砂漠の都のお触れは聞いたことのないオーケストラ?!
一斉に注目を集める中、ガタイの良い緑髪の短髪男と可愛らしいコスプレとしか思えない踊り子のようなかっこうをしたお姉さんが2人かしづくように現れる。いや踊り子にしちゃちょいと筋肉質すぎないか?2人とも。右の踊り子は黒髪ショートにグリーンアイという恐らくレアな組み合わせだ。スリムでスポーティーな雰囲気だが胸というより胸筋が発達しているように見える。いわゆるハト胸というやつだ。
「セラちゃーん!今日もスレンダーでかわいーっ」
ふむ。セラというらしいな。
左の踊り子はフロストブロンドにブルーアイという萌えアニメでは王道の冷たげお姉さんだ。むちむち肉感的で胸などまろび出そうなのに指だけふしくれだっている。
「エスシスカ姉さん!今日も冷たく見下す眼差しが氷の女の名にふさわしいっ」
ふむ。エスシスカっと。
こいつらはモブ踊り子ではなく、もしかしたら…。
「これより王からの発表を行う!!」
「王直属の宮廷音楽家の募集であるッ!」
音楽家?吟じてるのと関係なきにしもあらずだが。とっさに自分がエントリーした時のことを想像してみる。宮廷音楽家など、生前の俺よりも窮屈なものなのだろうな。馬車馬のように作らされてはリテイクの嵐…。
「あらかじめ言っておく!今回採用された暁には!!王直属の宮廷フルオーケストラ集団シンフォニック・サンドの総指揮の権利を得ることができる!!」
途端にどよどよっとなる群衆。
「シンフォニック・サンドの?!」「信じられない。ふつうの庶民には目線さえよこしてくれないあの孤高集団のそのトップに?!」
そんな地位や名誉に興味は無い…が。フルオーケストラ集団が使い放題だと?それがどれほどコストのかかることか俺は知っている。「いや…待てよ。総指揮って事は…」「そう!採用人数は1人!たった1人である!こちらが求めるのは成虫の声のみ!本当に一流のものしかとらん所存だ!」「や…やはりか…」「あまりにも狭き門すぎるぜ!」「厳しいかぁ、いや待て!選抜方法次第では…!」「選抜方法についてだが挑戦者には各々フルオーケストラの譜面を書いてもらい、実際に王の顔前にて披露してもらう!!その際宮廷オーケストラ隊シンフォニック・サンドを使ってくれて構わない!」フルオーケストラに演奏させることができるのか!
「ただし王の眼前にて披露するには予選を突破が条件となる!聞くに耐えない雑音までもダラダラとお聞かせするわけにはいかないからな。こちらでかなりの数を予選で絞らせてもらう」
「そりゃそうか」「王の前でフルオーケストラ用いて披露しただけで俺の実績にはなるぜ!」「てかお前フルオーケストラの譜面かけんのかー?」
「そしてっ王の眼前で披露したにもかかわらず最も優れた譜面と認められなかった者…すなわち‘’脱落者‘’は今後この都に不要な者とみなし…ウォータリング・サンドを永久追放とする!!」
「えー!!重すぎる…!」「この先進の都で出て砂漠の1滴の憩いの水の都を去らねばならない?!」「あたりは1面砂漠だぜ」
すると踊り子の1人、セラがにこっと微笑んだ。
「1週間分の水と食料あげるから大丈夫だよ!」「怖っ!」「どんどん挑戦してね!」
気がつくとざっと100人以上が広場に集まってそれぞれの反応を示していた。
俺は隣にいたスキンヘッドに聞いてみる。
「おいこの都の人間は一般的にフルオーケストラの譜面が書けるのか?」
「は?書けるわけねーだろ。今日は音楽関連の御触れて触れ込みだったから、そーゆー連中が集まってきてるだけだろ」「ふむ。そりゃそうか。ところでお前は書けるのか?」「俺は俺は書ける。挑戦してぇ。シンフォニックサンドの総指揮になりたいと思うぜ」
スキンヘッドはきっぱりと言い切った。「でお前はどうなんだよ1カ月間の男?書けるのかよ?」「そうだなぁ。ちょっと千曲は書いてきたなぁ」「は??」「まぁそんだけ書いたら最後の方はおふざけにも走るがな」「選曲?おふざけって…それオリジナリティーってやつが見えだしたんじゃねーのか?」
俺の曲数提示を受けて騒ぎ出すスキンヘッド。ドスッ!と後から蹴飛ばされる。
「おいうるせーヨ。まだ御触れの説明中だろうガ」「それは失礼した」
蹴飛ばされて吹っ飛んだスキンヘッドの代わりに謝る。うるさいと発したのが黒ずくめ長身のオールバックにとんでもなく鋭い四白眼の釣り目が迫力あっただから…ではない。普通に説明中だからな。つーかこいつカタコトだけど遠方から出向いてきたのか?
「選抜攻略のキモを1つだけ授けよう。ズバリ王は‘’聞いたことのないオーケストラ‘’を切望されている!」「む…難しい!」「お題とかじゃなくてアバウトすぎる…!」「あらゆる音楽をいつも聴いていらっしゃる方の耳に耐えうる譜面だけでも相当なプレッシャーなのに聞いたことのないとは…!」
動揺する群衆に満足したのか、「質問を受け付ける」どん!と偉そうに言う緑髪の伝令係。俺は迷わず手を上げた。
「楽器の持ち込みは認められるのか?」「宮廷オーケストラの最高級のものより良いものが用意出来るとでも?と切り捨てたくなる質問だが正解はイエスだ。ふふ、よく考えているな若者よ」
なんか褒められた。
「他にはないな?」
「待ってくれ、日時は?」
「予選がこれから、本戦は明日だ」
「はあああ?!早いっ!」
「他にはないな?ではこれより王直属宮廷オーケストラ総指揮選抜試験の予選を開始する!」「やはり今からかよ!」「だが予選落ちなら都追放はされないんだろう?!」
「予選の内容を説明する!一人当たり制限時間1分以内となる一芸披露である!エントリーするものは右の踊り子セラの前へ1列に並んでくれ!」
「一芸ってなんだ?!」「説明がざっくりすぎる!」「早くさばきたいんだろう」
スキンヘッドは比較的落ち着いてあたりを見回した。
「何せこの人数だ…」
なるほど。増えてきた人だかりを見るにざっと100人ぐらいはエントリーしそうだ。急いだほうがいいな。早めに予選通過が決まってエントリーが締め切られたら敵わない。そうは思ったが。実際率先して列に並ぶとするやつはいなかった。みんな興味ありそうなのに…様子をうかがっているのか?
俺はためらわず先頭に並ぶ。顔を綻ばせ、安心したような雰囲気を出す右の踊り子。しかし隠せない。獲物を品定めするような鋭い視線。それになんだろう?このゴツゴツした女らしからぬ手は?
しかし手先以外のパーツは非常にたおやかで目の前の存在が間違いなくメスであることを物語っている。
とまずは予選だ。一芸披露と言っていたな。俺は1分間に3000文字しゃべれると言う特技を活かして「早口」で勝負することにした。