圧巻。その男からは情熱の音が聞こえてきた
周りはなぜか唖然としているが俺はなんなく‘’突破‘’の証として左の踊り子の列に並ぶことが許される。
一人目が‘’突破‘’であったことで右の列へやっと並び出す連中が現れる。突破難易度が低いと踏んだのだろうか。しかし2人目3人目とも変顔、口笛を披露し、なかなか様になってはいたもののあっさりと脱落。次なる4人目、5人目も脱落。6人目のスキンヘッドが太陽光反射ダンスと言うわけのわからないことをやり、二人目の‘’突破‘’となった。
「おーい、もういないのか?そろそろ締め切るぞ」
それを聞いても慌てず、ゆらりと前へ進み出たのは先ほどスキンヘッドをすっ飛ばした目つきの著しく悪い長身。サラサラした髪質なのにオールバックなのが特徴的だ。
「エアピアノ」
一言そうつぶやいたオールバックはなんと空気イスの体制をとった。目をつぶり深呼吸する。
「そりゃエアーイスだろ!」
どこからかヤジが飛ぶ。
しかし俺は気づいた。あれは精神統一のルーティンだ。
オールバックの手首がくっとつり上がる。
圧巻。ピアノなどどこにもないと言うのに、まるでメロディーが聞こえてくるかのようなメロディーの洪水を俺たちは確かに聞いたような気がした。実際には無音。だが男の鍵盤を叩くパッションは広場を完全に支配した。ざわざわしていた群衆をぴたりと静まらせたと言う点で演奏前より場は静寂に包まれたとも言えるだろう。
その男からは情熱の音が聞こえてきた。と俺は男に興味は無いそのはずなのにそいつが危なげなく予選通過に滑り込んだ時点で俺はそいつへの興味が消えない所が増していることに気づいた。
こいつ一体どんなやつなんだ。あれだけのパフォーマンスを見せられたら仕方ない。しばらくは記憶に家でも残るだろう。
などと考えていると例のオールバックからの視線が俺に向いているらしいことに気づく。
俺はただ「早口」を披露しただけ…だよな。ちょうど数日吟じていなかったからトレーニングの一環としてやってみた。運良く通過してしまったわけだが。…最終的な通過者は4人か。少ないなぁ。
「繰り返すが勝利の鍵は聞いたことのないオーケストラだ。王の耳を唸らせる素晴らしいオーケストレーションを期待する!では解散っ!」
「おーいどうする共に残ったけどよ?!」
人だかりが散った広場でスキンヘッドが騒ぎたてる。
予選突破したのは俺スキンヘッドオールバックそしてメガネの野暮ったい女…か。
おいおい勘弁しろよスキンヘッド。ここで作戦会議とかないだろう敵同士なんだし。
とは言え他の連中落ちてしまってバツが悪いのだろうか散り散りになっていなくなってしまっていた。こいつらに頼んでみようか。
「お前らに頼みがあるんだが…」
あまりためらいなくまずは切り出してみる。途端に目を向くスキンヘッド。
「おいおいふざけんな。俺たち敵同士だろうが頼みってわざと負けるとかの取引の提案としか思えないんだが?」
オールバックもあきれた表情している。「俺は誰ともつるまン」
「なるほど道理だな。実は本戦用の楽器を作るために急遽お前たち男2人の力を借りたかったのだが仕方あるまい。敵に塩を送れと言う可能な申し出をしてすまなかった」
素直に謝りその場を立ち去ろうとする。するとスキンヘッドが食い下がってきた。
「ちょ待てよ楽器を作る?!今からか?!」
「あーそうだ。ただ1人でも間に合いそうだ。俺なら…な」
再び立ち去ろうとする俺をもうどちらも止めなかった。
しかし宿に入りかけた俺の袖をツンツンするやつがついてきていたのだった。
「ただ今よりウォータリングサンド宮廷専属オーケストラ、シンフォニックサンドの組織決定戦を行う!予選突破したものは前へ!」
俺はためらうことなく堂々と前に進み出る。
「エントリーナンバーワン!早口での予選突破!アシンメトリーな銀髪が涼しげな吟遊詩人『セブラン!』」
「エントリーナンバーツー!太陽光反射ダンスでの予選突破!屈強なスキンヘッドの『ビューティースキン』だー!」
頭を光らせつつ登場するスキンヘッド。
「うわ、あいつ男なのにビューティースキンとか言うのか」
俺は少しげっそりした。
「エントリーナンバースリー!エアピアノでの予選突破!手首で語る男、『ラザファルト・ベラドラゴン』だ!」
オールバックが予選の時よりさらに目つきを悪くして登場する。
「あいつドラゴンとかかっこいいなぁ」
俺は率直に感想をつぶやく。
「エントリーナンバーフォー!ストロベリーブロンドに目が見えないほど分厚い眼鏡の紅1点!『ルス・ストロベリー』だ!」
確かにルスってどんな目をしているのか全くわからんなぁ。興味もないなぁ。と思って改めてストロベリーを見ると何故かこっちを見ていた。にこっと口元を緩めるストロベリー。どうやら懐かれてしまったらしい。あいつに別に興味は無い。が、俺はあいつが思う以上に相手への感謝があった。なぜなら昨日の晩、楽器作りを手伝ってくれたのはルスだったからだ。間違いなく借りができたと言える。
「そしてシンフォニックサンドの登壇だー!!」
フルオーケストラの人型の説明。
「そして王のご登壇である!全員面を下げよ!」
全員頭を伏せる。王が現れたらしい強いことが気配で伝わる。
「面を上げよ…余はいちど聞いた旋律は二度とは聞かない。どんな良い曲であっても。なぜかわかるか?すべてこの頭に入っているからじゃよ。好きなときにその時の感動を蘇らせて脳内再生できる。今まで古今東西あらゆる音楽を集めてきた。二番煎じや三番煎じは通用すると思うな。我が脳内にない音楽を少なくても披露せよ…。この際拙い技術や破綻した不協和音であっても構わん。余は聞いたことのない音楽が聞きたいのだ!」
「怖」
俺ははっきりって王の煽るスピーチに燃えた。
「本線の順番は予選突破の逆順となる!まずはエントリーナンバー4!ルス・ストロベリーからだ!準備ができたら貴様のタイミングで演奏を初めて良い!」「…」「返事は無いのか?」「ああ…かしこまりましたと言ってるぞ。審判の人」「そうであったかしかし聞こえなかったが…敵が言うならば確かなのであろうな。ルス・ストロベリーはちょっぴりシャイなメスであるのだな」
途端に不快そうな雰囲気を出すストロベリー。
「…」「あー…お前はちょっぴりきもいオスであるのですねと言ってるぞ」「何?!」審判は赤くなりだした。 「審判ー!ストロベリーちゃんにセクハラすんなよなー、職権濫用かよ」
審判は周りに見物が大量にいることで冷静さを取り戻したようだった。
ストロベリーが歌い出すと俺の時が止まった。というか文字通りストロベリーの声の届く範囲の時が文字通り止まった。俺だけが何が起こっているのか理解できた。ストロベリーの声が良すぎて、俺含め全員放心状態で体感時間が完全にストップしましてしまっているのだ。人間の聞き取れない超高音域の旋律でありながら温かみのある金管楽器のような音色。他の連中は聞き取れない故になぜ自分の体感時間がストップしているのか理解できずこの後歌が終わったときパニックを起こすだろう。
俺はDTMerゆえ超高音のリフを隠し味でこっそり入れて遊んだりしてたので耳が特別よく、普通に聞き取ることができた。
案の定ストロベリーが歌い終わった広場はパニックに陥った。
「貴様…魔女か?!失格にするぞ」
俺はストロベリーに借りがあるため口を開く。
「あーそいつがやったのは魔法とかじゃなく…」
「黙れ!エントリーナンバーワン!さっきから何通訳してる!うらやま…けしからん!もう我慢ならんオーケストラの譜面にもなってないし!女をつまみ出せ!」吠え始める進行係。「良い。余はかろうじて聞き取ることができた。これ以上自分の耳が鈍感であることを晒せば退場することになるのは進行係、貴様の方ぞ。女子はオーケストラの譜面に匹敵するパフォーマンスをした。気づかぬか」
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