インターミッション~ハンター本部
異世界への転生を経て改造人間にされてしまったシナキ・ユーヤ。
ハンターのコトーニャと共にサイボーグ兵・ゼータを撃退するも、諸悪の根源たるウェスター博士を逃してしまう。
気を失ったシナキを抱えあげるコトーニャは、彼をどこへ連れて行こうというのか。
不思議な感覚があった。
全身がひんやりと冷たくて心地よい。
まるでジェルで全身をマッサージでもされているかのような。
それが終わると温かな感触で体中が包まれて、いい感じに温まったら細かな垢を鋭利なナイフのような金属で落としていく・・・みたいな・・・。
・・・。
いやいやおかしいだろナイフってなんだ!?
シナキの意識はそこで覚醒し、大きく目を見開くとそこには。
真剣な表情でデザインナイフをシナキの頬に当てている、10歳そこらの少女の姿が眼前にあった。
「なっ、ばっ、おいっ・・・!??!」
「はい、うごかない。もうすぐおわるから」
少女はシナキの額をぺしんと叩くと、黙々と作業を再開していく。
髭でも剃られているのだろうか。
そう思いながら空いた手で自分の顔に手をやってみて気付く。
―――オレ、人体模型みたいな筋肉繊維の露出した状態じゃなかったか!?
「おい、オレは―――」
「はい、うごかない。もうすぐおわるから」
上体を起こして全身を確認しようとしたシナキであったが、また同じセリフで額を叩かれて枕に頭を乗せる。
そう、枕である。
現状を説明すると、シナキはいま手術台ならぬ施術台に寝転んでいる。
傍らには明るい水色の髪の少女がシナキの頬にナイフを入れているわけであるが。
その理由はすぐに分かった。
シナキが寝ている台の上に鏡が設置されていたからである。
「肌・・・ある」
白人系の色合いではあるが、全身の肌が再生している。
肌だけではなく、仕事のストレスから生前には既に薄くなってしまっていたはずの髪の毛もふさふさと生えており、眉やまつ毛、唇に至るまで筋繊維が丸出しだった時とは大違いだ。
全ては夢だった―――とは思えなかったのは、あの線路へ飛び込む前といま目の前に映る自分の姿が合致しないからである。
生前は29という年の割に老けている印象だったが、今は20代前半と言っても差し障りないくらいには若く見える。
転生によって若返ったのか、それとも。
この少女が何かしているのが関係あるのか・・・そう。
例えば頬をナイフで削られているのに痛みを感じないのはやはり、この皮膚は人工のものだからなのだろうか。
眠って起きたゆえのすっきりとした頭で考える。
まず冷たいジェルのような感覚は、全身に液体皮膚を塗りたくっていたからなのだろう。
そのあとの温かな感触は液体状だった皮膚を固めるための作業、そして今少女がやっているのが形を整える作業なのだろう。
「・・・よし、おわり。おきて」
むふーっと満足げに額の汗を拭う少女に促されるまま立ち上がり、立て鏡に向けて全身を映してみるシナキ。
改造の名残か筋骨隆々な肉体に、170センチの身長と垂れ目がちな顔つき。
やせ細ってヒョロヒョロだった頃とは大違いだ。
しいて不満を挙げれば、生まれつきの金髪は再現しないでほしかったが、まぁ仕方ない。
本当は黒髪に憧れていたのだが。
そしてブーメランパンツ一丁。
そこは着替えとかなかったのか、と口の端をひくつかせるシナキ。
さらに言えば。
「・・・おいおい、まさかち〇こも人工皮膚か?」
「うん」
「マジかよ・・・って、剥けてる!生前仮性包茎だったのに!」
「じしんさく」
「やるなぁお前!すげぇ!なんか男としてワンステップ上がった気分だぜ!ていうかちょっと大きくなってね!?」
「それはしらない」
「お前が知らないとあのウェスターじじいの仕業って事になるんだが!?」
ブーメランパンツの中身が凄いことになっているのに喜ぶシナキと、褒められて喜ぶ少女。
なんだか意味の分からない怪しい空気が出来上がってる中、部屋の扉を開けて顔半分だけこちらの様子を伺っていたコトーニャの視線に気付いたシナキは、気まずそうにゆっくりと振り返ってニコリと引き攣った笑顔を浮かべた。
「・・・ども」
「ども。着替えたらこっち来てね」
「うす・・・」
手を振って扉を閉めるコトーニャ。
その表情が羞恥か怒りか幻滅かは分からなかったが、あまり良い印象は与えられなかった気がするシナキである。
「きがえはこちら」
変なところを見られて恥ずかしい気持ちでいっぱいのシナキへと、少女はシナキの体のサイズに合った服を準備してくれていた。
オーソドックスな白いTシャツに黒レザーパンツと黒レザージャケット、レザーブーツという、昭和の特撮俳優が着ていそうな服の取り合わせである。
これでドライバーグローブまであるのだから完璧である。中学生か。
しかも靴下は準備されてあるのにパンツの替えは無い。
どうやらこの世界の住人はオレにブーメランパンツを履き続けてほしいんだな。
そう考えて諦めたシナキは、用意された服に袖を通しながら少女へと尋ねた。
「色々聞きたいけど、まずお前の名前は?オレはシナキ・ユーヤ」
「ミルクはミルクルミ・アジャーニ。ここのオペレータ兼ナビゲータだよ。あなたの肌を直してたのは趣味」
「・・・ミルクルミ?」
「ミルクでいいよー」
ガタイのおかげか革製品が良く似合う自分にニヤってしてしまうシナキは、元の顔より三割り増しほど美形にしてくれた少女、ミルクルミに礼を言った。
「ありがとよ、ミルク。おかげでまともな見た目になれたぜ」
「どういたまして」
ぺこりと頭を下げるミルクは水色の髪をピンクのリボンでツインテールにしており、青系のゴスロリ服に身を包んでいる。
嘘でも見抜けそうな青い大きな瞳と天真爛漫そうな表情に、たどたどしい言葉遣いがいい意味でギャップとなっている。
シナキが部屋を出るとその後ろをちょこちょことついてくるミルク。
どうやらついてくるようだ。
「着替え終わった?うん、いい感じだね」
扉の横で待っていたのは、ウェスター博士を捕まえに来て結果的にシナキを助けてくれることになったコトーニャ・ステラチカだ。
気を失う前に比べてジャケットアーマ―の類は身に着けておらず、代わりに丈の短い白レザージャケットとハイレグのレオタードに薄手のストッキング、ハイヒールを履いているという露出高な恰好である。
早い話が耳のついていないバニーガールのようだ。
ただでさえ身長168センチ、バスト88、ウエスト59、ヒップ89という良スタイルをもつ彼女がそんな服装をしているのだから、男なら誰でも反応してしまうのは必然だ。
「そ、それ、私服なのか?」
「ん?そうだけど・・・変かな」
「いやオレは好きだけど・・・」
首をかしげるコトーニャに対し、助けてもらった礼をするのも忘れてオドオドとしてしまうシナキ。
いやいや逆に考えるんだシナキ君。
もしかしたらこの世界ではスタンダードな格好なのかもしれない。
じゃあいいじゃん。うん。と、半ば無理やり納得しつつ、シナキは鼻の下が伸びているのを悟られないよう話題を変えるのであった。
「ここは?」
「わたし達クリミナルハンターの本部。詳細なところは司令官がしてくれるから、ついてきて」
くい、と手を招いて歩き出したコトーニャの後ろを歩くシナキとミルクルミ。
シナキはコトーニャの食い込んだ尻は勿論の事、周囲も注意深く観察して自分のいた世界との違いを見比べる。
まず、敷地が広い。
あからさまに日本ではないというのは当然として、清潔且つ手入れの行き届いた床や壁は大理石のような素材でできているのだろう。
それだけなら自分のいた世界とはあまり違いが無い。
決定的違いは、天井から反対側の壁がガラス張りとなっており、外を走る車は宙を浮いている。
また、人間だけでなくロボット掃除機や警備ロボット、あからさまに見た目がサイボーグであることを隠さない輩などが慌ただしくそこらを駆けている。
大きな差は無いがやはり、自分のいた世界ではない。
あの忌々しい博士が言った通り、ファンタジー系の世界ではなく近未来系のサイバーパンクな異世界なのだろう。
それが今のところシナキが抱いた感想であった尻がエロい。
「ここだよ」
コトーニャが立ち止まった所はひときわ大きな扉の前。
鼻の下が伸びきっているのを手で覆って隠しながら歩いていたシナキと、よく分からずに真似して顔を手で抑えてついてきたミルクも並ぶように立ち止まる。
「ふふ、どうしたの二人して?」
「何でもねぇっす」
「ないよー」
振り返ったところで同じポーズをしているシナキとミルクを見て、笑いながら自分も同じポーズをとるコトーニャ。
そのまま扉をノックすると、
「入りたまえ」
深く低い声で入るよう中の人に促されて自動扉が横に開き、コトーニャ、シナキ、ミルクルミの順に鼻の下を抑えながら入室していく。
部屋の奥のデスクチェアに腰かけて待ち構えていた、軍服と帽子を身に着けた壮年の男性はしかし、三人の様子を見ると拍子が抜けたかのように目を細めた。
「・・・鼻血かね?」
「いえ」
「これは」
「ちがうよー」
「?ふむ・・・よく分からんが、まあいいだろう」
黒のオールバックに軍帽、グリーンの軍服、腰に差した剣。
見た目の厳つさからは分かりづらい寛容さを見せるその男。
無精髭がまばらに生えているものの、その存在感と威圧感は隠しようがない。
シナキを見ると立ち上がって帽子のつばの向きを直したその男こそが。
「よく来てくれた、シナキ・ユーヤ君だったね。私はこのクリミナルハンター本部の司令官を務めている、フレッド・クレイスターだ」
デスクを回ってシナキの前までやってくると握手を求めるフレッド司令官。
新たな皮膚はちゃんと汗をかく機能もあるのか、じんわりと手の平に染みた汗をズボンで拭って握り返すシナキ。
しかし。
「ぬ・・・」
みし、と。
軽く握り返しただけのつもりが想像以上に力を込めてしまったらしく、フレッド司令官は鋭い痛みを感じて手を引っ込めてしまう。
その様子にシナキは慌てて弁明する。
「す、すみません!オレ、力の加減が・・・!」
「いや、いい。悪気が無いことは分かるさ」
もしかしたらヒビの一つも入ったかもしれないが、それを感じさせないよう平静を装ってフレッドは笑顔を作った。
逆に表情を失ってしまうのはシナキだ。
今の自分の身体は、気安く他者へ触れることも許されないのか。
「ウェスター博士の改造とはとてつもないものだな。私も握力には自信があったのだが、やはりサイボーグには及ばないようだ」
「・・・ごめんなさい」
おどけた風に言うフレッドに、表情暗く謝るシナキ。
これが元の世界の上司相手であれば、必要以上の怒号と罵声が飛んでくるところだったが、フレッドは人間性がしっかりしているのだろう、特にそれ以上言及せずシナキの肩を叩いた。
「気にしなくていいさ。それより、私としては君の話が聞きたい。我々はいま、ハルトマン・ウェスター・グーリッシュ博士を最優先の目標として捜査を続けている。君は異世界からやってきたと聞いた。ここはひとつ、私達と君で情報交換をしないだろうか?君の話から我々はウェスターの手掛かりを得られるかもしれないし、君もこの世界の事を知りたいだろう?」
自分達は同じ目線で、対等に話が出来る。
そう付け加えたフレッドの言葉に、シナキは心にあふれ出した幾多の感情を抑えられなくなっていた。
「―――オレは・・・!!」
気付けばシナキは、異世界に来る前の事からこれまでの事を事細かに話した。
親と呼べる人がおらず、唯一の肉親である祖母からはネグレクトを受けていた事。
外国人とのハーフということでいじめや偏見、暴力を受け続けてきた事。
ただひとつの取り柄だった空手も交通事故で再起不能になった事。
ようやくありついた仕事もブラックすぎる勤務形態なばかりか、アルツハイマーになった祖母の介護のために給料の殆どが使われてしまった事。
そして、祖母の死後は自分が何のために生きているのか分からなくなった事。
たどたどしく、ともすれば聞きづらく、分かりにくかった箇所もあったかもしれない。
それでもフレッドは、コトーニャは、頷いて、促して、理解を示してくれた。
ミルクルミも静かに耳を傾けてくれた。
誰も聞いてくれなかった事を。
誰も気にしてくれなかった事を。
彼らは親身になって受け止めてくれたのであった。
やがてウェスター博士に改造されて今に至るまでを語り終えたシナキは、我に返ってばつの悪そうな顔をした。
「・・・すみません、急にこんなつまらない話を・・・」
「つまらなくないよ。今までよく頑張った」
フレッドは項垂れるシナキの腕を力強く掴む。
先ほどヒビを入れられた手で。
「そこまでの経験を経ながら犯罪に逃げなかったのは立派だ。君は間違っていない」
真っすぐにシナキの目を見ながらフレッドは続ける。
それは見つめ返すシナキの目から見ても信頼に値する、”男”の瞳であった。
「シナキ君、君は強い男だ。よくここまで逆境に立ち向かってきた。これからは我々が味方だ、何かあれば何でもすぐに相談してくれ」
「・・・おやっさん・・・!」
「いやそんなに歳はとっていないぞ!?」
感極まっておやっさん呼びしてきたシナキへ思わずツッコミなフレッド36歳である。
くすくすと笑うコトーニャを垣間見て咳払い一つ、フレッドはまたデスクチェアへと座り、シナキたちへデスク前のソファへ座るように促した。
「さて、では君が知りたいであろうこの世界について説明させてもらおう」
「ああ、頼むよおやっさん」
「・・・私はおやっさんで確定なのだな?」
苦笑いするがしかし、仕方なしに受け入れたようでシナキへの説明を開始するフレッド。
彼の語ったことをかいつまんで説明するとこうだ。
・この世界の名前はディ・ヴォルド。
・科学力が発達しており、人間とロボット、サイボーグが共存する世界であること。
・サイボーグと言っても欠損した手足を機械化する程度で、全身を改造しているのはシナキたちウェスター製サイボーグのみとのこと。
・犯罪の高度化や規模の拡大によって警察だけでは対応出来ない事件に対応するために組織されたのがクリミナルハンター。
・異世界人が転生してくることは稀であったが、近年は一年に一度のペースで観測されるようになったとのこと。
・10年ほど前、異世界人が転生してくる際の反応をキャッチする機械を制作したのがウェスター博士であり、それを利用して異世界人を集め始めたのも博士であった。
・そして去年、明確な世界に対しての反乱を宣言し、6体のサイボーグを配下に各地で暴れだしたとのこと。
・既に全世界の主要都市の一割はウェスターに抑えられている・・・とのことである。
「以上がこの世界の状況だ」
モニタ画面を使用しての説明に頷いて、シナキは疑問をフレッドへ投げかけた。
「あのサイボーグ・・・ゼータって奴と交戦したけど、そこのコトーニャと戦闘力が段違いだった。もしかして」
「そう、異世界人は皆、ステータス値が異常に高い。ウェスター博士に強化改造されているから尚更な。コトーニャもこの世界の人間の中では最強クラスの戦士なのだが・・・」
「わたしたちファーストクラスのハンターが束になって、ようやく相手に出来るか出来ないかってレベルの強さなの。そのファーストクラスのハンターも、ウェスター博士のサイボーグにやられて残り少ないわ」
「ウェスターに改造された以外の異世界人はどうしてるんだ?」
「残念ながら、残っていない。我々側についた者は皆、ウェスタ―博士のサイボーグに殺されたり、拉致されたり。拉致された者もこれからまた改造手術を受けるのか、もしくはもう手術に失敗して死んでしまったのかもしれない」
「・・・クソみたいな話だぜ」
「今はまだ個性の強いサイボーグたちをまとめるリーダー役が居ないためなのかウェスタ―博士側の動きは散発的だ。だが、我々にはその隙をつくための戦力が無い。このまま待てば待つほどウェスタ―博士にとって有利になるのは間違いない。異世界人の転生を特定するための機械も、彼が握っているからな」
「そうやって異世界人がどんどん犠牲になっていくのか・・・」
現状の情報としてはこんなところだろう。
もしくはまだ見つかっていない異世界人・・・例えば赤ん坊としてこの世界に転生した者がウェスタ―博士に捕らえられずにいたとしても、だ。
その子供が成長するまで待つことはまず無理だろうし、ウェスター博士もそれは承知だろう。
フレッドはコトーニャに淹れてもらったコーヒーを飲み干すと、だからこそ、と前置きした上でシナキへ頭を下げた。
「君の力が必要だ」
「おやっさん」
「異世界人のサイボーグの力は強大だ。まともに戦っても、奇をてらっても勝てる見込みは無い。だが君ならば・・・いや、君以外に奴らと戦える力を持った者はいない」
「・・・・・・」
シナキは、フレッドの言葉を噛みしめながら自分の掌を見る。
確かに、戦力差を見れば自分があのゼータのようなサイボーグと戦わなければならないのだろう。
それはとても孤独で、敗北の許されない戦い。
自分には戦闘経験などほとんどない。
あのゼータとの戦いも、改造された自分のスペックでゴリ押したに過ぎない。
ただ運が良かっただけだと、シナキ自身は評価していた。
だがそれでも。
やらなければ、自分のような人間が増えていく。
逃げるわけには―――いかない。
「ウェスターはオレが殺す」
フレッドに頭を挙げるよう促すと、シナキは立ち上がりその瞳を怒りの色に燃やして宣言した。
「そう決めた。だから迷わない。もしもこの手で、オレ以外の異世界人サイボーグを殺すことになったとしても・・・」
ぐ、と拳に力を込めて。
「そいつらの分まで、戦い抜いてみせる」
頷くコトーニャ。
微笑むミルクルミ。
少し安心したように軍帽をかぶり直したフレッドは、複雑そうに自嘲する。
「情けない話だ。なんのかの偉そうにしておいて、結局全て君に丸投げしようとしている」
「気にしなくていい。オレはオレの出来ることをするだけだ」
「・・・ありがとう」
あらためて、今度は力加減を間違えずに握手をするシナキとフレッド。
コトーニャとミルクの小さな拍手を受けながら、フレッドは辞令を出す。
「現時刻をもって、シナキ・ユーヤをクリミナルハンター付のハンターとして登録する。ランクはサードクラスだが、対ウェスター特別遊撃手としての行動時のみファーストクラス同等の権限を付与する。以後はコトーニャ・ステラチカ、ミルクルミ・アジャーニ、ミズキーナ・アジャーニとチームを組んで行動することを命ずる」
「了解」
「ラジャー」
「らじゃ」
シナキ、コトーニャ、ミルクルミは並んでフレッドへと敬礼を行う。
共に戦う仲間と理解ある上官。
生前は終ぞ得ることが出来なかった大切なものを、シナキは初めて得ることが出来た気がしていた。
※※※※※※
「・・・ところで、さっきおやっさんが言ってたミズキーナってのは」
「ミルクのママ」
司令室を出たシナキが疑問符を浮かべると、背伸びしながら手を伸ばすのはミルクルミ。
コトーニャはその小さな頭を撫でながら、シナキへと視線を向けて注釈した。
「ミズキーナはハンターベースのウェポンデヴェロッパー。兵器開発の腕は随一よ」
「へー」
「これから案内するからついてきて」
と、またもシナキに背を向けて歩き出すコトーニャは、肩越しに振り返りながらニコリと笑って言った。
「忙しくなるわよ。そのままじゃシナキも戦えないでしょ?」
「んん?」
「ちゃんとサイボーグらしく、武装フォーマットをしなくちゃね」