター裏にあった隠し扉を通って、ちゃんとした兵器実験場らしき、ちょっとした体育会館くらいの広さがある真っ白な空間へと招待された。


「あれは・・・」


ほう、と息を吐いてしまうような空間を見回すまでもなく中央に鎮座している外装。

全体が青く塗られたボディ、光の消えた瞳から流れる赤い線は血涙のように。

まるで西洋の甲冑のように飾られていたそれは、まるでシナキという主を待ち侘びていたかのように。

人間一人を完全に包み込めるサイズのサイバージャケットアーマーが、そこにあった。


「特撮ヒーローみたいな鎧だな」


シナキの抱いた第一印象はそれ。

近づいて触れると、彼の人工肌でも十分に感じられるほどの冷たさと存在感。

重厚感のある鎧をコトーニャが撫でて言う。


「この世界ではこういったアーマーの事を甲冑(インセクト)と呼ぶの」


インセクト、と反芻するシナキへコトーニャは説明を続ける。


「わたしが装備して戦っているのはライトインセクト。出力と軽さのバランスをとった、全身の数か所に取り付けるタイプだね。これはヘビーインセクト。全身をくまなく覆う、防御力とパワーを重視したタイプになるの」

「クリミナルハンターが戦う相手はサイボーグやロボットといった連中が多いワ。要するに生身じゃ勝てない相手ってコト。だから基本的にインセクトを装着するのはハンターとして必要最低限の装備というワケ」

「へぇー・・・」


説明を聞きながら視線は青いインセクトから離せないシナキ。

その視線を遮るかのようにコトーニャは顔を寄せる。


「このインセクト、『ブルー』は本当は失敗作。ミズキーナがウェスター博士に対抗するために超高性能機の製作に取り組んだけど、あまりの出力の高さと捜査性能のピーキーさで誰も使いこなすことが出来なかった。わたしも挑戦したけど、無理だった」

「パワーがありすぎるってのも考え物だったわけネ。みんな動かすだけでケガしちゃって大変ヨ。でも、サイボーグのアナタが装着するなら話は別ってワケ」


距離感のバグっているコトーニャにたじたじとしているシナキへミズキーナが注釈を行うと、ミルクルミは珍しく小さな笑顔を浮かべて、


「だいじょうぶ。ブルーはシナキを気に入ったみたい」


そういった。

まるでブルーというインセクトと会話でもしたかのように。


「ンフフ、ミルクの勘は当たるのヨ。さて・・・インセクトの説明はこんなところとして、次は武器の話をしましょうカ」


ミズキーナはミルクルミの頭を撫でると、ブルーの隣に置いてあった端末を操作し、足元よりせり上がってきた台に乗った銃器を指差した。

持ち手といい大きさといい、ちょっとしたチェーンソーを連想させる。


「これはハンター部隊が一般的に使っているショットバスターという銃を、ブルー用に耐久力をあげたものヨ。威力はさほど変わらないけど、ブルーが使っても壊れないワ」

「おいおい、それじゃオレが使わなくても他の奴が使えばいいじゃねぇか」


意外そうにシナキは大きく手を振りながら言うが、ミズキーナは悲し気に人差し指を頬に二度三度つけて目を閉じた。


「ン~、威力の部分を底上げしてもたかが知れてるのよネ。アナタの戦闘データを貰ったけど、アナタ、素手でゼータという個体にダメージをあたえたでショ?」

「あ、あー、そうだな。自分で言うのもなんだが、想像以上の力でビビったぜ」

「現在の我々の武器やインセクトで、ウェスター製サイボーグの装甲に効率的ダメージを与えられるものは数少ないワ。言いたいこと分かるかしラ?アナタ、アタシ達が作る武器よりも素手の方が強いのヨ」


言われて自分の手を見るシナキ。

確かに、最終的にはゼータの武器でとどめを刺した形になった事を思い出す。

ならばシナキの戦い方は、素手で何とかやりくりをしつつ―――。


「・・・時と場合を見て、敵から武器を奪って戦えって事か」

「イグザクトリィ!幸いなことに、ウェスターのサイボーグ以外ならショットバスターで十二分に戦えるワ。使い勝手も悪くないから、敵のところに辿り着くまではこれを使って雑魚を散らすという寸法ネ」

「・・・ふむ」


考えてみれば自分のステータスを表示させた際、固有スキル欄に『アイテムボックス』というものがあった。

あれを使えば、奪った敵の武器を取り出したり、仕舞ったりしながら戦えるのでは。

ボックスの容量が気になるところだが、検討しても良いかもしれない。


「そしてブルーの持ち運びに関しては、こうヨ!」


と、ミズキーナはシナキの左腕に縦長の腕時計のようなものを装着させ、その先端にある丸い大きなボタンを押下した。

すると青い粒子状になったブルーがみるみるうちに腕時計の中へと吸い込まれていくではないか。

驚きに声を上げるシナキへと、ミズキーナは自慢げに語る。


「新鮮な反応ネ!粒子分解したインセクトはその『インセクター』というブレスレットに収納することが出来るワ!つまり―――」

「好きな時にこのインセクトってやつを装着したり出来るってわけか!」

「イグザクトリィ!」


パチン、と指を鳴らすミズキーナ。

この世界において粒子化収納はかなりメジャーな技術であるのだが、そこは異世界からやってきたシナキ、珍しさと技術力に脱帽してしまうのも無理はない。


「ブルーのインセクターにはシナキチャンのデータが登録されてるから、シナキチャン以外の人間が装着出来ないようになっているワ。とりあえず一度、試着と動作確認を―――」


ミズキーナがコンソール端末を叩き、白い空間にCGによる訓練環境を現出させようとした―――その時。


緊急用のアラートが、クリミナルハンター本部全域に響き渡った。


『全ハンターに告ぐ!全ハンターに告ぐ!武装輸送用のハイウェイがウェスター製のサイボーグを主力とした戦闘集団に襲撃されている!進行経路から彼らの狙いはエネルギーコンビナートの爆破と予想される!』


これ以上ないほどに音量を引き上げられたスピーカーからは、冷静な声色でフレッドが呼びかけているのが聞こえる。


『コンビナートが爆発した場合の被害は10km圏内が更地になるものと予想される!更に生活に必要となる熱エネルギーの供給も難しくなる!クリミナルハンターは基地防衛要員を除き、直ちにハイウェイの敵戦力を叩け!!』


総員出撃の合図に思わず息を飲むシナキ。

戦闘、戦闘だ。

ゲームでもアニメでも映画でもない、本物の―――戦い。


「行こう、シナキ」


全身が固まりかけたシナキの肩をコトーニャが叩く。

自分の恐怖心を見抜かれたみたいで、少し叛骨心が湧く。

わずかに震える手をもう片手で抑え込み、シナキは力強く頷いた。


「ああ、行こう」


コトーニャの先導について走るシナキ。

少し遅れてコントロールルームへと向かうミルクルミ。

そしてワインの瓶を開けたミズキーナは瓶のまま酒を飲み、行ってらっしゃいと手を振った。

ワインの銘柄は『ボンボヤージュ』と刻印されていた。



※※※※※※



多数のハンターたちが出撃用のハッチへと集結し、各々のインセクトを纏い、武器を持ち、バイクやトラック、ヘリに乗って出撃していく。

その中を縫うように走ってきたコトーニャとシナキは、一台のバイクの前にたどりついた。

タイヤの代わりにエアフローターで空中浮遊が出来るようになっており、急加速・急停止・急旋回が可能となっているスーパーマシンである。


「これはソニックランナー。ハンターに支給される移動用の乗り物で、武器もそこそこ搭載されてるの。乗って!」


運転席へと乗り込んだコトーニャがインセクターを起動し、ライトインセクト『ムーンライト』を装着する。

ダークグレーの下地にレッドのラインが目を引くアーマーだ。


後部座席に乗り込む前にシナキは思案する。

これから戦いに行くという意味を。

自分と同じ境遇の異世界転移者を手にかけるという覚悟を。


覚悟を完了したシナキは、左手のインセクターを掲げ、右手の甲を口元へ近づけてからそのスイッチを押し込んだ。


「ゲットセット―――ブルー」


たちまち左腕より放出された粒子がシナキの全身を巡り、その足が、腰が、腕が、身体が、顔が、異形の青鬼へと変貌していく。

鎮座していた際には消灯していた瞳は白く発光し、戦いの時を今か今かと待ち望む。


ブルーを身に着けたシナキは軽々と5メートルを超えるジャンプを見せ、そのまま宙返りしてバイクの後部座席へと着席した。


「・・・なんでかっこつけて乗ったの?」

「そういう事言うな!い、行くぞ!」

「まってまって~」


コトーニャの天然なツッコミに仮面の中で頬を赤くするシナキ。

そこへやってきたのは、薄く発光・透過しながら空中浮遊してきたミルクルミであった。


「ミルク!?な、なんだそれ!?」

「これはね~、ミルクの固有スキルだよ~」

「ミルクはナビゲーションスピリットっていう分身体を飛ばすことが出来るの。この子の本体はハンター本部のコントロールルームで戦闘全体を観測しているわ」

「そゆこと~。このボディはイメージ体だから触れないし痛くもないけど、近くで感じたり指示出したりはできるよ~」

「へぇ・・・」


ふわふわと飛び回る、ゴーストのようなミルクルミに、本日何度目かの驚きにつつまれるシナキ。


面子は揃った。

準備も済んだ。

あとは行くのみ。


「それじゃ、行こう!対ウェスター特別遊撃部隊、コトーニャ・ステラチカ!出撃!」

「ミルクルミ・アジャーニ、いくよ~!」

「・・・シナキ・ユーヤ、出る!」


フィィッ、と甲高い音と共に浮遊し、勢いよく速度を上げて飛んでいくコトーニャのソニックランナー。

振り落されないようにするシナキと、その横を同速度で浮遊するミルクルミの分身体(ダブル)

果たして、ハイウェイにて彼らを待つものとは。


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