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追放された天才作曲家

お久しぶりです。よろしくお願いします!

ーー世界のどこかにはブルークリスタルでできた300鍵の巨大ピアノがある。その音色は他のどんな楽器のものよりも美しいという。ーー冒険家トリクトラム




「セブラン。


お前のような無能な作曲家は追放だ」


ここは川沿いの交易都市サフィア。


太陽がギラギラと眩しく、日差しが非常に強い砂漠の一歩手前の土地。


地面に当たる強烈な光の反射で首筋はジリジリ焼け付くようだ。


だがオレが焼けつくような感じがするのは暑いからじゃない。


眼前にいるオレの雇い主である国王とその背後にぐるりと控える、昨日まで仲間だったはずの宮廷オーケストラ陣が冷ややかな目で見下してくるからだ。


「どうしてですか?オレ何か失敗しましたか」


「何か失敗しましたか、じゃない。


お前の作った曲は誰一人演奏できない。


いったいどうなっておるのだ? 


お前自身ももちろん弾けぬと申すし。


それなのに楽譜はどんどん山積みに増えていく……。


聞けぬ曲を作るやからを雇っておく意味はないから追放なのだ」


「ふむ。それは……」


その時国王のすぐ背後にいた線の細い黒髪の短髪が叫んだ。


「そーだ!そーだ!弾けやしないんだよ!


つーか死ねっ。


無能に給料泥棒しやがって。


追放とか国王様甘すぎやしませんかー?」


サスペンダーでズボンを吊るした個性的なんだか貴族風なんだか分からんその格好の男はオレの同期のクマズバディだ。


楽器はトランペット。


の割にひょろりとしたもやしで腹筋鍛えてない。


同期だからオーケストラ陣の足引っ張ってるなーと思っても何も言わなかったが、それはオレは友人だと思ってたからなんだがな。


「そーよ!そーよ!難しすぎ!


死ななくてもかなーり苦しむべきっ。


あなたの曲なんか弾けたとしてもどーせクズ曲に決まってるから、練習する気も起きないしー」


クマズバディに加勢するように合いの手を入れたのはかわいさの架け橋ハシー嬢。


フリフリのイエローの膝丈ドレスに身を包み、金色のたっぷりしたサイドテールはフサっと揺れる。


いつの間にかクマズバディに寄り添うように立っている。


「くまくんはあなたの無茶振りにずーっと心痛めてきたんだからねっ。


くまくんを傷つけた責任は取るべき!


あなたみたいな顔だけの無能は中身もあるくまくんたちに床に顔つけて謝るべきっ」


なるほど。そういう流れか。


というかハシー嬢オレキミのことちょっとだけ本気ですきだったんだけど……。


嫌われてたの?


なんでクマズバディの隣に寄り添ってクマズバディの代わりにオレの避難してるわけ?


国王がまた一歩オレに向かって踏み出したので、まだ色々言いたそうだった二人はおとなしくなった。


「余は楽器のこととかはよく分からんが、このように選りすぐりばかり集めた宮廷オーケストラ陣が全員お前の作った曲は引くに値せぬといっておる。


全会一致じゃぞ?


だから追放なのだ」


は?全員なのか……クマズバディめ、全員抱きこんだのか……。


国王の指摘は正しい。


なぜならばオレは作曲家のくせに宮廷オーケストラの弾けない超ロングトーンの曲とか超速弾きの曲とかばっかり作っていたのだ。


しかし、超ロングトーンは肺活量を鍛えれば吹けるはず。


超速弾きも技術次第で理論上可能。


つまり易しい曲を作るのが苦手なんだ。


それは聴いて良いと思われる曲を作りたいという矜持ゆえだが。


てゆか選りすぐり?


選りすぐりならある程度弾けてもいいはずだが……。




国王はこれでとどめとばかりに言い放った。




「最後のチャンスをやろう。


演奏しろ……お前の作った曲を、できるものならな!」




「無理だ」




オレは楽譜ならいくらでも書けるが、演奏はさっぱりだった。




知ってて最後のチャンスとか言ってんのか……?




こうしてオレは自分の曲を弾けずに国外追放となった。


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